「緋那ちゃんー。緋那ちゃ―ん。ひーなーちゃーん」
『かなた。そういう時は召喚石をつかってよべ。
あほっぽいぞ』
彼女を探して家をぺたぱた。
いなかったから庭にぱたぱた。
ようやく見つけた彼女は、びしりとそう指導した。
さんにん暮らし その5
彼女にいわれるまま、首からぶらさげた召喚石を見つめる。
蒼色の石は黙して語らない。ん、だけれども。
「召喚石で…? あ。電話みたいなことできるんだっけ。
不思議だねえ、便利だねえ」
『いや感心されても。メーだって説明しただろ、きっと…お前ら今まで叫んで呼び合ってたのか』
うんうん頷く私に、緋那は作業の手を止めてくれた。めくっていた本をとじて、こちらに向き直る。
しかし、その内容はちょっと厳しく。むうっとすねてみたくなったりする。
「いやだって。難しかったんだもん」
『もんじゃない。できるまでやれ。
…いやまあ、そのあたりはいい。用事はなんだ』
「暇だからよんでみただけ!」
素直な気持ちを告げてみると、彼女はあきれた顔をした気がする。
気がするのだが、再び本に手を伸ばすことはしない。
つきあいがいい龍である。だから甘えてみることにした。
「だって天気いいから。ごろごろしたい、じゃなくてお話したいと思って」
『かなた。あまり私をもふもふしないでくれ。禿げたらどうする』
「く。もふもふしつつごろごろ計画がばれただと!?」
『ばらしただろ。つっこみ待ちだっただろ。ったく。
どんだけもふりたいんだお前…』
いやだって。しかたないんだ。
緋那は一見ちょっとかわいめのトカゲさんだ。ぬいぐるみになったトカゲさんだ。目だけリアルだけど。
しかしよくみるとふかっとしている。触ると絶妙にふかっとしてる。
ようは―――気持ちいい。ぬくいし。
女の子だからふかもふしても罪悪感ないしね!
「まあ緋那ちゃんがヤなら無理やりはできないしぃ。許可をとりたかっただけですぅ」
『明らかにすねた声出すな。ダメなものはダメだからな』
押してダメなら引いてみたりもしたけれども、ダメなものはダメらしい。
まあそこまでいうなら、諦めよう。
嫌われたくないし、今すぐもふらなきゃ死ぬってわけでもないし、ねぇ。
代わりにみるのは、彼女の手元。
少しくたびれたその雑誌は、私のちょくちょく買ってきている蔵書ではない。
タグを見ると、どうやら彼女が買い物求めた古本らしい。
その、内容は―――
「『かわいいお庭作り?』」
『ん? うん。ほら、ここ。それなりに庭広いだろ』
かわいいクマさんとウサギさんの案内する庭のレイアウト例なんかを見せながら、緋那は笑う。
そういえばよく庭を見てるなあと思ってたけど。いじりたかったのか。この不毛の大地を。
でも、緋那は炎龍だしな。焼き畑農業するのかな?
いや、これを見る限り、畑じゃなくてお花畑みたいだけどさ。つくりたいの。
『イモでも作ればかなたも女を捨てた感じに飢えずに済むと思ってな』
「緋那ちゃん優しい―――けど私をどんな目で」
お花畑みたいだけどさ、と思ったら実は畑でした。
わあ花時計かっわいーとか本を見ていた私に今告げられる衝撃の真実。
ごくごく真面目な口調で、緋那は言う。
『毎食お皿なめたそうにするなよ。みっともないよ』
「だって尊厳でお腹は膨れないよ…」
『だから、野菜で膨らませてやろう』
…なんだろう。
彼女の口調はあくまで真摯で、声色には思いやり的なものがたくさんつまっていて。
目に染みるなあ。
「緋那………
緋那、いつも、すまねぇねぇ…」
『な、泣くことはないだろ。あと私だけではやらない。お前も手伝えよ』
「いえすマイロード!」
『お前がロードだよ! お前は主人だろう!』
冗談めかして感謝を伝えると、わりと真剣っぽく怒られた。
指をぴしぴし上下させ、なんか怒ってる風です。
「やだなぁ緋那ちゃん。冗談だよ」
『冗談に聞こえなくてな、お前の場合は…』
むう。
緋那は本当真面目だねえ。私に主を求めるなんて。
ちょっぴり後ろめたくなって、話をそらしてみる。
「…にしても、畑作る予定なのにこんなファンシーなの買ってきたんだ」
『それが一番安かったんだよ』
ふぅん。そういうものか。
きれいにグラデーションが形成された花壇とか、かわいいお人形と一緒のお庭とか。
彼女の趣味ではないのだろうか。
…もし趣味だったらどうしよう。
いいとか悪いとかじゃなくてあれだよな。私の財布に遠慮して言い出せないんだったらどうしよう。代償行為だったらどうしよう、的な!
「……ごめんね緋那ちゃん! 私の稼ぎがアレな所為で今はあれだけど今後こういうかわいい庭を目指すからね!」
『何勝手に一人涙ぐんでんだお前…。
別に目指さなくともいいよ。私はシンプルなのが好きだ』
おおう。あきれたっぽく言われてしまった。
本を眺めたまま、ふぅとため息をついてみる。
あきれたっぽい口調に反論は浮かばない、そんなマスターです。みたいな気持ち。
『花は好きだからそのうち育てたいがな』
「そっか」
ちょっとしみじみとする私に、緋那の声は変わらず穏やかだ。
緋那は怒ると怖いけど、怒らないとひたすら穏やかだ。
いつもぎゃーぎゃーいいがちなメー君は見習うべきである。
人に彼の名前を紹介するたびに『このアホかなた!』とかいってくる彼も見習うべきだ。私の家名がアホだと思われたらどうしてくれる。どうもしないが。
「でも花だけも寂しくない? こういう人形とか、かわいいじゃん」
気分を変えるために、いまだ開けたままの本の一部を指さす。
植木鉢をだっこしたかわいい感じのクマに、緋那は大きくうなづいた。
『そうだな。このリアルさの欠片もないクマは、確かにかわいい感じなんだろう』
「…緋那ちゃんそういうのキライ?」
頷いた割に辛辣だなオイ、みたいな。
ちょっと反省したんだけど、彼女はゆるりと首をする。
『いや? 別に好きじゃないが、嫌いでもないよ。かわいいとは思う。
だけどまあ、まったくリアルではないだろう。クマなんてお前。下手したらお前を食うぞ』
「緋那ちゃん現実的……」
『夢見がちな主を持ったせいだろう』
おおう。やっぱり辛辣だ。
気分を変えられずやっぱりへこんだ私に、緋那は一度だけ首を傾げて。
しょぼくれてないで探索行くぞ、とか言ってきた。
緋那は家のことも色々細々やってくれるわ探索中気遣ってくれるわで、超いい子です。
あまりに面倒見がいいので、変なのにひっかからないか心配になるなあはっはっは。
うん胸が痛いのは心配だからだよ! 色々とへこんでいるせいじゃない!
必死に言い聞かす私に、彼女はもう一度首を傾げる。
疑問の心を隠さない、とても素直な仕草だった。