探索で見つけたものを抱えて、町を歩く。
歩きながら、ため息が出た。
今日はこれを質屋で売って、もうなにもできないかな。そんな感じにくたびれてる。
ああいや。違うか。質屋の他にいくところあるな。
後ろをてけてけ歩いてくる龍を見やって、またため息。
私ではとっても従わせられないような高位の龍は、困ったように笑っていた。
ふたり暮らし その1
吾輩は冒険者。名前はもうある。マスターレベルはまだない。
いや、ない。じゃなくて。1なんだけどさ。
だから、今日であった龍とは契約なんて結べなくて。
じゃあお別れしようかというところだけど、竜屋にいきたいと言われちゃって。
今、彼だか彼女だかを引き渡した結果としての小銭をもって龍屋にいる。
色とりどりの翼でいっぱいの、にぎやかな店内。
うーん、こうしてにぎやかなところにいると、一人のうちに帰るの寂しいな。
そうだ。ここ龍屋なわけだし。レベル1の龍とかいないかなあ。そしたら私でも契約できるな。
よし、店の親父さんに聞かねば!
そうやって、振り帰った時だった。
―――店のスミ。こちらを睨むような目線と、出会ったのは。
…なんだよ。感じわりぃ。
それが、第一印象だ。
だってなにもしてないのに睨まれて。いい気分なんてしない。
いやでも。よくわからないけどさ。龍の顔とか。
うん、よくわからないからな。実は笑ってたりして?
「ああ。お客さん。そいつはお客さんでも契約結べますよ」
なんとなく目を離せずにいると、そんな風に教えてくれる親父さん。
…いや。別に。そういうつもりで、みてたわけじゃ。
言おうとした言葉は喉につまって、あいまいな笑みに代わる。
なんとなく逃げるように、その銀色の龍によっていく。
睨まれるような印象は、ますます強くなる。
ああ。もう。どうする?
どうするってこう、もうここまできちゃったらさあ…
「ねぇ、君―――」
そうやってかけた言葉に。
その龍は、驚いたように見えた。
第一印象がとっても悪い彼は、それでもしゃべってみれば気がいい感じだった。
「…んで。私としては君が一緒に帰ってくれるとうれしいよ」
『嬉しいもなにも。買っちまえば俺に拒否権ないだろうが』
気がいいというか、気が合いそうというか。
だから誘ってみたけど、返事は微妙な感じだ。だってさあ。
「いやまあそうだけど。でも、契約結ぶじゃん? じゃあ同意がないとダメじゃない」
『別にそうとも限らないぞ。…お前、本当に疎いんだな。そういうこと』
「…疎い主は嫌かな?」
『……ぐだぐだ悩んでる主の方が嫌だよ。…一緒に帰ってやるから、さっさと出すものだせ』
「え? あ…うん。出す。すいません親父さん、私、彼と帰るんで! お金はらいます!」
急いで財布を探す私を見る彼は、く、と笑った。
龍の顔の変化など分からないし、声も微妙に人と聞こえ方違う気がするけれども。
その時、確かに。笑う気配を感じた。
二人で店を出た後、私は大きくうなづく。
「よし、これで契約はなせたようなもんだね!」
『いや。契約石使えよ。ちゃんと契約結べないぞ。口約束じゃ』
「え…そうなの?」
『そうなの、って。当たり前だろ』
「んなこと急に言われても。私、召喚石家においてきちゃったよ」
だって、探索の最中死んだりするからさ。
その間になくしたら困るなと、貴重品は家に置いていた。
そんな、当たり前のことを言ったつもりだったのだけれども。
光龍メイベルドーっていう種族らしい彼は、しばらく沈黙して。
銀色の翼を、ばさりと鳴らす。
『馬鹿! しっかりしろボケマスター!』
「ば、馬鹿の上にぼけいった!?
私主人らしいのに!?」
翼を鳴らして空を飛び。文字通り上から目線の言葉に、とっさに言いかえす。
すっごく大きいトカゲっぽい生き物は、すごくご立腹らしかった。
『あほはアホだろうが! ちょっと自分の選択後悔したよ!』
「な、なんだよ! 君だって……」
馬鹿かもしれない可能性はなきにしもあらず!とか言おうとして。気づく。
いや、君じゃなくて。こういう時はさ。
『…なにいきなり黙ってるんだ』
「あ。うん。そのさ。あれだよ。君の名前、なんていうの?」
『光龍メイベルドーって教えたよな…?』
「なんだよそのあきれ果てた目は! そうじゃなくて、お名前! 君の名前! 個人名!」
依然として宙に浮いたまま降ってくる言葉に眉が寄るのが分かる。
つーかほらみろ。君だって馬鹿じゃんやっぱり。
名前はなんですか。人間です。
そんな風に答えるのなんて馬鹿に決まって…いや。決まってはないかもしれないけど…いや。いやいや。今はともかく名前だ。
『…んなもんねえよ。俺、野生だから』
「…野生だから?」
『あー…あんたどこまでもあれだな。いや。この町が特殊か。…龍は子を産むと死ぬんだ。
それでもほかの龍とつるんだりするやつとかは、そりゃ名前もあるかもしれないが。俺は特に群れとかにいたわけじゃない。誰もつけねぇよ。そんなの』
幾分か落ち着いた様子で説明されて、こっくり頷く。頷いて、納得はできたけど。
「そういうもんか。不便だな」
『……別に、今までは困ったことないな』
ばさり。
翼を下ろして、隣を歩いて。
これから同居人になる龍が、軽い口調で言う。
まあ、彼は本当に困ってないみたいだけど…
「でもこれからは私が困るよ。だってメイベルドー君って。長い」
『そんな理由かよ』
「うん、メイベルドー君って長いね…」
長い長い。いつか忘れる。
または、噛む。
これは愛称が必要だ。
こうりゅう メイベルドー。
メーベールードー………
うん。
「メー君にしよう」
『まて! もう少し捻れ! なんだその羊の鳴き声みたいな名前!? 馬鹿っぽい!』
すごくいい感じの愛称だと思った私の言葉は、すごい突っ込みを受けた。
それはもうすごい突っ込みようで。
琥珀色の瞳にあるのはすごい怒気、みたいな。
…うーん、これは……
「嫌なのか」
『嫌じゃないと思うのか!?』
「えーと………」
龍の表情なんて、うまく読めない。
繰り返すけど、なにしろ爬虫類っぽい。少なくとも彼はそういう竜だ。
けれども、彼が怒っていることは。声と態度でよくわかる。
…かわいくていいと思うんだけどな。メー君。
しかし、本人が嫌っていうなら。しかたない。
「イー君? ベー君? ルー君? ドー君?」
『一文字シリーズから離れろおおぉぉぉぉっ!!』
「…怒った…やっぱり私にマスターとか無理なんだ…」
『な、泣くな! 泣きたいのはこっちだ!』
―――この後、彼と私は熱く長い口論を繰り広げることになる。
なるんだけど、もう、途中で面倒くさくてね?
「君は今日からメー君だ! 認められなくても私はそう呼ぶもんね!」
『……この、くそマスター!』
マスターっぽく命令してみた言葉に、彼がうめく。
うめいて、嫌そうで。
それでもため息をつく彼はきっと付き合いがいいのだろうと、そんなことを思った。