06:ひっぱる
食べなければ飢えて動けなくなるし、眠らないで活動を続けることなどできやしない。
必要なことが本能としてすりこまれているのは、とても合理的だと思う。
食べなければ眠らなければ生きていけない。増えなければ滅びてしまう。
ヒトを作った存在がいるとしたら、それは貪欲な存在だったのだろう。
生きて、増えて。絶えるなと。
本能のレベルで、そう告げ続けているのだから。
つらつらと考えて、脱ぎ散らかした服を眺める。わたしより一回りは大きい男物。床にそのままじゃ、シワになるって。本人も言ってるのに、散らかすなんてだらしない。
そう言わないのは、言う相手がいないからだ。シャワーをあびにいったきり、帰ってきていないから。帰ってきても、めんどうだから言わないけど。
なんて思っていたのがわかったように、寝室のドアが開く。
髪をぐしぐしとふきながら歩いてくる彼は、こちらをみると僅かに顔をそらした。
「…開いたけど。風呂」
「……面倒ね」
「面倒くさがるなよ。さすがに。冷え切ってるしよ」
「入るけど。2回も入るのって面倒よね」
「…悪かったな」
「別にあなたが謝ることじゃないでしょう」
「…まぁそうだけどな」
そうだけど、の次になにか言いたそうな顔をしていると思う。
なにをあれこれ悩む必要があるのか、よくわからない。
付き合ってと言ったのはわたしで、それにはそういう行為が含まれることくらい、理解している。
だから、嫌でも何でもないのだけれど。…ああ、なんでもないのが、気になっていることなのかしら。
何とも言えない顔をしている彼を眺めて、そう思う。
肌を重ねればそれなりに心地よいと思う。傍にいれば居心地がよいと思う。いなくなったら、落胆くらいするだろう。
けれど、それは、彼の求める感情とは少し温度差があるらしい。
温度差があると分かったけれど、埋める方法など知らない。埋める必要も、そこまで感じない。
…ああ、でも。もしかして、彼はこういうことで埋めたいのだろうか。
引き寄せられて近くなる体温と、近くなる吐息と、そんなもので。一つに。
…そうなったら、彼はこんな顔をすることはなかったのだろうか。
そうだとしたら―――不器用な人だと思う。
「…何見てんだよ」
「他に見るものもないもの」
「暇潰しだな」
「暇つぶしね」
「暇なら風呂入れよ」
「口うるさいわよね、拓登」
少し溜息をついてみた。それ以上に溜息をつかれた。
そのまま自分だけでも寝ればいいものを、彼は手をこちらに差し出してくる。
腕をつかまれ、ぐいひかれる。
抗わずに立ち上がれば、せめて隠せとタオルを投げられた。
…脱がせた時見てるのに。男心は繊細らしい。
「…拓登」
「ん?」
そんな変な顔をするなら、やっぱり、いない方がいいんじゃないかしら。
そう言えない程度に、この関係を惜しんでいるのだと。
どうすればうまく伝えられるのだろう。
ひっぱられて、ゆさぶられるのは身体で。心もそれと繋がっているのだと。もっと強く思えていれば。
愛してると囁いて、甘く笑えたのだろうか。
淡々とわりと甘いお二人の話。常世前設定です。彼の名誉のために言うならぼこらないと思いますよ。恋人としては。人として元相棒として、どうしても許せないことあったらぐーで殴る人だとも思いますが。無自覚な両想いが好物です。