それは、ある暑い日の出来事。
 126番地庭先で仲良くアイスキャンディーをかじる3人の物語。

凍りついた顔

「……メーは我慢づよいですね」
 本日3本目となるアイスキャンディ(キャラメル)の包みを破りながら、風矢は言った。
「風矢…」
 メ―は呟き、かじっていたアイスキャンディ(バニラ)を落とす。そして、心なしか青ざめた顔で、がしっと彼の肩を掴む。
「どうしたんだ…お前がどんな理由とはいえ俺をほめるなんて、そんな…。悪いもの食ったんだろ!? だから甘いもの無条件にばくばく食うなって言ってるじゃん! 緋那がだけど!」
「いえ、別にほめているわけではありませんけど、ねえ…」
 なにやらいたく心配しているらしいメーに、風龍は溜息をつきそうな顔をして、頭を振る。
「よく平気だな、と」
「平気?」
 オウム返しに言うメー。
 なにが、と言いたげな顔に、風矢は今度こそ深く息をつく。
「…ことあるごとに抱きついたりするじゃないですか」
 磨智さん、と呟く風矢に、メーはみるみるうちに頬を赤くする。
「え、なに、いきなり」
「先ほどくっつかれていたので、ふと思いまして」
「…でも、…いつもだし?」
「そう、いつもですね」
 だから感心したんですよ、続けられた言葉に、メーは赤い顔をさらに赤くする。一足先に紅葉でも見ている心地だ。
「べ、つに。…平気ってわけじゃ」
「でも手を出す風もない」
 ぼそ、と呟いたのは、興味なさげにアイスキャンディ(コーヒー)を舐めていたベム。
 あくまで淡々とした、興味なさげな彼に、メーはむっとしたような顔をした。
「…俺だって手くらいだした!」
「手をだして、繋いだとか?」
「なぜそれを!?」
 ぽんっ、と赤くなるメーに、二人はしんなりとした目をむける。
 へたれですねえ。
 へたれだね。
 口に出さずともそう語るような表情に、彼は悔しげな顔をする。
「…つーかいきなりなんだよ。らしくねぇ」
 気まずさをごまかすようにメーは唇を尖らせる。
「…困ってるんです」
 緑の目が細められ、への字に曲がった唇からふぅ、と息が吐き出される。
「小町さん、可愛いんです」
 心底から困ったような風矢に言葉を失う二人。
 何とも言えない沈黙のあと、響くのは静かな声。
「…そりゃ良かったな」
「ん。おめでたい頭だね」
「…言い方を変えましょう。
 可愛いつーのに自覚ねえつーか…大宇宙のなすがままというか」
 その言葉を口にした瞬間、秀麗な顔が歪む。よほど嫌らしい。
 そうかそれは大変なのだなと頷くメー。一方、ベムは小さく鼻を鳴らす。
「煩悩まみれのことばっか考えるからじゃないか」
「…考えますよ。悪いですか」
「胸くっついてるとか意識しすぎだろ」
「意識しない方がおかしいでしょう!?」
 冷ややかなベムに、風矢はキッと眦を上げる。
「だってちょっとくっつくと分かるんですよ…!」
 同じような台詞を以前そこの色ボケ光龍から聞いたなあ、とベムは思う。
 言った本人は忘れているらしく、素直に顔を赤らめているが。
「それに彼女には煩悩かなんか意思がついてるんですよ…!」
「…そう受け取る君が煩悩にあふれてるんじゃない」
 問いかけっぽく断定。
 いつもなら全力で反発しそうな風矢は、しかし言葉に詰まり、顔を赤くする。
 勝ち誇ったように笑うベム。これも珍しい。
 そのどこまでも珍しい表情に、風矢は今度こそ眉を吊り上げた。
「大体…胸を見ない男がいるとでも!? でかいほうがすきでもちっさいのがすきでも見るものは見る!
 触ったりもんだりしたいと思うじゃないですか!
 みんな気にするとこは同じです」
 え、怒るのそっち――!?
 無言でつっこむメ―。
「ですよね、メー!」
