幼い頃。
記憶の中にある景色は、いつも窓にきりとられて―――…なんて、シリアスなことはない。
そんな時期もあったが、長くなかった。というか、寝床から出れなかったあの頃、ほぼ寝てたから何も見てないし。
ただ。それなりに丈夫になったからも、いつもいつも、同じものばかりをみていた。
そんな日々に、うんざりしていたから、今。
「冒険が楽しいぜひゃっほー」
「…お試しダンジョンでそんなにテンションあがるんだな、お前…」
お手軽な奴。呟くメーをかるくはたく。
本気じゃない。本気でひっぱたいたところで、龍であるメーは痛くもかゆくもないわけだけど。
けどまあ、気持ちの問題だ。
…こんなにも楽しいと思えるのは、彼のお陰、なのだろうし。
あるダンジョンの記録
夜よりもなお暗い闇の満ちる空間。
ここはモンスターが、トラップが渦巻くダンジョン。
ただし、お試しダンジョンであり、構図も複雑ではなければ、敵も弱い。
朝の生まれる場所に来て、何人かと戦闘を繰り広げて。鍛冶屋さんとかに言い武器も売ってもらった今の私なら、そこまで危険という場所でもないし、私はダンジョン探検が嫌いではない。
暗いのは嫌だし方向音痴ゆえにすぐ迷子になるけれど、楽しい。
未知と遭遇には胸が高鳴る。
たまに置いてあるアイテムを見つければ、なにがあるのか知っていてもわくわくする。
だから、嫌いではない。だが、今は―――。
「おなか減ったよう。家に帰りたいよう。」
「だったら帰ればいいじゃねぇか…」
「…メー君。分かってないな」
背後の光龍が口にした気のない言葉に、私は笑う。
「帰る気がなくとも、こうして君に愚痴ることで私の不満は多少薄まる」
「だから! 不満なら帰りゃいいだろーが!?」
「…駄目」
私は首を左右に振る。ゆっくりと、決意を秘めて。
彼の提案を受け入れるわけにはいかない。
「復活の書、あと一冊拾うまでは帰らない。」
呟きながら、歩くと、行き止まりに突き当たる。
ため息を一つついて、元来た道をもどる。
…だって、そのくらい拾わないと。元がとれないのよ!
「…いいじゃんねぇか、もう今日は熟練度だって一つあがったし」
「やだ」
「やだじゃねぇよ。なにタダこいてんだ。
付き合わされる俺の身にもなりやがれ」
「はぁ? だって折角なら二冊持ってて合成してもらった方が得だろう? 得なものを追い求めなくてどうする? 君はそれでも商売人かっ!?」
びしっと指差す私に、メーはむっとしたように、
「俺は商売人じゃない。ついでにマスターのお前も戦闘系だ」
「言葉のあや、ちょっとした冗談というヤツだよ?
そのくらい聞き流すor乗り突っ込みくらいの芸当ができなくてどうする。ただツッコムだなんて……
私、あなたをそんな腑抜けに育てた覚えはなくてよ?」
「ノリつっこみできないヤツ=腑抜けってどんな理屈だそりゃ!
それにお前に育てられた覚えもねぇ!」
「だから君のつっこみは読み易すぎる。
もっとこー…エキセントリックで個性的かつ私の気に触らないようなつっこみよろしく」
「つっこんでやるだけありがたいと思え、我侭男女」
「誰が我侭だ、この」
脳みそ軽量口先光龍。
そう答えよとした時、前方に気色悪い鏡のようなモノ。
「ウケケケケ」
―――リバブル。
「……こいつ、倒してもクコ酒。…よくても鉄の宝箱だったな……
私の会いたいのはワイルドウルフ……」
「じゃ、逃げんの?」
「それもメンドイ。
では…」
なんか不満げに呟くメー。(自分が戦闘好きだからって、人に押し付けるな)
私は大きく息を吸い―――宣言する。
「手加減は無用でございます」
―――帰宅後。
夕飯の時間に遅刻しまくった私に、緋那は怒りゆえの冷たい目線を、磨智は呆れたような台詞を吐いた。
「……で、その後メー君がダンジョン脱出させてぇ、蘇生してもらいに引っ張ってきたからこんな時間になった、と?」
「ああ。重かった」
「女に重いとか言うな」
なんてひどいことをいうの。っていうか、うちの龍冷たい。みんな冷たいよ!
「…マスター。勝てない喧嘩はするもんじゃないよ?」
「その通りだ。それに、夕飯の時間に間に合わないようなら連絡をいれろといっているだろう」
「…呪い装備なのは忘れてたの…」
そう、あの瞬間。装備にかかった呪いが体力をギリギリまで奪い去った。
そういう武器が、朝町にはあるのだ。…まあ、ちゃんと加工すれば、呪いはとけるんだけど。…だけど、どうにも、やみつきに。…お金をけちってるんじゃ、ないよ?
「…止めたらいいじゃん、呪い愛好」
「ドキドキするじゃん。なんとなく、呪いって響きが! それにたぁまに能力あがるし」
「…それで死んでるんだからホント馬鹿だね…」
う…耳が痛い。っていうか、磨智の目が本気で冷たい。極寒だ。
だけど……
「次こそは!」
「…次こそは?」
呟く私に、訝しげなメー。
「次こそは、復活の書を拾ってくる。ざくざくと!」
星空に向かって誓う私に、3対の呆れたような目が突き刺さった。