「だーかーら! 私はかわいーこが好きなだけで別ユリユリしい世界が好きなわけじゃあない! だけど磨智ちゃんにくっつかれると嬉しいのにメー君ばっかああ!」
「かわいーこが好きなのが問題なんだよ! 磨智に抱きつかれてうれしそーにしてんじゃねーよばーか!」
「馬鹿って言った方が馬鹿だもんばーかー! やーい君の名前羊の鳴き声―――!」
「お前がそれを言うか!?」

 ―――そんな感じの2人の口論が終わった後。
 謎の感覚の共有は終わっていた。
 かなたは叫び疲れたのか酒の所為か、ぐっすりすやすや眠りについている。
 磨智はそんな彼女を楽しそうに運んで行ったから、今、126番地リビングには叫び疲れたメーと黙々とブラックコーヒーをすするベムがいる。
 リビングに落ちる、不思議な沈黙。自発的にはそこまで口数の多いわけではないメーと、寡黙な部類に入るベムですごす時間としては至極順当であり、今更居心地の悪いものではない。
 しかし先ほどまで騒がしさを極めていたせいで、妙に静かに感じられる。
 妙に静かに感じられたから、だろうか。
 ベムは珍しく口を開いた。
「…メーは」
 抑揚の少ない独特の口調で呟く炎龍に、光龍はぐったりと下げていた顔を上げる。
 そして。
「磨智になにもしてないんだね」
 さらっと告げられた言葉に、逆の方向にのけぞった。というより、仰向けにこけた。
 ごつんという実にいい音につっこむことなく、ベムは続ける。淡々と。
「健全と言うか初と言うか。…たまにマスターに去勢でもされてるのかなと疑う」
「いやいやいやいや。」
 がばりと起き上がったメーは、ずいと身を乗り出す。
 がしりと肩を掴まれても、ベムは表情を変えなかった。
「されてないししないよ。かなたは確かに色々あれだが。そういうことしない」
「そうだね。そんなグロテスクなことできそうにないね。でも君はおとなしい」
「…騒がしいってよく言われるけど」
「そう言う意味じゃなく。やられ放題だよね」
「…やられ放題…」
「反論できるの」
 問いかけの形で断言されて、メーはすっと目をそらす。
 眼は口ほどにモノを言うという様子を体言する光龍に、ベムは僅かに不思議そうな顔をした。
「磨智にピーーーーとかずきゅーんなことをしたくなったりしないんだね」
「………」
 想像にお任せします★的な処理をするしかない表現をさらっと吐き出したベムに、メーは何とも言えない顔をする。
 同性がそういう話を言いだしても赤くなったり青くなったりはしない。スタイルとかそういうものに言及されるとどうにも具体的に彼女のことを思い浮かべてしまって照れるが、あまりに直接的な欲求だから、余計に。
 …というより、風矢にこういうことを指摘されると妙に頭が血が上るが、ベムに言われるとそうでもない。きっと、それは。
「…お前、したいんだな」
 なんとなく物悲しい気持ちになるからだろうな、と彼はぼんやりと思った。
「磨智にはちっともしたくない」
「言わなくても分かる、つーかそうじゃなかったらブン殴るぞ…!」
 メーはじとりと目を座らせ、肩に置く手の力を強める。
 その様子に、ベムはますます不思議そうな顔をした。
「ちゃんと嫌だと思うのに。かなたには文句一つつけないんだね」
「できないだろアイツ。女だぞアイツ」
「やりよう次第でできるらしいけど」
「……お前らと俺がみている世界が違う気がする」
「僕だってみて楽しい世界とは思わないけど。昔磨智が緋那にそういうことしたらどうしようかと思って。
 別にそれでも緋那が好きなことに関わりないけど。悔しいから防げるものは防ごうと思ってた」
「………………へぇ」
 確かに今も昔も仲のいい2人だけれど。そんな疑いまで持たれていたのか。
 緋那緋那緋那緋那言ってるわりに、彼女に言い寄る男がいても気にしないとか言い出す辺り、少し不思議だと思ってはいたが。もしかしてそのせいなのか。彼にとって目下のライバルは磨智だけだったのか。
 複雑な心地ではるか遠くを眺めるメーは、やがて小さく溜息をつく。
「……俺だってさ」
 どこまでも遠くを見つめてしまったせいか、色々振り回された所為で疲れていたのか。
 その口はいつもより少し冷静に言葉をこぼした。
「したいとは思うよ。色々と」
 言うなり我に返ってって何言わすんだ!とか言い出すのが、彼の常。
 それでも今日は、ただ静かに続ける。
「…ただ…」
 静かに、少しだけ哀しげに。
 メーはすい、と顔を逸らす。
「………そういうことしよーとすると必ず気ぃ遠くなって………気がつくとなんか怒られたりなんか憐れまれたりするんだよ! 気付けば膝枕されてる時もあったな貧血で……その時はあいつ機嫌よかったけど……俺龍なのに貧血とかさあ………!」
「……そう」
 僅かに肩を震わせ哀愁漂いまくる口調で言い募るメーに、ベムは珍しく言葉を言い淀んだ。
 淡々とした声色に滲む、同情に似た色。それを確かに感じてしまったメーは、さらに肩を落とす。
 したいと思わないのなら、くっつかれて騒ぐことだってない。ピーーーーとかずきゅーんだったりばきゅーんなことを意識するから、あそこまで照れてしまう。色々血が上る。
「…血の巡る身体って不自由だよなあ…」
「…そんな風にふりまわされている龍は珍しいだろうけどね」
 響く声は、珍しく慰めの色を孕んでいて。
 メーは僅かに眼の端を拭った。




 あまりにメーがへたれだからなんかフォローしなきゃいけない気がして。
 あんなことやこんなことをしたいとは思ってますよ身体がついていっていないだけで。ええ。
 なんでそんなに照れるのかと聞かれれば、ネタ体質だからとしか言えませんけどね!