Cooking Battle!!
カラン・・・・
コップの中の氷が崩れる音が響く。
紫音はいつものようにいつもの店で酒を飲んでいた。
「あんた・・・また何かあったのか?」
店の店主、ライドが紫音に問う。
「・・・・・聞かないでくれ・・・・・」
紫音は疲れきったように呟く。
その時、店のドアが開き、誰かが入ってきた。
「ここだよ、雅。」
その声を聞いた瞬間、紫音は持っていたグラスに思わず力を入れすぎてしまい、グラスを割った。
「いらっしゃい。」
紫音にグラスの値段を告げた後、ライドが入ってきた人物に向かって言う。
「お前は・・・」
紫音も同じようにその人物に向かって呟く。
「あれ?君は・・・・・」
その人物、流も紫音の存在に気がつく。
流の後ろに隠れていた雅も気づいたようだ。
「知り合いか?」
ライドが、どちらにでもなく問い掛ける。
「奇遇だね。宝蓮紫音ちゃん・・・・・だっけ?」
相変わらずの笑顔で、流は紫音に話し掛ける。
ちなみに紫音の顔は引きつっている。
「マスター、この前のやつちょうだい。雅は何がいい?」
反応を示さない紫音を気にすることなく、流は注文をする。
「なんでお前がここに・・・・・・」
紫音がやっと、口を開く。
「前にこの店に来て気に入ったから雅を連れてきた。それだけだよ。紫音ちゃんは一人?」
「ちゃん付けで呼ぶなぁ!!!」
でかい声で叫びつつ、紫音は立ち上がる。
「え?じゃぁなんて呼べばいいのかな?宝蓮さん?紫音さん?」
「その前に私の名を呼ぶな!!汚れる!!!」
「アハハ。そんなことがあったら見てみたいね。」
青筋を浮かべている紫音に対して、流は笑顔で軽く流す。
「なぁ、なんでお前ら喧嘩してんだ?」
今まで蚊帳の外だった雅が口をはさむ。
「さあ?何か俺嫌われてるみたい。」
理由がわからないとでも言いたげに、流は肩をすくめる。
そんな流の様子に舌打ちを打ちつつ、紫音は酒を飲み続ける。
「そういえば、雅は何がいい?」
「俺酒飲めねえし・・・・・・ジュースかなんかがいい。」
「じゃぁグレープフルーツジュースと、チキンソテー。」
先ほど注文したカクテルを受け取りつつ、流は雅の分の注文をする。
「あんまり怒らせないでくれよ。これ以上コップを割られたら困る・・・・・」
ライドがいちいち紫音の感情を逆撫でしている流に言う。
その言葉に紫音は再び舌打ちをし、次の酒を喉に流し込む。
紫音が酒を飲んでいる様子を、雅はジーッと眺めていた。
「・・・・・・なんだ。」
雅の視線が気になって、紫音は雅に話し掛ける。
「いや・・・・酒ってうまいのかなぁって思ってただけだよ。そんなに飲んでるから。」
「ふん。クソ甘ったるい茶色い物体よりは天と地ほどの差があると思うがな。」
毎年繰り返される恒例行事を思い出して紫音はグラスが割れない程度に手に力を入れる。
「紫音ちゃんチョコ嫌いなんだ?」
「だから私の名を呼ぶなっつっただろおぉぉぉがぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
そんな紫音の怒りの叫びを聞いているのかいないのか、流は続ける。
「チョコが嫌いだったら雅が作ったチョコ食べてみなよ。俺も甘いのあんまり好きじゃないんだけど雅のチョコだったら食べれるんだ♪」
「それは貴様が色ボケていて舌にまで恋という名のフィルターがかかっているからだ。」
流の言葉に紫音は適切なツッコミを入れる。
しかし流は止まらない。
「雅はなんでも作れるんだよー。しかもそれ全部が高級レストラン並においしいんだよねー。それに可愛いしv顔だけじゃなくて全てがね。こんな恋人がいるなんて俺は宇宙一の幸せものだなぁvvv」
「どうにかしてくれ、これ・・・・・」
「俺に言うなよ。つーか恋人じゃねえし・・・・・」
流の色ボケ話に疲れてきたころ、誰かが雅の服を軽く引っぱった。
