探索中、あることを思いついて、一人川へ行った。
 そこそこの深さのある、きれいな川。
 その端っこで、私は笑う。真摯っぽい眼差しを意識して、森で探索を続けていたメー君に向けて。
「メー君…私、メー君がいてくれて、良かったと思ってるんだ。
 それこそよわよわだったあの頃からいてくれた君が…すごくありがたい」
「かなた…」
 私の呼びかけに答えてくれた、メーの言葉は重い。
 重く、しめっぽく―――痛々しいものを見る感じ。
「…そのどうしよもない格好でいいセリフ言われても俺困るぞ…」
 どうしよもない格好。
 左手にお魚右手につりざお。その両手を万歳にして体は傾きあとちょっとで着水。
 どこがどうしよもないんだ。危機的状況だろうが。
 言い返したいが、余裕はない。
 困るより助けて、と訴えた。

ろくにん暮らし その9

「…で、なんであんな面白いカッコになってたんだよ」
 無事にお魚を入れたバケツを手に、あきれ顔でメー君。
「なんでって言われても。なるようになったからだよ」
「…なるようになってあんなんになるのか、お前…」
「止めてよ! そのどうしよもないって顔、止めてよ!」
 なんでうちの龍はすぐにそういう顔で私を見るの!?
 憐れみの瞳なんて見ているとうっかり昔を思い出すだろうが! …思い出しそうなものなのに、あんまり思い出さないのも不思議だけど!
「私はみんなのためにお魚を釣ろうと思ったのに」
「つってないじゃん。掴みとってたじゃん」
「いやいや。ちゃんと釣ったのつかみとってね? なんかバランス崩してね? 釣竿落としそうになって。ああなったの」
「そんなキリっとした顔で情けないこと言われてもな…」
 俺にどうしろっていうんだ。
 ぼやくメー君を無視して、釣竿の針にその辺で捕まえた虫をさす。
 く。すまない虫さん。君の犠牲は忘れずにきっと魚をしとめてみせる。逃げられないで見せる。食い逃げは、もう許さない。
「なぜなら私の背には戦友(と書いて友と呼ぶ)の魂があるのだから…!」
「なあ。かなた。お前の友って虫なの? その缶詰の空にうようよしてるやつらなの?」
「だからかわいそうな目で見ないで! 感謝の気持ちを忘れないとバチがあたるんだからね! なにかしらからバチがあたるってばっちゃんもじっちゃんも言ってたんだからね!」
「それはすっげー立派な考えだと思うんだけどよぉ…」
 よぉ、ってなんだ。何が言いたい。
 釣竿を川に投げて、心の中で反論。
 ミミズだってオケラだってアメンボだって愛と勇気だってみんなみんな生きているんだ友だちなんだ。
 …第一、感謝の気持ちは忘れちゃだめだろうよ。たたられる。なにかしらに。
「いいじゃないか。別に」
「いいんだけどよ。俺これと同列かと思うとさあ…」
 あ。うん。そういう意味か。
 言われないと忘れがちだけど、メー君は龍だ。龍はプライドの高い生き物だという。
 だからいやなのか。そういう意味で嫌なのか。
 でも。
「…私は君たちを家族っぽいものだと思ってたけど」
「誰が親で誰が子供だよ、それ」
 ふむ。とりあえず緋那はおかんだな。おとんにベムを挙げてあげることはできないが、ここは揺るがない。
 …いや。でも、なんていうか。
「家族は家族だから特に間柄は考えたことないねえ…」
「適当な奴だな、お前。知ってたけど」
「メー君は相棒っぽいとも思うんだけど」
「…そうかよ」
 何とも言えない味のある表情に、ふふ、と笑みが漏れる。
 ついでに。釣竿を見る。魚の影もないし、ぴくりともしならない。
「…メー君がうるさいからだろうか」
「…それを言うならお前が『たーすーけーてー』とか叫びまくったからじゃねーか」
「叫びまくったなんて! ちょっと10回くらい言ってみただけだよ! もっとすぐに気づいてよ!」
