01:たたく
ぱん、とたたかれて、熱と痛みが遅れてやってくる。
痛い、と思う。
地龍というものは近距離の方が得意な種族だし、とても痛い。
けれど、たたいたこいつの方が痛そうな顔をしているのだから、おかしいと思う。
「…磨智」
「…謝らない」
別にそんなつもりで言ったわけじゃないのに、小さくつぶやかれた。
その顔は、やっぱり痛そうで。
ぶたれた頬より、胸が痛んだ。
「謝らない。君が悪い。……今回は、絶対、君が、悪い」
とぎれとぎれの声が泣いているように聞こえて、思わず手を伸ばす。ばしっとはらわれた。
「……磨智。俺」
「マスターが男の子ならよかったな」
言いかけた言葉が遮られて、低い呟きが聞こえる。
俺より低い位置にある顔が、無理な笑顔でゆがんだ。
「そしたら、こんなに気にならなかったかも」
「………関係ないだろ」
だってアイツが男でも。俺は同じことをする。
毒をもらってぐったりするから抱えて持ってきた。
…で、なんだか視線が痛かったので、謝ってみた。
謝ってみたら、たたかれた。で、この状況だ。
「…そうだね、関係ないかな」
呟く声は、力なくて。悲しそうで、やっぱり胸が痛い。
身体の痛みなんて、すぐに薄れるけれど。この痛みは、きっと生涯つきまとう。
「君がマスターを大事にするのは性別関係ないって知ってるよ」
一歩、近づかれる。
けれど、手を伸ばすことは、求められていないのだろう。
「ちゃんと線引いてることも、分かってるよ。そんな君もわりと好きだしさ」
ならいいじゃないか、と俺が言えることではない。
良くないのだ、本当は。
本気でこいつが大事なのに。心からこいつが大事なのに。こいつだけでいいとは、思えない。
それはこいつだって同じだろうけれど。
だけれど、俺の想いはこいつを散々傷つけたのだから、同じではない。
「でもさ」
黙っていると、ぱん、と再度たたかれる。
先ほどよりずっと弱弱しい、撫でるような力。
撫でるような力で、そのままゆっくり撫でられた。
「……でも。どうしよも、ない、よ」
「どうしよもない、のか」
「どうしよもないの」
なら、俺は一生お前にそんな顔をさせなければいけないのか。
悲しい笑顔に言葉がつまって、どうしよもない気持ちになった。
「謝らないよ」
だって、と小さくつぶやかれた言葉が、静かに耳を撫でる。
「謝ってほしくなかったもの」
私に悪いと思うなら、あんなことしないでよ。
低く、小さく、消えそうな言葉に、頷くことはできない。
頷くことはできないけれど、謝ることもまた。
言いたいことを理解してしまったから、できなくなった。
嫉妬に気付いてもらえないのは腹立つけど思わぬ時に指摘されるとみじめになる彼女の話。浮気じゃないけどこの上なく浮気っぽい。