雅がそこに視線を向けると、そこには1人の少女が立っていた。
「何だ、お前・・・・」
正直言って子供の相手があまり得意でない雅は、自然と無愛想な態度になる。
「あなた・・・・料理得意なんですか?」
少女は雅に問い掛ける。
「まぁ・・・得意といったら得意の部類に入るけど・・・・」
「私と・・・勝負してください!!」
「はぁっ!?」
突然の少女の申し出に雅は素っ頓狂な声をあげる。
「やめておけ。そいつの料理は殺人的だ。」
よく犠牲になるライドが忠告をする。
「酷いです!!私はいつも真剣に作っているのに!!!」
「じゃぁなんであんなもんができんだよ。」
「それは・・・・・偶然です!!!」
「そう毎回毎回偶然が起こるか!!!」
いきなり言い合いを始めるライドと少女。
どうやら相当酷い料理らしい。
「そんなに酷いのか・・・・?」
「酷いなんてもんじゃない。こいつは食いもんじゃなくて生物を作るからな。」
その料理という名の生物を思い出したのか、ライドの顔が青ざめる。
「生物・・・」
チラッと、雅は流に視線を向ける。
「何で俺の方見るのかな?雅。」
「いや、別に・・・・・」
「それで、勝負してくれるんですか?」
少女が、雅に問い掛ける。
雅は少し考えた後、
「俺より先に流と勝負してみたらいいんじゃねーか?」
「俺?」
流は、まさか自分に話がくるとは思っていなかったので驚いて雅に聞き返す。
「お前と同じくらいの腕だと思うんだが?」
「俺の料理そんなに酷いかなぁ〜?」
雅に真顔で言われ、苦笑しながら流は言う。
「あんたも生物作んのか・・・・・・?」
自分の店のウェイトレス、セレナと同じような料理(生物)を作るという人物がいることに心からライドは驚く。
というか信じたくないというのが本音だ。
しかし、それにもレベルというものがあるのだ。
流の料理がセレナの料理よりも酷いかどうかは比べてみないとわからない。
というかセレナの料理より酷い料理など見たくないかもしれない。
「俺は別にいいよー?そっちがよければ。」
「・・・いいですよ。」
そして、流vsセレナの料理対決が始まった。
ガガガガガガガガガッ!!!!!
ズドンッ!!!バコッ!!!ベチャァッ!!!!!
「何の音なんだ?一体・・・・・(ベチャァっていったぞ、今)」
「「料理の音だろ。」」
―――いや、何だその当然だろみたいなさらっとした言い方。
そんな疑問を持ったところでこの状況が解決されるわけではない。
それはわかっていても、紫音は今の状況を理解できないでいた。
流とセレナは料理をしているはず。
料理をしているのであってけして工事をしているのではない。
それなのにこの音はなんなのだろう?
しかもその音を平然と聞いている人物が2人。
「どんな料理ができるんだ・・・・・・セレナのは大体わかる気がするが・・・・」
そう言い、紫音は雅に視線を向ける。
「流の料理は・・・・・・見た目は普通なんだよ、たまに。」
「たまに!??」
「たいていは生物なんだけど・・・・・まぁ汚い生物じゃないから悪い気はしないんだけど・・・・・
どうしたらこんなものができるんだ?的な料理。」
「わからん。」
「まぁ、見た方が早いと思うぞ。ほんとにびっくりするから。」
「あんたのところは汚くないのか・・・・・・じゃぁ汚さではこっちがピカいちだな。
バレンタインのときなんか悪夢だったぞ。奇怪な声は上げるし死にかけてるし。」
ライドはどこか遠い目をしながら言う。
相当気持ちの悪い料理(生物)が出てきたのだろう。
しかもバレンタインだったなら食わされたに違いない。
「あんたも大変なんだな。」
「人に好かれるというのも辛いときがあるからな。私は間違った方向でだが。」
「俺はあいつからは殺意しか感じられないが?」
お互いに溜息をつきあう3人。
「「お待たせ〜v」」
そこに、料理を作り終えた2人が自信たっぷりという顔でやってきた。
2人の手には蓋をされた皿が乗っかっている。
それぞれの皿からは蓋がされているにもかかわらず只ならぬオーラのようなものが滲み出ている。
「なんだ、あのオーラみたいのは・・・・・・」
「さぁ・・・・・俺も初めて見る・・・・・」
「おいおいおいおい。一体何作ったんだ。止めてくれよ、爆発物は・・・・・・」
2つの料理の異様な雰囲気に、自然と顔が引きつる3人。
「じゃ、俺からね♪」
流はうきうきしながら皿の蓋を取った。
すると突然中から何かが飛び出し、それはまっすぐ紫音の方へと飛んでいった。
「ぎゃ―――――っ!!!!!???何だこれは!!??キモッ!!!これのどこが料理なんだてめえ!!!!!」
得体の知れない料理(生物)に飛びつかれた紫音は、自分の体にくっついた、流曰く「料理」を引き剥がし、流の方へ投げつける。
「えー?可愛くない?」
投げつけられた料理(生物)をうまく皿で受け止めながら、流は心外だという顔をする。
「可愛くないわボケ!!!目腐ってんだろ、お前!!!!」
「今回はまたファンシーな出来だな、流。」
皿の上の料理(生物)をまじまじと見ながら雅が言う。
皿の上に乗っている料理(生物)は、ピンクの丸い体にキラキラとした大きくつぶらな瞳で、可愛いといえば可愛いしキモイといえばキモイ生物だった。
流が言うにはチャーハンを作ったらしい。
「くっ・・・・・・可愛さならこっちだって負けません!!!」
「勝負の趣旨変わってるぞ!!!???」
セレナの発言に、ライドは律儀にツッコミを入れる。
「次は私のです!!!!」
続いてセレナも皿の蓋を取る。
流の時と同じように、中から何かが飛び出し、やはり紫音の所へ飛んでいった。
「何で私の所へぇぇぇぇぇぇっ!!!!しかも離れないぞ、これ!!!?????」
流のものとは打って変わって、色はどす黒く口は不自然に裂け、つりあがり、「キシャシャシャ・・・・」とか笑っている気味の悪い料理(生物)だった。
その料理(生物)はしっかりと紫音の服を掴んで、離れようとしない。
「うわっ・・・・キモッ・・・・・つーか怖っ。」
「俺の方がマシだよね?ね?」
「あ、新しいパターンだ・・・・・今までで一番酷いかも・・・・・てゆーかそれは悪魔を召喚したのか?おい。」
あまりもの恐ろしいその料理(生物)の姿に、誰も紫音に近づこうとしない。
「おいいぃぃぃぃぃぃっ!!!!誰か助けろボケェッ!!!私を見殺しにする気かぁぁぁっ!!????」
未だに気味の悪い料理(生物)にくっつかれている紫音は、遠巻きに見ている3人に叫びかける。
「いや・・・・でもなぁ・・・・」
「助けろと言われても・・・・・」
「犠牲は少ないに越した事はないよねvv」
――――見殺しにする気満々!!!??
「っそーだ、セレナ!!!もとはお前が生み出したものだろう!!!!何とかしろ!!!!」
紫音は3人に助けてもらうのは諦めて、この料理(生物)の生みの親、セレナに助けを求める事にした。
「そんなの私に言われても無理です!!!!」
「自信満々に言うなぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
胸を張って言うセレナに、紫音は頭を抱えつつ叫んだ。
「じゃぁ雅、そろそろ行こうか。遅い時間だし。」
「いいのか?あれ・・・・・ほっといても。」
「何とかするでしょ。じゃ、マスター、ここにお金置いとくね。ごちそう様〜。」
流は雅を連れて手をひらひらと振りながら笑顔で店を出て行った。
ちなみに流が生み出した料理(生物)は店に残ったままで、しかも再び紫音にくっついている。
「くっ・・・・あいつめぇ・・・・・ぶっ殺す!!!!」
流が出て行ったほうを睨めつつ紫音は呟いた。
「どうなんのかなぁ・・・・・俺の店・・・・・」
どこか遠い所を眺めながらライドが呟いた。
そして、夜が明けるまで紫音と料理(生物)の戦いは続いた。