出逢い、彼らの場合。

 ここは、何でも屋『BLACK・MIST』の本部の一室。
「や、いらっしゃ〜い」
 ニコニコと、一見人畜無害な微笑みを惜しげもなく晒した遥霞の緊張感の欠片もない台詞で、二人は迎えられた。
 何でも屋『BLACK・MIST』のトップたる彼の側にいるのは、常のごとく彼の『人生のパートナーv』こと智華。
 そして、いつもと異なるのは、椅子に腰掛けた彼の側にいる二人の男女。
「今日、あなた達をよんだのはそちらの二人を紹介したいからです」
 訝しげな希羅と慶に対し、淡々と智華が説明する。
 そして、二人―――雅と流に視線で自己紹介を促す。
「俺は火影 流。よろしく」
「風霞 雅だ」
 ―――ふぅん……同世代、かな。
 希羅が、淡白な感想を胸の内で漏らす。
 ―――なんか……変った奴ら……。
 お前も十分変ってる。
 もし彼がこの意見を口にしていたのなら、こうつっこまれていただろう。
「緋づ……慶、だ」
 緋月、と言いかけて止める。
 人殺しをしていた頃のことを訊かれたりしたら堪らない。
 そう思ったからだ。
「澄生 希羅。よろしく」
 ―――突然だが……希羅は人に利き手を預けることをしない。
 武人として幼い頃から訓練された結果である。
 そして、本人の自覚は薄いのだが高慢な感じがある。
 そう、今回のように。
 ―――よって。
 ―――なんだよ、感じ悪ぃな……。
 雅がこういう感想を持つのも、自然な流れだろう。
 流は柔らかな笑みを浮かべ、腹のそこではなにを考えているかわからない。
 結論・空気は険悪。温度で言えば1,4℃ほど下がった。
「……雅さんも流君も、かなりの実力を持っています」
 そんなぎすぎすした空気を緩和するためか、自分の用件が片付かないのが嫌なのか。
 智華が口を開く。
「だから、たぶんあなた達と組むこともあるはずです。仲良くしてくださいね」
 完璧な無表情で、場をまとめるようにそう締めくくった。
「でもー♪ 仲良くなるにはきっかけが必要でしょ? だからこれから皆でそこら辺観光してきて」
「なっ!?」
「はっ!?」
 希羅と雅が、似たもの同士と思わせるリアクションをする。
「な……な・ん・でっ! んなことやんなきゃなんないのよっ!?」
 早口にまくし立てる。
 人付き合いが苦手な者としては、そんなことをさせられるのはたまったもんではないのだろう。
「なんで? 愚問だろ? 俺が楽しむためv」
「ふざけんじゃないわよ。あんたが行きゃあいいでしょっ? あんたが!」
「無理。面倒。」
「〜〜! 自分が言い出してそのものの言いはっ……!」
「―――困るだろう?」
「―――?」
「それなりにお互い仲良くやってもらわないとね……困る」
 一転して真顔でそう呟く。
「……わかったわ……」
「そう。嬉しいよ」
 ―――よし。とりあえず騙したね。
 そんな遥霞の思案も知らず、会話を切り上げる希羅。
「……そういえば竜臣君に会いませんでしたか?」
 思い出したように言うのは、今まで黙り込んでいた智華だ。
「? アイツもよんだのか?」
「うん。逃げやがったねあの野郎。ククッ……この俺に逆らうとはいい度胸だよね……竜臣のくせして。」
 その背に大きな悪魔の羽が見えたのは、一同の目の錯覚であろうか?
「お前は悪魔か」
 思わずそうつっこむ雅。
「竜臣…………………。一人で逃げようったってそうはいかない………」
 ポツリと呟いた希羅の瞳には、危ない光が宿っている。
 辺りの気温がまたもや下がった。
「行くわよ……」
 危ない状態の希羅を筆頭に、四人は部屋を後にした。


 コンコン。

「竜臣」
 宿舎の中の彼の部屋の扉をノックする。
 反応は、ない。
 気配は、ある。
「居留守使ってるみたいだね」
 恐らく全員が思ったであろうことを流が言う。
 希羅が一言呟く。
 小さく、だが明確な言葉。
「童顔」
どんッ!
 刹那、一同の間を弾丸がぬけ、壁にめり込む。
「いきなり訪ねてきてあいさつがそれか……?」
 ドロドロドロ……という音を従え、発砲した張本人が現われる。
「事実童顔でしょ。たくっ居留守つかうなんてセコイ真似を……」
 勝手につかつかと入っていく。
 そして、
「で……なんで来なかったわけ?」
「………………『ひ・み・つv』」
「は?」
「何のようだと訊いたら、これだ。これは絶対にろくなことがないと判断し、行かなかった。悪いか」
「悪い! 悪いに決まってんでしょ! このクソ童顔! 外見年齢15歳!!」
「な゛……っ! なんだと!?」

