7.耳
 美人はなにをしていても様になる。
 そんな言葉を聞いたのは、いつだったか。
 分からないけれど、今しみじみと頷きたい。惚れた欲目の所為だと思うけれど、頷く。
 美人はなにをしていても様になる。
 それが例え―――なんかオカルト書物の虫干しだって。
 ぽかぽかした陽気の元、本を広げる彼女は、まあ、美しい。うん。
 …いや、正直、その趣味はどうかと思うんだけど。思うんだけれど、止めろというのはなんか嫌だし。…楽しそうだし。
 黙って見ているしかないじゃないか。もう。話しかけてはいたけれど、途切れてしまった今、本当に黙って見ているしかない。
 しかない、と言っても。黙々と作業をする後ろ姿を見るのも、まあ、つまらなくはない。ぴんと伸びた背中とか、きらきらと光る髪とかが綺麗で。
 つまらなくは、ないのだけれど。
 …いや、ないのだから、別にいいか。
 などと思っていると、彼女が振り向く。
「風矢さん」
「はい?」
   どうかしましたか、と。手を止めてかこかとと歩いてくる彼女に、尋ねようとした。のだけれども。
「『たまの休日にはサービス』だそうです」
 なんかきゅっと軽く身を寄せられて、言葉が萎える。
 いや、たまの休日って。別にそういうの特に関係ないじゃないですか、君も僕も。とか、浮かぶ言葉もあったんだけど。
 少し苦しくなった呼吸で、ようやく吐き出したのは。
「……………アレの意思なんですね」
「はい」
 あっさりと頷かれ、こめかみのあたりが痛む。ずきんずきんと。
 あるいは、胸のあたりが。ひどく…しんどい。
「……そんなんでほいほい男にくっつかないでくださいよ、君は」
「風矢さんにしかしません」
「…そんなか、…そんなこと言っても駄目なもんは駄目ですからね」
 じわじわと上がった体温をごまかすように、ぎゅっと抱きしめ返してみる。ほんのりと熱が伝わってくるのは、今日の日差しの所為か。それとも、なんて考えると、余計に熱くなるけれど。
 熱くなって、いたたまれなくて。つい顔を伏せる。伏せる瞬間ちらりと見えたのは、髪とよく似た色をした耳。
 何とも言えない気まずさが、不意に悪戯心に代わる。少しは驚いてこっちの気持ちも分かってくれと、そんな気持ちになる。だから。
 整った形のそれを、ぱくとかじってみた。
「わきゃ」
 …なんか、思ったより面白い声がでた。
 なんか、すごく。面白い声がでた…。
 再度同じくことをしてみた。ぷるぷると震える肩が、こう、すごく。
「…小町さん」
 ぼすんと肩に顔をうずめて、呟く。それで首をすくめられるのも、なんというか、こう。
「……今、なんかすごく楽しいんです僕」
「…それは良いことです」
 一瞬の戸惑いの後、妙にしみじみとした口調で言う彼女に、ちょっぴり罪悪感のようなものがちらついたけれども。
 そうですね、と耳元で囁いて、ついでに軽く口づける。やっぱり面白い反応が帰って来た。
「…可愛い」
 思わず呟いた言葉に、赤くなる顔も、すごく。



(126番地庭での犯行。 罪状:ばかっぷる。)



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