探索のついでに買い出しにいこう。珍しくそんなことを思ったけど、ふと悩む。
ご飯はねぇ。緋那が色々考えてくれてるしな。ほしいモノ聞いとくか。
「緋那ぁ」
しっかりものの彼女を探して庭に出る。
果たしてそこに彼女はいた。彼女はいたんだけど。
死んだ眼ででかい花束抱えてました。
ごにん暮らし その1
「…緋那ちゃんどうしたの?」
「馬鹿がよこした」
「…彼にはベムって名前をつけたよ」
つい先日新たに契約を結んだ炎龍の名前に、彼女はとっても嫌な顔をする。
「けど馬鹿で通じたじゃないか」
そりゃ緋那がそんな言い方するやつほかにいないんだもの。
ついでにそんな疲れ切った目を向けるのも…私はたまに向けられてたけど、珍しいよ。
「まあともかくき、きれいだね!」
「綺麗だがこんなにもらってどうする」
そりゃ緋那の顔をばっちり覆うくらいにあるからね。今だらーんと下げられてなんのありがたみもないけど、豪華だね。
「あの馬鹿はそんなこともわからないのか。っていうかなんだあの馬鹿は」
君への求婚者です。と答えることはできない。
心のおくっそこから嫌そうな顔をしているから。
むう。彼女のためを思うなら契約を断るべきだっただろーか。でも多芸な奴だったしなあ。
人化もその場で覚えちゃって、その状態で脅さ、もとい熱望されたんだよねえ。
あああなたがマスターなの。じゃあ契約。結んで。結ぶよね。
…いやあ、迫力あったなあ。
「…まあ良い。そのうち目が覚めるだろう」
そ、そうかなあ。そんなことはない気がするけどなあ、よくも悪くも。
けど花束をさくさく解体してる緋那に、そんなことは言えない。
でっかい花束を、綺麗に丁寧に、いくつかの花束に生まれ変わらせながらもその眼は―――すっごく嫌そうです。
「かなた。これはお前の部屋。こっちは玄関に置いてきて」
「…緋那へ贈られたものでしょう」
「私が受け取ればあとはばらして家中に配っていいと、本人が言った。構わないだろう」
さすがにちょっぴり非難してみたけれど、答えはやっぱり冷たい。
本気で脈がない。
し、死んでる、って感じ。
これは―――…これはさすがに、おちこんでいるんじゃ…
冷たい予感に生唾を飲み込む。乾いた喉に奇妙に痛いそれが、胃に落ちる頃。
「緋那」
静かな、とても静かな声が響く。
私は振り向き、彼女は目線だけ。
そんな反応にもちっとも堪えてないっぽい声の持ち主は、ベムという。
16,7の少年の格好をした炎龍で。ゆったりした白い上着と、暗い色のズボン。朱色の髪に、少し眠たげな橙の瞳。少し乏しい表情。全てが合わさってなんとなくぼんやりしているように見える奴だ。
ただし、緋那への目だけのぞく。
緋那にだけはすごくきらきらした目を向けてるから、除く。
「……まだなにかあるのかお前」
向けられてる本人の反応はこれですがね!
「うん。ある」
そして気にせず頷いてるっぽいし、もうわけがわからない!
「花。たくさんあると邪魔だっていうから。
邪魔にならなそうなものを集めてきた」
緋那の目の前に移動して、彼はてっと袋を差し出す。
僅かに口が開いた白い布袋につまっているのは、たぶん。
「種?」
「色んな花を集めてみました」
「……集めてみたって、じゃあこれ種類ごちゃごちゃ?」
「楽しくていいかと思って。ロマンだよ」
「はっ。確かにロマンはいいものだ…!」
「おいかなた馬鹿。いや違う。かなたと馬鹿」
ひぃ緋那ちゃんが反抗期っていうかもうキャラ違うレベルに冷たい!
いつからそんなキャラになったんだ!
「泣くよ!? ベム君も泣くよ!」
「泣かないけど」
「泣けよ!」
叫ぶ私に、ベムは首を傾げる。
意味が分からないと言いたいのはがよくわかる。
…どんだけ動じてないんだ。
「いろんな種類を混ぜるな。脇に植えるとダメになるものとかあるんだぞ。
こんなの使えないだろうが。…それよりこんなにたくさん、どうやって準備したんだ」
「山で拾ってきたよ」
「これだけの量を!?」
思わず声を上げる私にも、彼はなんてことなくうなづく。
「高価なものは受け取ってもらえないだろうし、お金もない」
いや、簡単に言うけど、それってさあ…大変だし…
しかも、この花渡してから行ったの?
どんだけ無駄なハイスペックだ……
「…それより、理由がない」
才能の無駄遣いという言葉におののく私に構わず、緋那が言う。
あきれたように、彼をびしりと指さす。
「私はお前に好かれる理由もこんなもんもらう理由もない!
誰かと一緒になりたいなら、わけわからないこといってないで、他をあたれ!」
「僕は貴女がいいのに」
ぴんと伸びた背筋に、怒気のにじんだ声色。
色々と迫力ある仁王立ちにも、彼は変わらず淡々とした声で応じる。
嘘っぽいほど淡々としている。
けど嘘じゃないと、目と行動が言ってる、みたいな!
「そんなことを言われても困る」
「困られても。好きなモノは好きだし」
「私は嫌だ! かなた! 立ち去るな!」
いや。立ち去るさ。立ち去るしかないさ。
まったくもう、本当に。
…なんか、カオスなことになったなあ。