 カーン。
 どこかでコングが鳴った。

「童顔童顔童顔童顔童顔童顔ってそれしか言えないのか?――――まったく……口を開けば毒ばかりはいて……
嫁の貰い手がみつからないぞ?」
「ハッ! 結婚にしか幸せのカタチを見出せないなんて古いわね! 脳みそにウジ湧いてるんじゃなぁぁぁい?」
「黙れよ。この剣術馬鹿」
「なによっ!」
「なんだっ!」
 素晴らしいスピードで繰り広げられる、意味不明の言い争い。
「くっ、くだらねぇ……」
「小学生並みだね」
「なんか……オレ悲しくないのに涙が…………」
 それは見るものに妙な脱力感を味あわせる。
「まぁあんたは結婚も考えなきゃいけないのかもね。なんたって指名度1だったそーじゃないの。ねぇたつみちゃん。
 それにキスまでいった殿方がいるんでしょ。そーんなに結婚したきゃすれば。男と。誰も止めないわよ」
 ―――以前、彼はとても難儀な目に遭った。。
 竜臣は(抵抗したが)女装してお水の世界に潜入。
 『奥ゆかしい態度が新鮮』やら『初々しい反応が可愛い』とかで大人気。(本人は泣いていた)
 結局最後はばれたのだが…………特に彼に入れこんでいた男が、『男でもかまいません』と……(かまってくれっ! By竜臣)
 ……せめて初めてではなかったことを祈っておこう。
 ちなみにどこに手を回したのか、写真を手に入れていた性悪上司のおかげでそのことは公然の秘密と化している。
 (その写真を見せられた竜臣は飛び降り自殺を図った・全治6ヶ月)
「おもっ! 思い出させるなぁぁっ!!! おぞましいっ!!」
 本人は忘れて欲しいと切に願っている。
 しかし忘れて欲しい事こそ他人は憶えているものなのだ。
 「え――――と…………。とりあえずあの銀髪は西園寺竜臣って言うんだ…………二十歳で……
  年より若く見える事をすっごく気にしてる………。アイツの名誉のために言っとくけど……変なシュミはないから……………」
「あ――――……………そうか………」
 この脱力感はなんなのだろうか。
 答えられる者は、いない。
「―――はっ。なぜこんな言い争いを?」
「―――そうよ……。じゃあ観念してあんたも付き合え。観光」
「観光………。あぁ……いかにもあいつが好きそうな……。別にいいだろう、お前が行けば。
 丁度いいじゃないか。お前と歳近そうな色男二人で」
「はァ!? ……さてはさっきの根に持ってるわねっ!」

 エンドレス。
 第2回戦発動。


「あはは。付き合うのは無理だよね。雅は女の子だし。俺は雅一筋だしv」
「抱き付くなっ、つーかさわるな! 気色わりい!」
 有無言わせず抱き付いてくる流。
 当然額に青筋立ててそれに抵抗する雅。
「酷いな〜。俺と雅の仲なのに〜v」
「どんな仲だよ!」
 そう叫び、力任せに流の顎に拳を入れる。
「……大変なんだな…アンタらも……」
 自分には理解できない世界。
 そう思いつつもそうもらす慶。
 ちなみに希羅と竜臣はまだ不毛な――互いの生活態度やら、服の趣味、味覚がガキくさいやらババくさいやらの―――
 言い争いが続いている。
「……オレって実は可愛そう?」
 慶は一人首を傾げる。

教訓・理性の残ってるものは損をする。

 ―――数10分後……。
 雅と流のあのやり取りはいつものことなのでけりはついている。
 しかしその横では未だに二人の世界にいってしまった人がいる。
「いい加減止めろよ、あれ」
「なんでオレに言うんだよ……」
「だって君の方が付き合い長いでしょ?」
 そう言って慶を見る―――否、観る流。
「………そうだな」
 敵にまわしたくねェタイプ……と自分にしか聞こえぬ声で呟く。
 ―――それにコイツ………。オレのこと………。
 昔の慶の名は知れ過ぎている。
 金の髪に赤い瞳。
 それだけで名乗らずとも解られてしまうのだ。
 どんなに逃げたくとも、それは絶対に叶わない。
 ―――話しても聞かねぇよなァ……このへんにある竜臣の銃でも使うか
 でもあそこまでいくとそれさえ効かねェんだよな〜。たっくよォ……やっぱ確実なのは………………。
「どーせいつかはわかるコトだしな………」
 なにやら納得した面持ちで、呟く。
 そして、頭でイメージを練り、腕で軽く空を薙ぐ。
 ボッ……。
 何も無い空間が刹那歪み、炎が生まれる。
「んきゃ!」
「ちょ……危ねぇだろ!」
「いつまでもくだらねーコトしてっからだよ」
 なにやら文句を言ってくる二人に、じとりとした目線を送る。
「―――あいつ、お前の同族、じゃないよな」
「そうだね。あれは『操る』じゃなくて『生み出す』。俺とは、はっきり別物だよ。それに―――」
 ―――あれは血統で元からあるものと聞くから。
「なんだよ?」
「さぁ。雅がかまうことはないよ」
「テメーにだってかまわれる筋合いはねェ」
 いつのまにか二人の側に来た慶が言う。続けて、
「オレの問題には、関わるな。オレの問題だ」
 悲しげに澄んだ瞳で、そう告げる。
「なにやってるの? 行くわよ」
 重くなりかけた空気は希羅の声で途切れる。
「げっ。行くのかよ……?」
 うんざりしたように呟く雅。
「いいじゃん。ほら、これから二人で出掛ける時の参考にv」
 流がフォローになっていないフォローをする。
「誰がてめぇと二人で出掛けるか! バカ野郎!」
「………おいてかれるぞ、一応行けよ」
 飽きずに掛け合い漫才を続ける雅と流を引き摺って行く慶。

