二人揃って外泊できたある日のこと。
 まあ一通り満足したので、ベッドに入って。で、寝ようとしたら。
 もう先に寝ていたのかと思っていた恋人に、全力で抱きしめられた。

抱いて抱いて、抱き締めて、誰にも渡さないで、私だけのもの

「…いきなりなに。ちょっと痛い」
「…あ、ごめん」
 腰のあたりにまわされていた手をぽんぽんとはたく。
 それだけで離れていく手の平は、それでも肩のあたりに再びのびてきた。
 まあ、こんどはそえられるだけで。全然痛くはないわけだけど…
「…なに、なんかした?」
 なんか、すごくうす暗い。どよどよしている。
 …いつもお気楽の―天気だから、ギャップが怖い。
「…美華さんは今までもこう言うことした相手いるわけですよねえ」
 だから、思わず大丈夫か、なんて聞きそうになっていたんだけど。
 思わず眉を潜めて、腕から抜け出す。
 そうして向かい合った顔は、もうとっても辛気臭い。
「…なにあんた。それが不満なわけ?」
「ええ。不満。かなり不満」
「……」
 んなこといわれても。
 しかたないじゃない。昔のことは。
 やっちゃったことはやっちゃったというか。結局むかついて別れた相手たちだったりしたけど、当時はのぼせていたんだしというか。
 言わなくてもそれは伝わったようで、一層情けない顔をされた。
 情けない、と口にだして伝える前に、ぐりぐりと胸のあたりに抱きつかれる。地味に痛い。潰れる。潰れたら困るでしょう大事に扱いなさいよ。
「不満だから慰めて。身体で」
「今は嫌」
 上目遣いにこちらをうかがう首をぐぎっとそらさせて、にっこりわらってみた。
 そう痛かったらしい優哉はもう黙ってもだえてた。
 …まあ、このくらいでおあいこってことにしておきましょう。
 ……おあいこ、ねえ。
「あんただってあるでしょーに。私だけ責めないでくれない?」
 何度もしてるし、そういう話もしているし。そのくらいわかる。
「責めてないよ。嫌なもんは、嫌」
 拗ねた口調で言われて、もう一度溜息。
 …嫌がられてもねえ。あんたに会ってない頃のことなんてねえ。どうしよもないでしょうに。
「…美華さんは、嫌じゃない?」
「え?」
「いやじゃなかったら、そっちの方が『いや』」
 …いやって。
 ああ、そうか。こいつに昔の女がいること。
 そんなこと、深く考えたことも、なかったわけだけど………
「………いやね。すっげー嫌」
 …いままで考えなくても正解だったわね。
 ああ本当に。すごく。…気分が悪い。
「妬けるあまりに色々ちぎりたくなるくらい…」
「あなたの嫉妬わりと怖い」
 ずずっと身をひかれた。
 色々とはらが立ったので、ぐっと首にだきついてみた。
 ……まあ、浮気ではないわけだから。責めるわけにも、いかないんだけど。
 …もし浮気したら折ろう。どこかしら。
 なんて考えている相手に抱きつかれれば、さぞや怖いでしょうよ。脅してるのよ。…だって。
「あんたが腹立つこと考えさせるからでしょうが」
「だって考えちゃったんだからしかたないでしょう!
 ああもうもっと早く家でて都会でてきてればよかった! で、最初っから口説き落として頑張って僕しか見ない感じのひとにしむけ……はまあ気持ち悪いのでならなくていいけど! 第一の男がよかった!」
 言いたいことはわかるけど言い方がちょっと気持ち悪いわ優哉。
 っていうか第一って。
 とりあえず今はあんたしかいないんだし、人聞き悪いこと言わないでほしい。
「そうういうこと考えて1人で嫌な思いをするのも嫌だったので、つい、伝染しろ、と…」
 しかも嫌な思いにさせることはわかっていて口にだしたわけね。
 ふーん久々にデートできてしかも外泊もできて一日のシメにそういうことを言うわけね。
 つまり一日を嫌な気分で終わらせたい、と?
 くつくつと笑いがもれる。ちっとも楽しくないんだけど。
「ふ。ふふふ。御望み通り最悪の気分だわ。
 あんたは私のもんなのになにしてんのよ…」
「最高に嬉しいことを言われたはずなのになぜか背筋が寒い!」
 ちっとも楽しくないし、私は嫌なことはひきずりたくない。
 …ひきずる嫌なこと、なんて。仕事関係で充分よ。
 なにが悲しくてこいつとまでそんなことしなきゃいけないのよ。
 いつ離れるかも別れない相手と、腹をたてたままでいたいのよ。
 首にまわした腕に力をこめる。ついでに手の平で顔をさげさせて、キスをひとつ。
 ぐえ、とか聞こえた気がするけど。まあ、いいか。
「……なら想像させないでくれない? むしろ忘れさせろ」
「……『今は嫌』じゃなかったの」
 へにょりと眉を下げる顔は、とっても情けない。
 そもそも、今一緒にいるっていうのに。昔のことを気にする性根だって情けないと思う。
 何私以外のもんみてるのよ、とは調子づかせるから言いたくないけど。腹がたつ。
「怒ったら忘れた。―――――…嫌?」
 けどまあ、それでも。
「…とんでもない」
 そう答えて笑う顔は、それなりに男前だから。
 好きになっちゃったもんは、しかたないのよねえ。





言いたいことをぽんぽんいってぽかぽか殴り合うバカップル。
二人とも初めての相手ではないよ。遊んではいないけれど。
美華さんはそういうこと自体はそれなりに好きだけどプライド高いというかなんというかなので軽い気持ちで手を出されそうになったらけり倒す。むらっとしたら問答無用で彼氏押し倒すので浮気するよちあんまりなさげ。
彼氏は「まっぱの女の人に抱きつかれでもしたらそりゃああむらっとはするけど浮気は嫌ですねえ(色々ひきちぎられる)」につきるんでしょうねえ。
家族にあんまり恵まかったひと(両親が本編時点で存命だけど生涯妻の存在も娘の存在も知らせなかったほどに)なので。よい彼氏とかよい旦那になりたいとも思ってるのの合わせ技。別に虐待されてたとかではないのですが。
そしてそもそもそういうことが特にスキってわけではなかったのに! 美華さんに会って色々としこまれたというか! そんなんだから心配になって!という裏話があるんだけどこれ普通ヒロインの台詞じゃね?って思ったのでこの話奥さん視点。
back