窓を開けてすぐ見える、庭の景色。
どこからともなく聞こえてくる、賑やかな話声。
そしてなにより、庭で園芸に所為を出している磨智―――
俺は思わず呟いてしまう。
「平和だ……」
しみじみと呟いてちょっと親父くさくないか俺とか落ち込んだ。
それでもやっぱり、平和だった。
ある光龍の憤懣
いやだって、緋那と楽しく園芸しているってことは、俺にからまないってことだよな。
ドラテンで負けるても「やーいへたれー」とか言わないし。…まぁその後怪我してると治してくれるけど。
リビングに転がってても「邪魔だよ」とか言われないし。…いや、掃除中の時とか、俺が悪いと思うけど。
なにより! 「これ着て♥」とか笑顔で変な服押し付けてこない! 笑顔でどこまでもどこまでも追い掛けてきたりしない!
「平和だ……!」
再度呟く。本当に平和だ。
それに今日風矢どっか散歩とか言って飛んでいったから一回もからまれてねーし。いなきゃいないで静かだなとは思うけど気分いいよなあ変に絡まれるよりは。
あとかなたも今日は探索に従事しますとか言って戦闘行脚してない。ステラー!とか言いながら走りだしていったから間違いない。つまり蘇生にもっていく必要がない。重いのもあるけど、一応仮にも主人の死体なんて、あんまり見たくはないつーのに。あいつぽっかぽっかと死ぬからなあ。ったく。
まぁ、それも今日はないみたいだからいい。ああ…いい日だ…
「メーくーん! ひどいんだよ突風が! 突風が私の宝箱(銅)を飛ばしたよー!」
とかなんとか穏やかな気持ちだったのに、自室のドアが乱暴に開いた。
入口で泣きそうな顔してぴぃぴぃ叫んでいるのは、今まさに思い返していた主。
「ひどいよ…久々にトレハンっぽい得物だったのに…あんまりだ…」
いや、落ち込むのはいいけど。なぜ俺の部屋の入り口でへこむんだ。俺が泣かしてるみたいで嫌だ。
「…まぁ、とりあえず落ちつけよ」
「これが落ち着いていられるかだよー…」
「胴の宝箱なんてどうせたいしたもんはいってないだろ」
というかお前、よく爆発とかさせてるじゃん。トラップひっかってるじゃん。
なら今日のもどうせたいしていいの入ってないだろ。
心の中の声が聞こえたように、かなたはキッとこちらを睨んでくる。
「なにいってんのさ! 例え中身がどれだけしょっぱくても! 宝箱にはロマンがつまってるんだよ!?」
「でもロマンで腹膨れねーじゃん」
「今君私の職業全否定したー!」
叫び、わざとらしく目元をぬぐうかなた。
嘘泣きにしてもお粗末だよ。お前泣く時超派手にだらだら涙流すんだから、すぐ分かるし。
がりがりと髪をかいて、溜息をつく。
なんかよく分からないけれど、ともかく絡みたい気持ちなんだろ。長い付き合いだ、そのくらい分かる。
「全否定はしてねーよ」
「部分否定はしてるんだ!?」
「いちいち細かいこと聞くなよ。ともかく、うるせーよ」
「メー君のくせに冷静な顔で酷いこと言った…」
「俺のくせにってなんだこのアホマスター!」
反射で言い返し、はっとする。いや。いやいや。そうじゃない。他にいうべきことがある。
「んなに探索ついてないなら、今日はもう止めろよ。で、ドラテンでもつれてけ」
ぽんと肩をたたけば、かなたはとりあえず黙った。黙って、なんか生温かい目線を送り、はぁと溜息をつく。
「……君がドラテンにいきたいだけなくせに」
「俺が言わなきゃお前体力全部探索で使い果たしてくるからだろ…」
そうして龍にはあまり構わない。でも五匹ぎりぎりそろえてるのはなんだ。あれか。もったいないからかもしれない。空きがあるとうめたくなるってやつかもしれない。
…いや、本当の理由は。知っているのだけれど。
なんとなくしんみりとしている間に、かなたは大きく頷いた。
「…あーあ。それもそーだね、もう今日は私ツキがないのよ。
じゃあしかたないから君に付き合ってあげるよ。君がほとばしるほどよわよわでも」
「だ、誰がほとばしるほどよわいだ!」
「だってホントのことじゃない」
難易度的に気にしていることを言われ胸倉つかんでも、主は首を傾げた。
…それを言うなら!
「お前だってアホなほど死ぬだろう! あげく石につまずいて死ぬじゃねーか! それが戦闘系のすることか!?」
「石のことは言わなくてもいいじゃない…あれ体力1の時を狙ってくるもの…実は新手の魔物かもしれない…」
「いや石はただの石だよ!」
そんな特殊な石だったら、誰かが真相解明に乗り出してるよ。
それで今頃ダンジョンにも出没するようになってるよ、石。
胸に浮かぶつっこみというか文句と言うか。けれど、それを吐き出していてはキリがない。キリがないんだ、こいつの場合。
「ともかく行くぞ。とっとと行くぞ」
「…はいはい。もー、ドラテン好きなんだから―」
仕方ないと偉そうに笑って、かなたが言う。
…たまには、本当にたまには。穏やかに過ごそうかななんて思っていたけれど。
まぁ、予定とは違うけど、こいつが笑ってるんだからいい日、なのだろう。
玄関に向かう主を見ながら、そんな風に思った。
その後、やっぱり負けた。ぼろ負けだった。なぜゾア・カオスのところにつれていった。いやいいんだけどな。勝ち目がない勝負っていうのも燃えるから。
ただ……
「い、でぇ! なんでお前水かけるんだ! めっちゃすりむいてるところに水を!」
「消毒消毒ー。駄目だよ超回復にばかり頼っちゃ。雑菌入ったらコトじゃなーい」
「んなにやわな身体じゃねーし…」
「なら水くらい我慢しなよ。大袈裟なメー君だねえ」
「すりこまれれば普通にいてーよ!」
なんだ機嫌悪いのかと聞けば、んなわけないじゃんと答えられた。そっちの方が面白いからって鬼かこの女。
それから、それを見て人のこと笑いやがった風矢とやっぱり喧嘩になった。尻にしかれてるってなんだよ。誰がこんな色気のないチビと。
喧嘩になって、なぜか元凶な磨智にうるさいとたしなめられる。
そんな、いつもどおりの、釈然としない日々。
苛立つことも腹立つことも多い日々。
それでもまぁ、仕方ないか。
なんだかんだで綺麗に治療された手を見て、なんとなくそう思った。