「そういう話俺に聞くなっ!」
「…ないからですか?」
「やめろよそういうこと言うなよ怖いよ俺が悪いことになるんだよぉー!」
 頭を震えてがくがくし始めるメ―に、二人は口をつぐむ。
「俺は全然気にしてないって何回も言ってんのに! 何回も胸どうでもいいって言ってんのに!」
 誰のって、言ってないのに。
 ひたすら震える彼に、そう告げるのは躊躇われる。
 そんなに色々しみついてるなら地雷踏まなくなっても良いようなものだけど、とも言わない。
「…まあ、この特殊な例はさておいて。君のように健気というか禁欲的というか気の長い方がおかしいんです!」
「…別に禁欲的とは違うけど」
 緋那はそーゆー話言ったらすごく怒りそうじゃない、とベム。彼はそれに、と続ける。
「僕は元々項とかの方が」
「…え、じゃあ初対面からそこ見てたんですか」
「ううん、手見てた。綺麗だなあ、って」
「…さいですか」
 特に恥じらうこともなくさらりという友人に、風矢は静かな声で頷く。
 …どちらにしろ、そんなそぶりは微塵も見せないのだから、大したものだと思う。言葉の方がアレなのはその反動もあるだろう。
「ま、こういう話をするなら、本気で人気のないところを選んだ方がいいと思うよ、風矢」
「え?」
「そこで蓄音機回してるマスターがいたりするから」
「え」
 ぎぎい、と凍りついた顔で風矢は振り向く。
 生垣に隠れるようにしてうずくまるマスターがいた。
 見つめあう二人。その間に言葉はいらない。
 ただ無言で間合いをつめ、襟首ひっつかむ愛龍に、かなたは蒼い顔を左右に振る。
「言い訳は五秒聞きます。その後蓄音器壊してくれたらなにもしません」
「短っ」
「それでおしまいですか?」
「い、いや、…いや、その、あれだよ。だって君私のことふっとばそうとするから。そういうときの安全策に、と思って」
「人を乱暴ものみたいに言わないでください、ふっとばされるようなことするあんたが悪いんでしょうが!」
「ちょっとからかってみただけじゃない!」
「ちょっとじゃねえよ!
 この間あんたの一言の所為で嫌な目にあいかけたんですよ!? 誰がロリ巨乳好きですか!?」
「何さ結局いちゃついたくせに!
 つーか事実だろ、巨乳好きは、明らかに!」
「そこで選んだじゃありませんっ!」
 言い切り、肩で息をする風矢は、やがて小さく笑う。小さく、小さく呟く。
「っていうか今ふっ飛ばせば問題ないですよね…!?」
「…そうなったら鳴らしてやる…音量最大で主に68番地近辺で鳴らしてやる…!」
「大丈夫です、いま、貴女ごとぶっ飛ばすんで」
「…最近怖いよ君! ちゃんとカルシウムとってんの!?
 つーかこの状況に何のつっこみもねぇのかよ!」
 少し強くなった力に一層怯える主人に、涙目を向けられた二人はそれぞれ首を振る。
「別にどうでもいい」
「…ごめん、かなた。俺もそれ、消してほしい…」
「メーの裏切り者!」
 叫ばれ、う、とうめくどこまでも忠犬気質な光龍。
 けれどすごく消してほしい。とても消してほしい。全力で消してほしい。
 どんな些細なことでもあの手のことでは彼女にかなわないから。
「じゃ、いきましょうか、逆バンジー」
「いーやーだー!」
 昼下がりに悲痛な絶叫が響く。
 その先のことは……126番地近辺に悲しい顔でそっとカステラ主人に差し出す光龍がいたあたりが、全てを物語っていた―――。



あとがき
なんか書きたくなったんですよね、ちちちち言ってる風矢が。彼女の前では決して言いませんけどね☆まあ、わりとそれだけの話です。表にある「ある春の出来事」の対っぽい気持で書きました。
あとメ―は足派です死ぬほどどうでもいいけど。
09/12/28