玄関の扉に手をかけ、開けようとしたその時。
なんとなく庭の方が気になって振り向いた。
すごい勢いで後悔した。
ごにん暮らし その3
庭ではなんかベムがやたらとビンを積んでいた。
ビンなんて積んでどうするんだつー感じなのに、何個も何個も。とりあえず100本はありそうだな。
しかもところどころ色がおかしいものとか変な絵が張ってあるビンとかがあって、すっげーなんか…なんか…
見ていると不安な気持ちになるとかかなたが泣きわめきそうな感じの塔(?)だ。
なにやってるんだろう、あいつ。
なにやってるんだと、ちょっと聞いてみたい。
いや聞こう―――と、思って、足が止まる。
緋那がすっげー嫌な顔する気がして、止まる。
メーお前までその馬鹿に構うのか構うなよこれ以上馬鹿になったらどうするんだ、とか。
……言われそう、じゃなくて。この間言われたし。
お前まで、って嫌な顔するなら最初に磨智を止めればいいようなもんだ。あいつ、変なこと吹き込んでいるみたいだし。どうでもいいけど。
………まあ、色々どうでもいいことでもあるんだよなぁ。
そこまで気にすることでもないから、いいか。怖いしあの塔。そのうち飽きるだろうしな、何つくってるのかしらねーけど。
うん、そうだ。スルーしよう。
そうと決めたら、扉を開ける。
じーっと見ていたわけだから、何かを言われるとも思ったのだが。俺に声がかかることはなかった。
ただいま、ととりあえず声を上げると、リビングの方からひょっこりと磨智が顔を出す。
「あ。おかえり、メー君。なんかいいの見つかった?」
「いや。あんまり」
やっぱり一人町の近くうろつくだけじゃたいしたもんみつからねーよなー。とりあえずの収入源なんだが。
かなたはあんなんだけど一応トレハンの卵だったんだな。若干いいものが見つかる。
「うまそうなもんとかもなかったしなあ。そっちは?」
「家の方は別になにもなかったねえ。ベム君がビン積んで緋那がそれを嫌がって食材探しの旅に出ちゃったくらい」
「え、あれ緋那関係あるの!?」
つーかさらっと随分なことになってるじゃん。なにもなくないじゃん。
こっちの驚きなんてなんのその。磨智はやけにいい笑顔で、
「うん。緋那の好きなタイプは『空き瓶500本積める龍』っていったら真にうけちゃって☆」
「お前のせいなのか!?」
「失敗失敗☆」
「ぜってー嘘だ! わざとだろう!?」
「いやだなあ。こんなかわいい子にそんな嫌な形相で。
そんなアホなことを信じる方も信じる方だよ」
何お前かわいらしく笑ってんの。だまされねーよ。
そんなんでだまされる奴なんていねーだろ…って。
…そうか、やっぱりだまされる方も悪い、のか?
「…だまされるベムがアホだとしても止めてやれって。不憫だろ」
「そんなのメー君が言えばいいじゃなーい。なんで私に言うの」
言われてみればそうだ。
そっちの方が早いし、すっきりする。
すっきりするはず―――…と。
思ったところで思い出す。さっきのなんかホラーチックな感じの塔を。
「…お前も止めたくないんだろ、あの塔怖くて」
「私はベム君の努力を無駄にしたくないだけだよ」
「真顔で嘘つくなよ!」
止めたくないよなあんなん無表情で作っている奴を!
なにかされると思ってるわけじゃないけど怖いからな!
っていうかなにかの間違いで緋那がビン積み名人が好みだったとしてもアレはねーわ。こえーもん。あれはねーわ。あいつ結構ホラーとか嫌いだからな。
え、幻想生物がホラー怖いの!?とかかなたがつっこんでたし、俺も同感だが。怖いみたいだし。
「ったく。あんなんいつまでも作られたらうちの庭におかしいのがわいたっていわれるだろーが」
「もう言われてると思うけど…、…ああわかったよ、んな嫌な顔しなくたって。止めるよ、さすがに心が痛んできたところだし」
んな嫌な顔ってなんだよ。
少しつっこみたいところだが、やめる。
代わりに、てけてけ玄関へ向かう磨智に待てと声をかける。
「…なぁに?」
きょとりとした顔で振り向かれて、なんとなくため息。
「別に俺止めてくるよ。あれ撤去するの、俺の方がいいだろ。お前より」
こいつ地龍だから。対してとべねーし。
力仕事ってほどじゃないけど、片付けるの面倒そうだし。
だから当然のことなのに、磨智はなぜか嫌な顔をする。
「……メー君は」
そうして嫌な顔のまま、変にためて。
「たまーに優しいことを言うね。察しは悪いのに」
すっげー失礼なこと言われた。
「素直に礼を言えよ! そしてあいつには謝れよ!?」
「ありがとう。本当に感謝してる。でも、ベム君に謝るかどうかはわからないかなあ…」
「嘘つくなとは言ったが正直なら良いってもんでもないからな!」
「あはは、怒りっぽいなあ、メー君ったら♥」
「なにがったらだよ!」
なんだか頭が痛む気がして、さっさと玄関に向かう。
その後、ベムを説得して、不気味な塔を撤去して。
…そうして話が終わるはずが、完成まで手伝わされた。
なんか、材料をあいつの手元に運ぶのを手伝わされた。
すっげーバランス感覚で作った、手の込んだ品だっつーことは伝わってきたけどよ。
帰宅した緋那がなんか膝から崩れ落ちて、色々と後味悪い感じになりましたとさ。
「…やっぱり嘘だったんだね」
「逆になんて信じられるんだよ、お前」
相手にしてもらえなくて暇。
呟くベムの声音は、とても平静で。
なんか色々たまってるんだろーなーと、多少気の毒になった。