酒乱×狂宴

お花見。―――主に桜の下で飲んだり騒いだり―――宴会騒ぎをすること。

遥霞はこういった行事が大好きだった。想いの人とか人をいびることとかの次の次くらいに大好きだ。
ということで一同は、人数上近所迷惑なほど大スペースとりつつ、お花見をしていた。

―――元々この街はテーマパーク建設予定で、放棄された半人工島。
退れている割りに四季折々の花やらなにやらが楽しめたりする。

ということで春のお花の代表格、桜もある。

ともかく、一同はお花見をしていた。
それは花より団子を実演してみせるとか酒を楽しんでみるとか、各自の楽しみ方があるわけで、
ナンパ行為の報いでで桜の下に埋まっているとされる物になりかけるのも、あるいは、
『俺に飲み比べで勝てたらなんか君の好きなもん処分してあげてもいいよ』とか上司にノせられ、
真っ赤になりつつも飲み比べを続けるのも個人の自由だ。
けれど、成人したならば守らなければいけないことはある。法の光が届こうが届くまいが、これは守らねばなるまい。

未成年の飲酒は、いけません。



 ―――桜を見ると、思い出す。
 やたらへらへら笑っていて時々恐ろしくて、女顔を気にしてるわりに金がなくなると性別詐称してオヤジひっかけてみぐるみはいでくれたりして、自分を食わせてくれた、兄のことを。
 正確には兄貴は桜が好きだったな、ということを。
 …桜餅が朝飯で昼飯で夕飯になってしまったけれど、楽しかったなと思う……

「遠い眼差しで現実逃避している場合じゃないと思うよ?」
 至極冷静な流の声が現実逃避中の竜臣を現実に引き戻す。
「…………」
 はぁ……と竜臣は物憂げなため息をついた。

 ―――発端は、なにげない、実になにげない会話だったのだ。
 竜臣が遥霞へ人には言えないような写真その他もろもろを、少しでも処分してもらうべく飲み比べに応じていた時だった。
 二人とも顔は赤いくせに開始と全く変わらぬハイペースでグラスを開けまくっていた。
 遥霞が、無駄に自分が負ける喧嘩をふっかけるはずもない。つまり酒には強い。
 対して竜臣も、放って置けば二十四時間不平不満を肴に酒場に入り浸れる人間。
 つまりやはり酒に強い。というか気づいたら鍛えられてた。
『あんたらよく飲むわねぇ…』
 馬鹿じゃない? と呆れたように希羅は言った。
『んなに飲んで美味いもんか……?』
 雅もあまり温かくはない眼差しで問いかける。
『…人には…飲まなきゃやってらんねぇこともあるんだよ……』
『ふーん。はい、俺四十台のった。』
 竜臣にとって飲まなきゃやってらんねぇことの原因な人物は適当過ぎる相づちをうった。
『辛気臭い台詞ねぇ…童顔のくせに…』
 それはなにげない言葉だったのだ。
『んだと…』
 やはり彼は酔っていたのかもしれない。このことに関して元々短い気は線香花火並みに短くなっていたのだ。
『この場合、飲めねぇ方がガキだろーがよぉ?』
 …………それから述べるのもアホらしいような挑発合戦の末、希羅と雅が『酒ぐらい飲める!』と豪語。
 慶もそれに深く考えず賛同し……………
 結果……全員が見事に出来あがった。女二人はグラス一杯というある意味安上がりな二人だった。
 …………竜臣は自分の発言を力の限り呪いまくっていた。酔いなど無論冷めた。
 緋月 慶(推定17歳)は、なにが可笑しいのか全く理解不能だが、ともかく『アハハハハハハハハハハハハハッッ!』と
 喉が裂けんばかりに笑い続けている。陽気過ぎる、不気味だ。
 澄生 希羅は(18歳)、『だいたいいつもあんたは……』と説教だか愚痴だか良く分からないものをすわった目で行っている…
だけなら絡み酒(?)で済んだかもしれないが、彼女が熱い調子で語りかけているのは桜の木だ。こちらも怖い。
 風霞 雅(17歳)は、一見、笑ってないし桜を人間と見てはいないし、素面…に見える。
 けれど、なにかを恥らうようにどこかもじもじと、いわいる女の子座り、喋りかけると女言葉で返してきた。
 キャラが変わっている。別に元は中性的ながらも美少女なのだから、おかしくは無い。
 おかしくはないのだが素の彼女とのギャプに戸惑うしかない。

