探索中。
 隣を歩くベム君を見ていると、思い出す。
 それは、彼と出会ったあの日のこと。
 …違うな。
 彼が、彼女に出会ったあの日のことを、ぼんやりと思い返している。

ごにん暮らし その7

 そう、あの日は緋那と探索に出ていた。
 今みたいに森を歩いて、それでまあ色々しているうちにベムが出現したのだ。
 いや本当、出現っていいたくなるようなすごい唐突さとすごいテンションで、緋那にプロポーズかまして。
 どんびかれて。
 どんびかれてもめげずに、彼は言った。
 契約を結んでほしいと。
 …緋那は割とやな顔してたけど。私はあの時思わず言った。
 あ。技の種類(スキル)すげぇ。と。
 つまり彼は有能だったのである。レベル4の割に。
 それぞれの理由で人と契約してくれる龍だけど、最初からどんなレベルの龍も従えることができるってことはない。
 1から始まり、ドラテンを重ねる度にマスターレベルなるものが上がる。そうして、契約できる龍のレベルも上がっていく、と。
 …そんなこんなでまだ高位龍を従わせることのできない私には、結構魅惑的なお誘いだった。
 いやまあ、既にレベル6までは従わせられるけど、召喚石の空きは残り2人分。交配で強い種を求める気はもうないから、どうせなら7レべがほしいかな、って狙ったりしたりしなかったり…だったんだけど。このスキルなら、と思った。決して契約しろとこっちをガン見するベムが怖かったんじゃないってば!
 一応すぐに言ったんだけどね。緋那が死ぬほど嫌だっていうなら断ると。
 けどそれで断りきれたかも怪しいな。ベム君が断ったら死ぬくらいの勢いで契約契約迫ってきたからな。いや、怖くはないよ? 怖くなくても、勢いに押されてね?
 まあ、結局彼女は黙ってそっぽを向いたので。私は恒例の名前を考え始めた。
『名前…ベヒーム…ベー君とか…』
『別に名前なんてどうでもいい』
 きっぱりと言い切った彼は、緋那だけを見ていた。
 橙色の瞳。朱色の髪。
 わお情熱の炎ってこういう色をしてるんだね!とか現実逃避したくなったけど、一応忠告した。
『…いや、そういうわけにもいかないし…その、緋那ちゃんがどんびいてるからいきなり近寄らないであげて? コミニケーションは段階があるから…』
 もう言葉もなくどん引いた彼女に、彼は一応引くだけ引いた。
 ずずいと乗り出していた身をひいて、一応とばかりにこちらを見た。
『…そうだね、君はベムでいい? どうでもいいとまで言ったんだから、いいよね?』
『うん。十分』
 ベー君ヒー君はあんまりかな。あんまりじゃないけどまたメーが怒りそうだな。
 そんな風に告げた名前も、たいして凝ってるものではなく。
 けれど彼は一言も文句を言わず、そうやって頷いて。
『貴女に呼ばれるならどんなものでもいい』
『―――かなた。今からでもこいつの名を「アホ」とかにしろ』
『マスターそんな名前人前で呼びたくないですヨ』
 やっぱり緋那を怒らせて、帰り着くまで怒られたりしていた。
 こうして思い返すと、こう、緋那じゃないけどさ―――…
「…ベム君はどうして緋那ちゃんが好きなんだ」
「いきなりなに?」
 足をとめ、少し語尾を上げて。ベムが言いかえす。
 淡々と平坦だと思っていた声色も、まあ、慣れればそれなりに色々見えてくる。わかりにくいけど。
「きっついこと言われてるし、めげたりしょげたりしないのかなと。畏怖の念を覚えてる」
「すごいもの覚えてるんだね」
 そして、考えることはもっともっとわからない。
 意味不明で怖いと緋那が言うのも、まあ、理解できる。
 緋那はなー。軽い男が嫌いだからなー。某ゆゆさんところの某ロスさんとちょっとお話したときとか、彼らが帰った後一言言ったもんね。塩まけかなた、って。
 ロスさんのあれは軽いっていうよりキャラづくりっぽくみえるけど―――…いやそうじゃなくて。
 今は軽いのが嫌いな彼女がひっかけた、目の前の重いののことを考えているのである。
「そこまではいかないけど。びっくりどっきりしてる」
「そう」
 彼の行く末とか案じてみたりしているんだけど、この反応を見ている限り、余計なお世話感がひどいね。
「どうして好きと聞かれても。
 僕は緋那が好き。どうしよもなく。
 どうしよもないから、仕方ない」
「……わ、わからねぇ」
 どうしよもないって君。どうしよもないって。確かにどうしよもないけどさあ…
「わかってくれなくてもいいよ」
 余計なお世話どころかどうでもいいとでも言いたげなことを言われました。
 …いいけどさ。
 いいんだけどさあ…………
「……ベム君はもう少し人と分かり合うことを目指すといい気がするよ」
「…そう。参考にはしておくよ」
「はたから見ててわけわかんねーもん。そりゃふられるさぁ」
「…僕から見たらマスターもわけわからないけどね。
 敬われるのも嫌。馬鹿にされても悲しい。どうしてほしいの」
「ふっ。仲良くしてほしいに決まってるだろう!」
 かっこつけて宣言してみた。
 彼からのつっこみはなかった。
 …いたたまれない。
「……ベム君や」
「なに。枯れた声だして」
 なんかもう色々いたたまれなくなった私に、ベムはやっぱりクールである。
 もうふっと乾いた笑みなんて漏らして、彼の肩をぽんとたたいてみたりする。
「あとは若い者に任せてと席をはずしたい気持ちでいることの表れさぁ―――
 表れだけど。
 まあ、私は、君に最後まで付き合うよ。…できればその最後が良いものであれと、祈っているよ」
「そう。ありがとう」
 先を歩き始めた彼は言う。
 背中から聞こえてくるその声は、やっぱりたいして感情がこもっている感じではなくて、なんかもう苦笑するしかなかった。

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