「10回は叫びまくってるだろ。ともかく先に騒いだのお前じゃん。召喚石使えよ、静かに呼べるぞ」
 はい、その通りです。
 これはもうつれないかもです。
「でもまだ四匹だしなあ…後三匹ないと取り分でもめるじゃない。きっとメー君と風矢君が」
「なんで名指しだよ!」
「私は食う。釣ったものの権利で。緋那にも食わせる。お夕飯当番の権利で。磨智ちゃんも食べるだろう。お手伝いするから。ほら三匹。するともめるのが君たちなのはもはや自然の流れだよ!」
「そう言われるとそんな気はするが! ベムがはいるかもしれねーじゃん!」
「ベム君は騒がないよ。なぜなら緋那が食べるから」
「いや騒ぐね! 緋那の手の入ったもんなら!」
 言われてみればそうかもしれない。
 これが『はっ』って感じの気持ちか。
「なんにしろ、後三匹つらないと。色々面倒じゃない」
「…そうかもな」
 言うなり彼は身をかがめて、地面に座る私の手元をのぞく。
「お前、釣りなんてできたんだな」
「ふふん。昔取ったなんとやらさあ」
 一身上の都合で、一人遊びは大概やった。
 釣りに関しては、隠居した親戚がいて。たまにつれていってくれたのが始まりだったが。
「なんで今までやらなかったんだよ。探索より効率いいだろ」
 割と当然の疑問に、ふ、と笑みがこぼれる。自嘲的な笑みだ。
「釣れると思ってなかったからね! 日ぃくれるまでなにもつれなかったら余計ひもじい!」
「だからお前、そんなとこだけ自信満々にさあ…」
「それに、この辺の魚、食べれるのと食べれないの、見分ける自信もなかったし…毒とか持ってたらやじゃん」
 実家でよく見てたのもあるけど、よくわからないのもたくさんいるからな、この辺。
 けどまあ、お魚屋さんにもたくさんいけるようになったし、図鑑も手に入れたしで、今日やってみたけど。
「…しかし釣れるとは思ってなかった」
「繰り返すほどかよ。…いつもは平均何匹だったんだ」
「…メー君。0をいくつで割っても、0なんだよ?」
「…よくそれでやろうと思ったな、今日」
 ため息のような調子で言われてしまった。
 むうと黙っていると、彼は続ける。
 今度は、わくわくしたような声で。
「俺もできる?」
「そりゃできるけど。丈夫そうな枝、拾ってきてよ。糸は余ってるけど、私ここをうごきたくないよ」
「…当然のことなんだけど、お前が言うと怠けているように聞こえる」
「趣味が日向ぼっこの君には言われたくありません」
「え、それ関係あるかぁ?」
 ありまくりだよ。ほかにも筋トレが趣味だけどね。メー君は。
 いや。趣味っていうより習性なのかもだけど。光龍だし。
 だがしかしリビングのおっきい窓の前、座ってぼんやりする姿はおじいちゃん。姿は15歳くらいなのになぁ。
「…これで釣りまでおぼえちゃったら君のおじいちゃん度があがってしまう」
「いや。どうでもいいよ」
 軽い口調でそう言って、彼はざくざくと森を行く。丈夫な枝をさがしに行ったのだろう。
 さて、彼が戻ってくるのと、私が次のを釣るの。どっちが早いだろうな。
 ワクワクした気持ちで川を眺める。魚の影っぽいものはないが、なんとなく楽しかった。

 その後、釣果は五匹という驚きの微妙さで落ち着いた。
 しかし初体験のメー君が一匹釣れるとはどういうことだ。私は5年目くらいでやっとつれたというのに。
 なんにしろ、足りないのは仕方ない。潰してお団子にして、汁にして食べた。
 まだまだ暑い日差しの下だけれども、それなりにしっくりとおいしくて。
 よい日だったなと思いましたとさ。

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