 ―――こうして、やっとのことで『観光』が始まった。


 ―――だかこんな五人が集まってなにもないはずはなく……。
「オイ。そこのガキ」
 12、13ほどの少年の襟首を、がしっと捕まえた雅が言う。
 ―――あの後一同は、まずは宿舎を適当に説明した後、街に出た。
 どこに行くという目的もなく、適当にうろついていた。
 そして、このシーン。
「なっ…なぁに? お兄ちゃんv」
「しらばっくれんなよ。今スッた俺の財布返せ。今なら黙って放してやる」
 にっと笑みを浮かべ言う雅。
 少年の頬がひきィと引きつった。
「というか、雅。男に間違われることにもう少し抵抗持とう?」
「ヘ? 女だったのか?」
 少し離れた場所でつっこむ流。
 その発言でやっと雅の性別に気づいた竜臣。
「なんか……楽しそーだな」
「活き活きしてるわねぇ?」
 やはり少し離れた場所から勝手な感想を述べる慶と希羅。
「アハハハ。ボクなんのことだかわかんないっ☆」
 乾いた笑みを浮かべつつ可愛らしく――本人はそのつもりだ――言う少年。
「ふーん。そうか。じゃこのまま警察に突き出すか」
 雅がことも何気にそう言う。
「ここに警察なんてないわよ」
 希羅が静かに言うのと同時に。
「でも警察に準する者なら、ここにいますよ」
 彼女の背後に一人の男性が現われる。
んげ。
「ご機嫌麗しゅう。希羅さん。貴女に会えぬ日々は地獄のように辛かったですよ。だがこれもあ」
 『愛の試練!』とか寒い台詞を言い出しそうな男を希羅がハリセン(懐から取り出した)で殴る。
「今時ドラマにも出てこないようなサムい台詞を私の前で言わないで。
 次出てきた時は殺すと言っておいたはずだけど? 御門 雅輝」
 冷ややかな口調でそう言い、倒れた男をさらに踏みつける希羅。
「ふっ……そういう照れ屋なところも私は気に入っていると言っているはずです!」
 額が割れて血がだくだく流れるのも気にせず、立ち上がる。
 ちなみに雅はまだスリ少年に教育的指導を行なっている。
 男性陣は黙ってそれを見ている。
 早い話が、雅輝の存在は無視されている。
「おや……」
 だが、女に飢えた男は、雅に気づいた。
 彼は雅が男とかはちっとも考えない。
 一発で見抜いた。
「こんにちは。麗しいお嬢さん」
 初対面で恥ずかしい台詞を言えるのは、彼の特技であり短所。
 長所にはなりえない。
「………なんだよ? お前」
 雅は思いきり訝しげに言う。
 その拍子に名無しのスリ少年は解放された。(やった……助かった!(感涙)Byスリ少年)
「はじめまして。御門 雅輝と申します。以後お見知りお気を」
 無駄に丁寧なあいさつをする雅輝。
「貴女のお名前は?」
「……………風霞 雅」
 名乗りつつ雅は本能的に雅輝と距離をとった。
 ―――うぜぇ。
 それが正直な感想。
 やたら馴れ馴れしい。
 殴ろうかと一瞬思った。けれど、
 ―――殴ったらよけいうざいことになりそうなのは、なぜだ?
「冷戦状態、てぇのはこういうのを言うのかしら」
 ちらりと流に目をやりつつ、完全に人事・傍観の姿勢で希羅が言った。
 ―――一人の異性に異常な執着な見せる者が居るのは知っていた。
     同時に、慣れているつもりだった。
彼等は上司で鍛えられたつもりだった。
「なぁ……あれ……」
「関わるな、目を合わせるな。今眼を合わせたら死ぬ」
 青い顔で明後日の方向を見た慶、竜臣。
 その側には笑顔の流がいる。
 笑顔。
 それには色々な種類がある。
 今、流が浮かべているのはどこまでも恐ろしい、しかし極上の笑み。
 今の彼ならその眼光だけで人が殺せそうだ。
「……世の中、色んな人間がいるんだな」
 慶は心の底から思った。
 ―――火影 流を敵にまわすのはぜっーてