愛してる愛してる誰よりも何よりも。
口に出すのはとてもたやすいその言葉。
信じさせるためにはどうすればいいのだろう。
違えないためにはどうすればいいのだろう。
「……欲しいなぁ」
呟くと、彼女が振り向く。唐突な呟きに、顔をしかめて。
不快そうな不安そうなその顔が、とても美しいと思った。
「…欲しいよ」
手を伸ばして、髪をすく。長くて綺麗な、その髪を。指に絡めて微笑めば、彼女は諦めたように頷いた。
ああ、やっぱり、欲しい。君が欲しい。
君が欲しくて、理由が欲しい。君といる、その理由が。
「頂戴?」
なにかを求めて彼女へ触れた。
いつもの行為。何度繰り返したかわからないこと。
それなのに―――どこか、悲しかった。
長い髪が美しい人
荒れた息とともに、シーツを握る指の関節が白く染まる。なんとなく痛々しくて、その手をそこからひきはがす。代わりに、自分の背に回してみた。
「……い」
いや、と微かに呟かれる。
涙でうるんだ瞳に、にわかに意思が戻る。
「…どうして?」
耳朶へ囁いて、軽く噛みつく。白い白いそこも、触れた手と同じく熱い。少しだけ、汗ばんでいた。
「気持ちよくない? …深くて」
まぁ、それが嫌なんだろうけど。
睨まれるつもりで言ったのに、罵倒も反論もない…珍しい。
代わりに、するすると腕が登ってくる。所在なさげだったそれは、首のあたりで落ち着く。抱きしめられて、開いていた距離がなくなる。
「…積極的、だね…、珍し、い」
一瞬だけ、息がつまる。その意味を測りかねたゆえか、少なからぬ刺激を得たせいか。分からないところだけど、悪い気分ではない。
「そんなにイイの?」
その言葉に、今度こそ睨まれた。
荒れた吐息のかかるような距離で、目尻にたまった涙がはらはらと流れる。
顔の輪郭をたどって、髪へ流れるそれが、ひどく綺麗だった。
「違うとでも言う? じゃあ、そんな顔しちゃだめだよ?」
それなりに饒舌な彼女が軽く唇をかむその顔に、体温が上がる。
ああ、本当に…可愛い。可愛くて可哀そうな俺のコイビト。
「…そんな顔されると、いじめたくなるし、さぁ…」
「……つも、でしょ、それ…」
熱の籠った冷たい言葉という実に器用なそれに僅かに笑いながら、彼女の背に手を回す。
そのまま、身体そのものを起こさせる。ついでに、少し持ち上げて、跨らせてみた。
「……ッん……ぁぅ」
「そうだね、いつもいじめてるしねえ。たまに優しくしないとねえ。で、自分より重いモノにのっかられたら苦しいかと思ったんだけど―――、まだ苦しそうだね」
「………と、が」
声にならない言葉が漏れる。…そういうところが苛めているんでしょう、とでも言いたいんだろう。口に出さずとも、その眼差しが物語っている。それでも、その腕は俺の首に回されたまま。近くなった距離が離れることはない。
「…可愛い」
「……悪趣味な、こと、言ってないで…!」
「言ってないで、もっとして?」
笑って言った言葉に、返る声はない。
それでも、腰を抱えてゆさぶれば、素直な声が返ってくる。
身体と共に跳ねる髪が、やはり綺麗だと、そう思った。
すべて終えて抱きしめようとすると、ぴしっと手を払われた。
それでも無視してやろうと思ったけれど、ふと違うことを思いつく。
「…さっきまですがりついてたくせにぃ」
「にぃ、じゃありません」
ベッドに入って向かい合っている今、その頬が赤いことは暗がりでもうかがえる。
…今更その程度で照れる彼女の感覚は、わりと本気で理解できない。…まぁ、いいけど。別に、それでも。からかえるし。
「…さっきまで可愛かったのになぁ。まあ今も可愛いけどぉ? あんなに抱きついてたのに。抱きつくっていうか、すがりつく?」
