かりっと音を立ててキュウリをかじる。うまい。
緋那が始めた家庭菜園は、磨智が来て手伝うようになってからすごく調子がいい。
よにん暮らし その6
「磨智ちゃんは家庭的だねぇ」
「地龍だからねー。土に関することは大抵」
冷やした胡瓜を飲み込んで、しみじみと告げる私。
得意げに胸を張った磨智は、なおも続ける。
「この庭はそこそこ精霊に頑張ってもらってるから、いいのができると思うよ。マスター、何か植えたいのある?」
「きゃべつ。にんじん。じゃがいも。」
「…植える予定だったけど、色気がないよマスター」
「ポトフ」
「料理名で野菜を呼ぶのやめようよ……」
まったくもう、夢がないねえ。
ぶつぶつとつぶやく彼女の目線は、水やりを終えて汗をぬぐう緋那の方へ。
「ねえ、緋那ー。緋那はなにがいい? 今度植えるもの?」
「ああ。コマツナというものが丈夫らしいよ」
「より一層色気がない!?」
「鉄分も豊富と聞いたし!」
「ワア緋那ちゃんはヤサシイナアー」
驚愕の声を上げる磨智と、乾いた声をあげる私。
フフ、緋那は優しいなあ。
けどその期待が時として突き刺さる、みたいなー。
あれー、私今後も大量出血する予定なんだねーみたいなー。
みーたーいーなー。
ふふふ。…ふぅ。
「もう、二人とも綺麗なお花とか植えたいと思わないの!?」
「ああ。そうだな。植えよう、植えたい。でもそういうの磨智が選んだ方が綺麗だから」
「ポトフに入れるニンジンをさあー。お花の形にカタ抜くとそれで十分かわいくない?」
余計にぷんぷんと怒り始めた磨智に、頷く私と緋那。
ただほぼ同時に口にした内容はほぼ逆だったせいで、こう。磨智ちゃんが憐れみの目を私によこす。
「…マスター、ごめんね。私ちょっといらっとしてたけど、そこまでお腹がすいてるんだね…?」
「…い、いえ。そんなとてもアレな目をむけられるほどではないとですよと、マスターは主張するよ?」
「そうだよね…人ってもろいんだしお腹もすくんだねきっと…」
「やめて! そのすごく優しい目をやめて! いっそ馬鹿にして!」
「…お前のその優しい目に対する拒否感はなんなんだ」
ぼそりとつぶやく緋那を無視して、びしりと二人を指さす。
そして腰に手を当て、声をはり、できる限りに元気とかこめて、
「と、ともかく! えっと、いや私もここがかわいくなることに異論はないんだよ!
だからはい軍資金! いい感じにかわいい植木鉢などを、ぜひ買ってきてください! もしくは見繕うだけ見繕って荷物持ちはメーにさせるように!」
メーの扱いがぞんざいというなかれ。
あいつ対して庭の世話とかしないんだから、ちょうどいいじゃないか。私だって草とかはむしってるよ? 主に二人がやってるけど。
今は一人どっか散歩いっちゃってるから、呼ぶに呼べないけどさ。
けれど。
「ま、そんなことくらいなら二人で平気だよ。あんまり大変だったら、呼ぶけどね」
「…ああ。そうだな。そうするよ。かなた。とりあえず今日収穫したものは冷やしておいて」
けれど、元からいらないといわんばかりに背を向ける磨智に、緋那が続く。
仲良さげな後姿に、とりあえず要求だけ伝えておこう。
「サラダが食べたいです!」
「じゃあ切っておけ。…じゃ。行ってきます」
綺麗な礼を残して歩いていく緋那と、笑顔で手をふる磨智。
…二人とも、本当に仲が良い。
……家に、磨智が来たとき。
……ふさぎがちだった彼女に声をかけて、色々と気にかけて。あそこまで元気にしたのも、緋那だ。
思うところがないなんてことはないけれど、私じゃどのツラ下げて何を言うのか、だからな。何を言っても。
「……仲がいいなら、いいけれど」
家の壁にもたれて、呟く言葉は我ながらぎこちない。
…緋那は面倒見がいいし、磨智も私に随分と優しいことだ。
私が、彼女を、連れてきたのは。…買ったのは。
『ねえねえメー君。君のお嫁さん候補』
―――その一言をいうためであり、その結果まあ、色々あった。
いろいろあった後も、私はその言葉を翻してはいない。
リュコスとメイベルドー。掛け合わせれば高位龍。
そんな思惑を込めた言葉を取り下げないのは、わからないから。
色んな人に傷だけつけて、宙ぶらりんにさまよう命令の行先が、分らない。
もう何も言うなと、彼にそれだけを願われたから。
「……ははっ」
ほら見ろ主らしく振舞うなんて、ろくなことにならない。
もう決して口に出せないセリフは喉をふさぎ。息苦しさだけが残った。