なにか、嫌な夢を見ていた気がする。
 けれど、朝になれば、すべて忘れた。

うつつに続く

 126番地の朝食は、もっぱら交代制だ。
 そして今朝は、僕、風矢が朝食当番だ。
「おはようございます。
 …なんか皆さんテンション低いですね…」
 卵焼きにしたかったスクランブルエックを盛り付けつつ、思わず問いかける。
「夢見が…悪かった…」
 欠伸をかみ殺しつつメー。
「…偶然だな。私も悪かった…」
 髪に手櫛を入れつつ、緋那さん。
「私もあんまよくなかったなぁ…」
「僕も……久しぶりに悪かった」
 続いて、磨智さん。ベム。
「……皆さん仲がよろしいですね?」
 そういえば、僕も、あまりよい夢ではなかったような。
 …ちっとも思い出せないけど…
 変に不愉快。妙に不安定。
「…というか、ここまで来ると」
 マスターになにかあったのでは? 
 そう呟く前に、足音がもう一つ。
「…おはよー……
 …なんか今日は皆早いんだね…」
 マスターは…
 なんか、ふらふらしていた。
「……なんかいつにも増してヒドイ顔してねぇ?」
「…………。
 夢見がね、悪かったんだ、最悪に」
 やはり。
 僕達龍と彼女は契約を結んだ間柄。
 それにより多少精神が同調してたりもあるわけで、彼女の心が不安定ならその影響が僕らに……
 かなたさんと同調? 
 それは…なんか嫌だな。
「悪かったってどんな?」
 訊いたのは磨智さん。
「………納豆。」
 極東の島国で食べると噂の腐った豆がなんなのか。
 思わず牛乳を注ぐ手をとめ、彼女の顔を見つめる。
 似たり寄ったりな反応をする皆の視線を集めながら、彼女はのんびりと続ける。 
「納豆で、髪を洗う、悪夢。
 モノクロバージョン。」
「………そりゃ悪夢だな」
「そう…きしょくわりぃ…
 ということで風矢君。今朝は是非納豆は避けて欲しい」
 苦笑気味で朝ごはんのリクエストをする我らのマスター。
 納豆をさけるもなにも…もう作っちゃったんだからそんなこと言われても困る。
 ……というか、彼女は元からパン派。今日に限らず朝食に納豆はない。そこそこにレアだし、あれは米に合わせるものだ。米があるとも限らないし。
 突っ込みたいことが2、3浮かんだが、なにも訊かずに頷いた。
「わかりました」
 嘘をついているな。
 根拠なくそんなことを思いながら、僕は手を動かす。
「ありがとー」
 そう笑った彼女は、
 僕らに、どれだけ『本当』を見せているのだろう?
 隠し事が悪いわけではない。 すべてを晒すことは、信頼と違う。
 けど、それは…少しだけ…悔しい気もする。
 このほのぼのした主に、欺かれているような気もするから。

 そんなことを思った、ある朝の日。
 いつもと変わらず、ほかほかと米のたける匂いとパンの焼ける匂いが狭い家を満たしていた。

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