「……あれは、あなたが」
「いいから?」
「…蹴りつぶしますよ。」
「ごめんなさい。」
声に怒気以上のなにかがにじんだのを感じて、そく頭を下げる。ついでに、襟にいれかけていた手もひっこめる。なにを、とは聞けない。絶対藪蛇だから。
「…あれは、あなたが。…背中に爪立てられたら痛いと思って。とっさに」
「………」
苦々しい声でそう言って、彼女はふいと寝返りを打つ。背を向ける。
さら、と結われていない長い髪が背を撫でた。
「……」
馬鹿じゃない、と言いかけてできなくなったのは、その髪があまりに綺麗だったからだ。
何をするよりも真っ先に、それに触れたくなったから。
髪を一房指に絡ませる。長く艶やかなその髪は、少し硬い。からませてもすぐにほどけていく。そうして、その艶を見せつける。
「…綺麗だよねえ」
同じところへ落ちてしまえと呪って、無理やりに犯した。散々むごいものだって、見せた。
それなのにどこかまっとうさを捨てないから、もっとひどいことだって、した。
どれだけ汚しても貶しても蔑まれても、君は。
どれだけむごい扱いをされようと、俺を許す君は。
きっととても醜悪で、とても愚かで。
それなのに、こんなにも。
本当に、馬鹿みたいに―――
「……綺麗だよ」
「……そう」
不自然に間をあけてしまった言葉に、同じリズムで声が返る。
心地よいのに、やるせない。問い詰めたいとでも言いたげな空気が…それでもしない彼女が、とてもやるせない。
ごまかすように、長い髪をすく。手になじんだ、少し冷たい栗色。俺の大好きな色。
愛してるのは嘘じゃない。大切なのも嘘じゃない。けれど、その根本にあるものは、ずっと隠していたのに。
身体が繋がれば心が繋がるなんて、そんなことがあったわけでもないのに、その欺瞞は暴かれた。
できるなら気づかぬまま憎んで恨んで欲しかった。
気づいても、憎んで恨んでしまえばよかったのに。それだけのことは、したのに。
「……本当に」
指に絡めた髪に口づけ、小さく呟く。
「綺麗」
「…馬鹿の一つ覚えみたいに言われてもあまり嬉しくありませんよ」
「やだなあ、そこは『嬉しい』って言ってくれてもいいのに」
君が欲しい。理由が欲しい。君と離れずにすむ理由が。だから愛してると言ったのに。
勝手に憎んで傷つけて裏切った。だから、もう、そんな言葉に意味はなくなって。どんな言葉もひどく醜いのに。
そうして嫌になるたびに、君が俺を許すから。
甘えて付け込んで、縛る理由を探し始めた。
「飽きました」
「うわ冷たっ。でも、俺何度でも言うよ」
だって、君に言える真実は何時だって薄汚れたものばかりだったけれど。
この言葉だけは、汚れずに済んでいるのだから。
「愛してるよ、智華」
「はいはい」
指にからんだ髪をほどく。
するりと離れていく髪は、どこまでも綺麗だった。
あとがき
普通のお題用に書いていたけど、何度かいても不健全になりそうなのでいっそこっちで書き直し。まあこのくらいR18でも何でもないと思うんですけど。気分で。過去のこととはいえ、ひどいこともしてますしね…?
智華は普通に美人です(変な言葉)。顔の造形うんぬんより、本人の気合とたち振る舞いもあって美人です。まあ腹は結構黒いんですけどね?黒いっていうか冷たい。
けど彼女が「つめたい人」になったびは自分のせいという意識がある遥霞にとっては、きっと永遠に綺麗な人。綺麗で愛しい恋人で、けれど疎ましい幼馴染。
そんなノリのヤンデレ。っていうか自覚あるとおりに甘やかされてるから治らない気もするんだけどね…冷たくしたら死ぬしね…それを人は脅迫と呼ぶんだけど。自分に価値見出してないんで微妙に分かってないんですよねえ…彼は…
09/12/13