ある日、家に帰ったら。
『だからざけんなっていってんだろ!』
『なにがざけるなですか。ふざけるなはどちらかといえばこちらのセリフでしょう』
 帰ったら、元気な声がお出迎え。それはよい。
 その内容が口喧嘩。それも別にいい。最近メー君と風矢君は喧嘩ばかりです。
 でもさ。でもさ。
「お前らなに壁に穴あけてんだ畜生! ざけんなは私のセリフだろうが! 家の中で龍になってんじゃねーよ馬鹿力と無駄に長いの! 正座で座れ、今すぐに!」
 叫ぶ私に、二人は口論をやめ。
 お互い舌打ちして、それでもとりあえず人の形をとった。

ろくにん暮らし その1

「…はいそれでそこの銀色と緑。申し開きを聞く気はないけど喋ってみてよ」
「聞く気がないのにかよ!」
「ああ? なんで申し開きが通るとおもってんだ。ぼけたこと言うなよ」
「ぼけてねーし! 真面目だし! 風矢が、」
「悪いと言われる筋合いはありませんね」
 ぎゃーぎゃーやかましい声が、冷たい声で遮られる。
 そしてまたにらみ合う。
 はっはっは、まったくもう見つめあうと素直におしゃべりできないと主張する素敵な歌も世にあるというのに、こいつらときたら。
 素直に正座で並んだ二人は、それでも素直に謝る気持ちはちっともないことが伝わってきた。
 …もう。
「じゃあ、緑ぃのから。申し開き。ただちに」
「みどりぃのってなんですか。…いやまあ、主に命じられたら申し開きくらいしますが。…しかし、申し開きと言われましても」
 正座のまま傍らのメーを一瞥し、彼は真っ直ぐに言いやがる。
「そこのが人に喧嘩を売るのでつい。売り言葉に買い言葉で」
「あはははははは。言葉だけなら私は泣かずにすむというのに」
「いやほら、かなた。こう、しゃべる拍子にブレスが」
「吐くなよ。ブレスを。室内で」
 こっちもこっちで真っ直ぐな眼差しでダメなこと言いだすし。もうマスターついていけません。ついていってたまるか。
「はいちまったからしかたないじゃん、室内でも」
「仕方ないってなんだよ。仕方ないのかよ壁がぶち破れても」
「これを機に、建て替えればいいのではないでしょうか」
「君たちが山から木々を持ち自力でぜんっぶやるつーならマスター大歓迎さぁ」
 真顔でごまかすようにすごいこと言う風矢に、ずきずき痛む頭を押さえる。
 …なんか、疲れてきた。
 うん、怒るって、疲れるよねえ……
「……いやまあもうどうでもいいや。もういいよ。ちゃんと直してね。直すまで飯はないから」
 ぐったりして言ってみる。命じてみる。
 二人はとても嫌そうな顔をして、それでも仕方なさそうに立ち上がる。
 立ち上がるタイミングが一緒だった。
 それだけ見ていれば仲よしみたいだった。
 でも。
「わかったよ。悪かったよ。おらいくぞ風矢」
「行くのは構いませんがなんで貴方に命じられなきゃいけないんですか」
 案の定同じタイミングで立ち上がったことに顔しかめたメー君に、当然風矢はつっこむわけで
「命じるってほどじゃねーよ。神経質な奴だな」
「ええ。命じるって程ではないですが。腹立つモノは仕方ありませんね。ですがまあ、悪かったですよ。行きましょうか」
 話を切り上げるようにいう風矢ですが、今度はメーがつっこむわけで。
「いや。いやいやいや。さらっとなに話終わらせようとしてるんだ!? お前さっきから自分の言いたいことだけ言い過ぎだろ!?」
「じゃあ貴方も言えばいいでしょう、好きなだけ」
 ああ。こうやって口論が激化していくんだろうなあ。あはは。えへへ。うふふ。と笑っている場合ではないわけで―――
「言うな。しゃべんな、それ以上。
 それ以上しゃべったら私は会う人会う人に君達を超仲良し☆として紹介してやる」
 コラムも駆使して、全力で。
 低くつけ加えると、二人はぐっと口を引き結び。
 今度こそ、心底嫌そうな顔だけど、歩いて行った。
 まったくもう、まったくもう…まったくもう………
 どうしてこうなった。
 どうして、こうなった………
「マスター、ただいまー。って、何この壁」
「おかえり。ねぇ、磨智ちゃんや。なんであの二人はあんなに仲が悪いの?」
「え? …あー…」