 要するに三人とも、なんかもうどうしようという感じなのだ。
 それを二人はちょと遠巻きに眺めていた。
「…どうするのアレ? そりゃあ酔った雅はポーとしてて可愛いけど…」
「ポーとしてるとかって次元なのか……?」
 今更、本当にすぎるほど今更だが流の雅に対する目は恋という名の厚いレンズで覆われていると感じた。
 あまりに色ボケた人種にもまれまくった慶などは、『恋ってあんなもんなのか……?』とか言っていたが、竜臣は違うと思っている。
 否、信じている。熱望している。むしろ狂信の勢いだ。そうでなければ世の中怖過ぎてまともに外も歩けない。
「…なんかまた関係の無い事を考えてない?」
「…………どうしようか?」
 図星をつかれて話題を戻した。
「うーん…とりあえず害は無い………? と無理すれば言えない事も無いし………」
 ―――疑問系な上に無理までして害がないとか言うなよ。
 竜臣は密かに思った。あれだけ不気味な集団なのだから、それだけで有害だ。
「……」
 もしかしたら場をどうにかしてくれるかもしれない智華も既に酔っ払いだ。
 無表情のまま、けれどどこか焦点の合わない目でクピクピとまだ飲んでいる。
 その脇に赤ん坊の頭ほどの石があることとか、それが一部紅く染まっていることとか、
さらにその脇に紅い液体を流している黒髪がいるのとかを気にしてはいけない。
彼は酔って寝ているだけであって決して永眠しているわけではないと思いたい。
「その証拠に痙攣してる……」
 もはや自分に言い聞かせるしかない。
「…まぁ、あれを放っておくわけにはいかないよね」
 わりと良心的(?)なことを言う流。
 ちなみに彼もさりげなく飲んでいるのだが、顔色も様子も変わったところはない。酔っていないのだろう。
「まぁな…」
 ―――こいつは女が絡まなきゃまともなのかもしれないのにな……
「じゃあそういうことで俺は雅をどうにかしてくるから☆」
 とても楽しそうにいきいきと流は走りよる。
 彼も馬鹿騒ぎに仲間入りだ。
 ―――絡むと、止まらないんだな……
 かけるべき言葉を見失いながら、思う。
 竜臣は、一途な人間が好きである。自分に害が来なければ、ことあるごとに燃やされたりしなければ。
むしろ流の態度は賞賛に値すると思っている。
「み・や・び〜〜v 俺酔っちゃたみたいなんだけど〜〜vv 介抱して〜〜vvv」
 こういう姿を見ると、返上しようかな…と思うが。
「! いやぁっ!」
 抱きしめられ可愛らしい悲鳴をあげる雅。流を押し返す動作さえいちいち乙女チックだ。
「…もうなんだよあれ……」
 お前素面だろ嘘つけぇぇぇぇぇぇぇっ! とかつっこみたいのを必死にこらえ、変わりに呟く。
「……俺そんな悪いことしたのか……?」
「…楽しそうですね?」
 静かに涙をにじませ、世の中を儚む竜臣に、声がかかる。穏やかな女性の声。
「……」
 面識があり、しかしだからこそあまり会いたいとは言い難い人物。
「人数が多いというのは良いものですね?」
 彼女はおっとりと上品に続ける。
「なにしに来たんだ、雅夜…サン」
 彼女は、登場する度に自業自得ながら不名誉な代名詞で済まされまくる雅輝の双子の姉だ。
「さんは別に要りませんわ。雅輝のお友達ですし」
 弟と対照的な、肩口で切りそろえた黒髪を揺らしながら言う雅夜。
「友達になった覚えはないような……」
「あら。冗談に決まってるじゃない。いちいち本気でとるから可愛いとか言われるのよ。それとなにしに来たかと訊かれましたね。
それはあそこで醜態晒している我が弟とは認めたくもない人間と言うか寧ろ物体? な奴を
一応身内の義理と景色の保全の為に
引きずりに来ましたというところですね。」
 にこりと笑いながら、一息もつかずになんだか酷い事を言う。眼鏡が光の反射を無視してキラリと光っていた気がする。
「………大変だな」
「ええ、そうですね。…ところで貴方のお悩みの種は彼等ですか?」
 言いながら酔っ払いの集団に目を向ける。
「…ラブコメですねぇ。あそこだけ空気違うんじゃありません? 恥ずかしくないのかしら。きっと恥ずかしくないのよね。
あんなにベタついてるんだから…あァ、でも、見てる側としては恥ずかしいことこの上ないですね……」
 初対面の人間に対してストレートな評価を下す。
 ―――そんなものいつも見せられてる俺の立場って一体。
「…まぁ、あれも青春なのかしらね……」
 やはりおっとりとした声音で言い括る。
「せーしゅんって……」
 アレが青春なら自分には一生来ないといいな。
 真剣に想う。竜臣
「それじゃあ頑張って下さいね。大変そうですけど。私はアレにとどめを刺さなきゃいけませんし……」
「…………」
「フフッ。冗談ですから強張らなくていいですよ。学習能力に欠けますね。
 まぁ、ちょと根性叩き直さなきゃとは思いますけど」
 無言でこくりと頷く竜臣。
 では、と彼女はどこまでも優雅に立ち去った。
 右手にぼろきれ状態で『もうちょと労わって…!』とか遺言…もとい哀願する雅輝を手加減無用で引きずりながら。
 そんな姉弟のコミニケーションを眺めながら再び竜臣は黙りこむ。
「……人間台風……」
 一見優雅なその姿を眺めながらぽそりと言った。
「……………」
 そうして、どっと疲労した気がする身体を、現実にひき戻す。現実を、見据える。

 桜は輝きはじめた月に照らされ艶姿を披露する。今まさに、花盛り。
 それに見守られつつ、宴は続く。
「ははっっ! ははははははははははははははははははははははははははっ!」
「なんでぇ私はっ! 変なのばっかりぃ周りにいるのよぉぉ!
 ヘンタイとかヘンタイとかヘンタイとかぁぁぁぁ!!
 ちょとあんた聞ぃいてるのぉぉぉぉぉ!!?」
「あーもー雅可愛いっv」
「やだ! 放して〜!」

「…………」

「…………」

 風は幻想的な桜色の嵐と―――喧騒と錆びた匂いを運びこむ。

「………………………そういえば親父も酒癖悪かったなァ……」
 現実を見据えた結果、どうしよもないだろこれ。と結論付け、やはり当初の予定通り、つっこみを放棄して現実逃避に走る。
「ちゃんと布団かけて寝てるといいんだけどなぁ……あー俺が心配しなくとも女つれこんでるかもな……
でもそろそろいい年だしなぁ……」
 もう、彼も止まれない。止めるものもない。

 ―――そんなヤバすぎる過激な酔っ払いの集団(一部例外)を眺めながら、ちゃかりと離れて傍観していた一団は思った。
 あんなのが幹部で自分たちは大丈夫なのだろうか、と…………
 当然の不安から来る疑惑だろう。

 各々思想と桜は、延々と続く宴を静かに見守っていた。


 ―――後日、一同が二日酔いで苦しみ、記憶がない者とかがいたのはのは…記すまでも無いだろう。

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