「ねえ聖那」
「なぁに?」
「今日、とても良い夢を見た気がするんだ」
「あら。いいの? そんな話して。良い夢は言わない方が正夢になるらしいわよ」

10.瞳

 玲人の掌の中に、ころりと転がるものがあった。
 青いような黒いような紫のような。
 光が当たる角度で、なんとなく違う色合いになる。
 美しい夜というものを結晶にしたら、こんな色になると思った。
 ああ、そういう宝石もあった気がする。名前は忘れてしまったけれども、いつか見た気がする。
 
 けれどこれは宝石ではない。
 触るとほんの少しぬくく、ひどく錆びくさい。
 青いような黒いような紫のような。
 そんな色合いの、とても美しい瞳。
 その瞳の持ち主が、この上なく美しかったから。彼が一番美しいと思う色。

 掌の中の瞳を、彼は今日も綺麗だなと思っている。
 血に濡れてなお綺麗だと思っている。
 血に濡れている意味を悟っていても、とてもきれいだと。

 そんなことを思いながら、掌の中の宝物に口づける。
 塩の味と錆びた味が混じった、ひどい味がした。
 それでもむごく楽しくて。
 生きているのが楽しくて、彼はくすくす笑っている。

 そこで、目が覚めた。
「ねえ聖那」
「なぁに?」
 今朝の夢を大事に抱いて、彼は彼女に笑いかける。
「今日、とても良い夢を見た気がするんだ」
「あら。いいの? そんな話して。良い夢は言わない方が正夢になるらしいわよ」
 彼女の死を良い夢と笑う彼に、彼女は笑う。
 多分何の意味のないその微笑を、特に美しいとは思わない。
 けれど今日も、その目が。
 どんな時でも絶望的なまでに前を向くその目が、とても好きだと思っている。
 だから。
「…別にいいよ。どちらでも」
 今のところは、どちらでも構わないと。
 心の底から、彼も笑った。



(その日を夢見る程度に焦がれてる)



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