 私のセリフに状況を察したか、玄関からとてとて歩いてきた磨智は壁の破片を拾いつつ首を傾げる。
「風矢君は先に眼つけたのはあっちだって言ってるね」
「メーは先にチビとか言ってきたのは風矢だといってるな」
「なんにしろくだらない気配がする!?」
 彼女と一緒にお買い物だといっていた緋那からも告げられる衝撃の真実です。
 そんなどうでもいい理由で我が家の壁はぶち抜かれたというのか。理不尽だ。
「…あ、べ、ベム君。ベム君いた。おかえり。君はなにか聞いてない!?」
 お買い物帰りの二人の後ろにいつのまにかあらわれて、緋那と磨智が買ってきた荷物持とうとしてるベム君に聞いてみる。
 っていうか君はこの残状をスルーか。スルーしてイモを倉庫に持っていく姿勢か。緋那が重い荷物を持たなければそれでいいのか。この野郎。
「…別にもめた理由なんて興味ないから聞いてないけど。あれは要に相性が悪いんじゃないの」
「投げやりだね!?」
「僕も家にいたなら。二人が壁壊す前に、止める努力をしたけど。今帰ってきたところだから。どうしよもない」
「そりゃそうだろうけどね!?」
 おかえりより先に緋那の手伝いするその熱意をもうちょっと他に向けられるんじゃねーのこの野郎というね。っていうか話す間にも立ち去る姿勢を隠さないよこの野郎。緋那は微妙な顔してるじゃんこの野郎。やばい心の語尾がこの野郎になる。
 すさみに荒んだ心が、ぐっと拳を握らせる。どこかにたたきつけたいこのパッション、みたいな。
 ―――と。足元にぬくいわりにさらさらと気持ちのいいなにかの感覚。
 ぬくもりの源を探すと、茶色いドラコン。
『落ち着いた?』
「…磨智ちゃんが撫でさせてくれるなら落ち着く」
 手をわきわきさせてお願いしてみる。すると彼女はぷるぷる首をふり、楽し気な声で、
『三回までね』
「すくなっ!?」
『それ以上は有料ね』
「え、なんかいけないことしている感じ!?」
『マスターなでまくるからあつくるしいんだもん。でも今はさすがに荒れ荒んでて可愛そうだから慰めてあげる』
「ああ。分かる。私も人の姿をとるようになってからはもふもふされずに。心穏やかだ」
「ひ、緋那まで! そんなにやだったの!?」
 目をさっとそらす緋那と、膝の上の磨智。
 く、なんて雄弁な肯定なんだ。へこむ。
 確かに緋那が龍の時はもふもふしたし磨智が龍の時はなでなでしたけど! 心行くまでしたけど!
『はい、三回」
 わあ本当に三回くらい撫でたら膝おりた!
 ちょっぴり恨みがましい目線で見たくもなったけど、やめる。…確かにこれ以上荒んでも、いいことないし。
 壁はまあ、直させれば。治させればすべて解決だ。…すべてではないけど。
「で。話し戻すけど。あの二人、ある意味とっても相性がいいんだろうねえ、ある意味」
「ああ。喧嘩友達…と、ともだち?としての相性が」
 人に戻った腕でぐいっと伸びをしながら言う磨智に、ためらいがちに緋那が続く。
 いや、そんな好意的に表現されても…されても…
「そんな相性の良さいらないさあ。喧嘩の決着はカードゲームででもつけてくれたらいいのに…」
 ハイテンションに腹立つ感じはすぎて、なんだかしみじみと悲しい。切ない。あ。やべ泣けてきた。
「あはは。マスター。マスターには、そんなこと冷静に思うような二人に見えるの?」
「諦めたら試合終了だって世間ではよくいうもん!」
「そうか。えらいな、かなた」
「ちょ、何その慈しみの目!?」
「うん、マスターえらいね」
「ダブル!? ダブルで慈しみの眼差し!?」
 そんなところで仲良しを発揮しないでほしい。
 いや、変な仲良しさを発揮して壁ぶち抜く馬鹿と馬鹿よりは百倍いいけれども。
 釈然としない思いで、ふぅとため息。
 食糧庫から戻ってきたベムは、そんな私を不思議そうに眺めていた。


 その数日後、性懲りもなく二人がもめている時にカードを進めてみました。
 仲悪いはずの二人は、素直に受け取り、素直にババ抜きし始めて。
 なんやかんやでケリつく前に口喧嘩に発展してました。
 若干龍に戻り始めた二人を強制的に召喚石にしまった私は、よい仕事をしたと思います。

 …ったくもう。ったくもう、だよ。 

目次