昔から。
 昔から、私の好きな幼馴染は、笑うのが上手な人だった。上手すぎて、完璧すぎて、かえってあんなに歪なのに。どうしてだれもそう言わないのかしら。
 そんなことが不思議になるような笑顔だったけれど。うまかった。
 つまり本当は、下手だったのだろう。笑うことが。
「…どいてください」
「嫌v」
 それから長い時間がたって。
 好きだった幼馴染を恨んで、それでも愛して。この人の方は、恋人なんて、嘯いてみたりするようになって。
 彼はあの頃よりは、笑うことがうまくなった。仕事中の笑顔は、例の如く作り物じみているけれど。
 そう、あの頃よりずっとずっと自然になった、その笑顔の頭には。
 『たくらんでいるような』『いたぶるような』が似合うようになったことは、色んな意味で目頭が熱くなる。いっそ泣いてしまえばどくだろう。どくけれど、落ち込まれるのも本位ではない。諦めてほしいと落ち込んでほしいはちがう。明確に。軽くしょげている姿は面白くはあるけれど、それ以上に情けない。基本的にみたくはない。好きな男の、情けない様など。
 …けど。
「私は寝たいんです」
「俺は君と寝たいし」
「じゃあ寝てください。今すぐに。ほら、隣空けますから。まず降りて」
「違う意味で」
 こちらの指に指をからめて笑うその顔は、それはそれは楽しそうで。
 じゃあいいかと絆されたい気持ちにならなくもないが、ともかく眠い。
「……昨日散々したでしょう……」
 どうして眠いって、昨日散々付き合わされたから、眠い。
 じとりと目を座らせてみるものの、彼はくすりと一つ声をたててと笑う。
「君に色々したけど俺あんまりしてなかったなあと寝てる君をながめながら思ったの」
「…じゃあ手でとかならいいですから」
「それなりに色っぽいけど物足りないし、それだと」
「………挟んであげますから」
「その苦渋の決断、って顔はそそるけど。それでも物足りないし」
「…………………舐めてもいいですから」
「俺、今キスとか色々したい気分」
 からめられた指がシーツに押し付けられる。
 腹をまたいで、軽くのしかかられて。額に落ちてきた唇は、さけるにさけれない。
 見下ろしてくる顔は笑顔で、落ちてくる声は楽しげで。表情と声が一致しているのは良いことなのだろうと、場違いにも静かに思う。
 ああ、静かに、というより、これは。
 諦めなのだろう、たぶん。
「……どうしても、ですか」
「うん」
「……その、…ちゃんと一回で寝てくれますよね」
「…そのくらいなら付き合ってくれるの?」
 しおらしい疑問形がものすごく似合わない。昔から、そういうのがわざとらしいまでに似合わない。
 似合わないことに気付いているだろうにするのだから、余計に憎たらしくなる。
 くれるの、もなにもないでしょう。ここまで抵抗不可能な体勢とっておいて。それでも一応許可を求める辺りは、悪趣味だからではなく良心からなんだろうけれども。でも。…同じじゃないですか、どうせ。
「…仕方ありませんね」
「…顔でも赤らめて『し、しかた…ありませんね…』って躊躇いがちに言ってほしい」
「…仕方ない人ですねあなたは」
「うわあ。道端のゴミを見る目だあ…」
 しくしくと、これまたわざとらしく目元をぬぐいながら、逆の手はぷつぷつとボタンをはずしていく。…寝る時、タートルネックでも着たら、少しは抵抗になるかしら。こんな体勢だとしても。
 前開きの頼りない寝巻に溜息をついて、すぐに否定する。無理だ、そのくらいでは。シワになるだのまくられるとのびるだの言ってる自分が目に浮かぶ。
「…智華? 今、笑った?」
「いえ、ただの溜息です」
 そうなの、と今度はわざとらしくなく不満げに曲がった唇は、すぐに頬に落ちてくる。
 からめられた指が、ぎゅっと握られる。
 …そんなに掴まれたら痛いだけで。どこにも行く気なんて、ないのだけれど。
 口に出しても信じてもらえないなら、時間を重ねても無意味なら。身体くらいは、あげられたらいい。
 だから、のしかかられて、こじあけられて。
 がらんじめにどこにもいけない。

 ―――きっと、お互いに。




逃げ場はいらない。あなたがいれば。それでいい。
いっこくらいはらぶらぶ書いておこうかと思って。サドサドしいマゾとサドでもマゾでもないのに彼氏がアブノーマルで泣きたい彼女。でもこの話は普通に盛ってるだけで平和ですね。(普通じゃない状態→他の番号)