想いを告げて、傍にいれたら。それだけでよいと思っていた。
触れ合う手の温かさが、これ以上なく幸せで、それだけでよいと思っていた。
幸せで、それ以上が欲しくなっても。
まるで、無条件の温もりに囚われたように――――
温もりに囚われた
「大宇宙の意思は『膝枕で耳かきは男のロマン』と仰せです」
急にどうしたんでしょう、顔に疑問符浮かべつつ耳かきをてぬ持つ彼女に、どう答えるべきか迷う。
つい先ほどまでの会話の所為で、ぶすっといかれたらどうしようと思う―――わけではない。
膝枕はちょっと。色々と。危うくないか。
無言で悩む風矢の眼下で、すっと袴を畳んで正坐する小町が映る。
「どうぞ」
はにかんだ笑みを浮かべるのは、愛しい恋人。
風矢はなにを考えるより早く、首を縦にふっていた。
―――そして、今に至る。
ふにゃ、と柔らかいけれど確かな感覚が、頬を押しかえす。じわじわと伝わる体温は、素直に心地よい。
耳の中をくすぐる感覚も同様で、ともすれば瞼が重くなるような感覚。
けれど、睡魔が勝りかねない衝動がある。
これ以上なく近い肌。伝わる温もりは、安堵とは違うものを呼び起こす。
「痛くありませんか?」
「…うん、気持ちいい」
一拍遅れて、答える風矢。
メモ帳を作れば台紙ごと切る。釘を打てば下の台にした木まで打ち通し。カンナをかければ削りすぎ。つい先ほどまでそんな話を聞かされた所為で、ひたすら怖いものもあったのだが、痛いということはない。慣れない手つきが少しくすぐったいけれど、気持ちいい。
素直に和んでいれたなら、と思いながらも、じりじりと身を蝕む感情は、劣情。もっときっぱり言うなら性欲。そこまでいかなくとも触りたい。ひたすら心地よい膝とか、ちょうど目の前にある腹とか。すごく。
「……っ」
気づかれぬように拳を握っていた風矢は、不意に息をのむ。煩悩に負けて手を伸ばして我に返った…のではなく、耳を触られる感覚で。
「く、くすぐったい…」
「…ごめんなさい。つい」
「…つい…って」
手をひっこめる小町。風矢はぐるりと寝返りを打つ。膝に横たわるような体勢から、仰向けになって、顔を見上げる体勢。
彼の目に映る彼女は、ぽっと頬を染めた。
「ふわふわしていて可愛らしい、と思いまして」
「…可愛らしいといわれても嬉しくないですよ。僕、男ですし」
「魅力的ですよ?」
ふふ、と軽やかに上がった笑声とともに、手が伸びてくる。白い指先は、真っ直ぐな髪の中、不思議と重力に逆らう幾筋かの髪をいじる。
みょんみょんと自分の髪の毛をいじる小町を、風矢は不思議そうな顔で眺める。
彼女はなぜかそれが好き―――だそうだ。
小町さんが楽しいなら、と気にしないようにしたが、気になる。すごく。なぜアホ毛にそんなにこだわるのか分からない。髪の毛=アヤシゲなおマジナイの道具としか見てそうじゃなかった彼女が魅力的と評してくれるのは、何とも言えず独占欲を満たされる心地だが、彼自身としてはむしろその髪が嫌いだ。嫌いだった。
それに、風矢が触れると照れたような顔をするのに、自分からは良いのか。楽しいのか。…本当に謎だ。
…女心は分からないなあ、胸のうちだけで呟いて、風矢はそっと目を細める。頭の下に感じ温もりは、やはり心地よい。けれど、心が静まるかというと、逆だ。ざわざわする。
いつもと違い見上げる彼女の顔が新鮮でもあって、余計に落ち着かない。
―――本当に。
彼女といると落ち着かないことばかりだ。風矢は笑う。
落ち着かないし、常識だと思っていたものを変えられて。価値観も変えられて。苛立つこともあったのに。厄介な女だと思ったのに。
それでも、どうしよもなく好きになって。共にいて。今度は温もりに囚われた。
それはあまりに心地よすぎて、このままでもいいかと思う。
思う、けれど―――
くす、と笑いながら 手を伸ばして、頬に触れる。
「どうされました?」
「いえ、つい。可愛らしいので?」
「そうですか」
先ほどのやりとりをそのままなぞるその言葉に、小町は小さく笑う。
風矢も笑い返して、軽く半身を起こす。そして、唇を軽く重ねる。
青い瞳をまん丸に見開く彼女に、彼はゆるく口の端を上げた。笑顔―――なのだが、明らかに含みのある顔。
「……無防備ですよ、この体勢」
吐息のかかるほどの距離で囁く声に、手を添えられたままの頬が、熱を帯びていく。
赤い顔に笑みを深くして、風矢は胸の内だけで呟く。
このままもいいけれど―――それ以上を求めることを、してみたっていいでしょう?
「もう一回、いいですか?」
うるっとうるんだ瞳は、困ったようにさ迷う。
そのままふいっと顔をそらして、そうして――――
その後の彼女の答えは、彼のみぞ知る。
あとがき
変えられて、囚われて、責める気なんてないけれど。もっとくださいとは思うんですよ? …という話でした。予定よりエロくない。
羽堂さんちのアルバムにあったんですよ、色々つくってはぶすっといってしまう小町さんの話。そしてその後に受信される大宇宙の意思。そして便乗する煩悩まみれの青月。チャットではひたすらぶすっといかれる方面で話を進めましたが、別にぶすとはいかなそうですよね…
可愛らしく。けど攻めっぽく。気障ったらしく。そんな感じです。
そしてこのお題はタイトルほどシリアスに書く気は(かぜこまには)あんまりないですヨ。
幸せそうだなあ、風矢。やたらいちゃいちゃしてるの書きたくなるなあ、かぜこま…
あー。ちなみに最近は膝枕されたことないから描写に困るところです。したことならありますが。女友達を。…なぜとは聞かないでください…
09/12/20