触れ合ってじゃれあって。
一緒に入れるのは何時までか。
考えずとも、共にいられる。
今は、まだ。
相変わらずの僕ら
ラララと軽く歌を口ずさむ少女の姿は、愛らしいと言ってもいいものだと、光龍は知っている。
けれど……
「…この状況でそう思えつーのはは無理だ…」
「なぁんのことかな? メー君♪」
「いや……お前ってホント、素材のよさが性格の悪さで台無しになっちまってるよな、あぁぁぁっ!
いてぇ! 髪! 抜ける!!」
「また生えてくるから平気だよ」
「そーゆー問題じゃねえ!!! 大体なんでまたこんなカッコしなきゃなんねーんだよ!? 死ね! このクソ!」
「メー君の悪口ってさ、いつも思うけど低脳さが滲み出てるよね」
「低脳ゆうな! このヘンタイっ」
「うふん。私をこんな女にしたのは誰かしらぁ」
「またお前かなたの持ってる変な本読んだんだな?
いやそれは置いといて、俺じゃないっ! それ、俺じゃない!」
「そーかな。メー君がこんなに女の子な格好似合うのが悪いと思うの」
「いちいち手作りするお前がおかしいすごくおかしい」
「アハハ。かもね。着てるのは君だけど」
「う……」
光龍の少年が呻く間に、地龍の少女はきゅ、とリボンを結びなおす。
少年の頭髪をぷちぷち抜くのに使っていたリボンだ。
雄でありながらやたら少女趣味な格好にしたてられる光龍はため息と共に宣言する。
「……いつか泣かす。絶対泣かす。」
「ふっ。いいの? マスターは怒るよ? または泣くね?」
「………それでも、だ!」
「あっははは。じゃあ精々楽しみにしてるね〜」
「お前、できるものなら、とか思ってるだろ!?」
「えへ。そんなことないよ。いつからこんな疑り深い子になったの」
少女は心底悲しげに言いながら、白いハンカチで目を覆う。
その端に施された刺繍に、少年は呟く。
「…バラ…」
「あ。これも私が縫ったの。上手?」
「…いつもそういうものを作っていればいいのに」
切実な少年の言葉はやはり笑顔でかわされた。
白いハンカチに描かれていたのは青い薔薇。
それを見て、少年は思い出す。
『どっかの国でさ、青い薔薇が魔法だかなんだかで、できたらしいよ。
でも、青い薔薇は、存在しないまま、不可能の象徴―――でよかった気がするんだよね。
人類手の届かないものがある方がロマンがあっていいよ』
いつだったか、アホでオカルトマニア(本人全否定)なマスターが力説していた。
『なんでもかんでも暴き立てると、寂しいじゃない。ねぇ』
『…そういうもんか?』
『そういうもんさ』
クスクスと笑うその声に、ふぅん、と適当に相槌を打った。
どうでも良かった。そんな話は。
けれど………
『……なんでもかんでも人の手で作り出されたのでは、夢がない。
夢がないのは…寂しいよ』
ぽんやりとそう締めくくるかなたは、言葉通りに寂しそうだった。
よく分からない話だったけど、それだけは分かった。
この世には暴かない方がいいものがある。
その言葉を聞いて真っ先に浮かぶものが、ひとつあった
この家にもそれがある。
自分にとって暴きたくない真実が、すぐ目の前で笑ってる。
『見て見てメー君、君のお嫁さん候補』
そう言ってつれてこられた、目の前の少女。
光龍は彼女が己をどう思っているのかは知らない。知りたくない。
―――知ったら、元にもどれねぇ。
だから、知りたいとすら思わない。
だから―――
「ハイ、完成。いやぁ、今日も可愛いね、メー子ちゃん♥」
「その呼び方止めろ! 本気で!」
光龍の少年にとって、地龍の少女は、厄介な性癖を持つ困った仲間であるだけだ。
笑顔が可愛いと思う。
けれど決して胸高鳴ることはない、仲間のまま。
それがいつまで続くのかなど、考えることすらしなかった。
主と共にドラゴンテンペストから帰宅した炎龍の少年は、ぼそりと呼びかける。
「ねぇ、かなた」
「なんだい、ベム君」
呼びかかられた主は、涼しい顔で従者を見やる。
「僕、さすがにそろそろ彼が不憫なんだけど」
「それで?」
「止めたら?」
珍しく真摯な響きに、青髪の少女は笑う。くすくすと、楽しそうに。
「やだよ」
「…なんで?」
「なんで、ね。
それはね、彼が女装して嫌がってる姿を見るのは楽しいからだよ。」
きっぱりはっきり言い放つ少女に、少年は冷めた眼差しを送る。
どうしよもないようなものを見る眼差しを受けても、彼女の言葉は変わらない。
「だって面白いじゃない。恥じらいがあるからこそ面白いんだよ、女装させるのは。
それにメー君、目つき悪くて怖いんだもの。口悪いし。私よりちょっとばかしおっきくて威圧的なんだもん」
「…それだけで? 目つきが悪いとほっとくの?」
少し嫌な顔をする少年。
少女はそれに笑顔で頷き―――少しだけ眼差しを遠くした。
「……それに、私が言ってもあの二人の関係が変わるわけじゃない。
………根本的に解決できないなら………私が口出ししちゃ駄目だろ」
「…かなた?」
低く呟く彼女の表情は、髪が邪魔してどこにも見えない。
「…いいのか悪いのかは知らないつーか、間違ってるんだけどな」
ふふふ、と彼女が笑って続ける。
「間違ってるんだよなぁ…私も、アイツもね」
顔を上げて呟いた少女は、そっと目を閉じた。
黙り込んだ二人の背後、地龍と光龍の言い争いだけが響いていた。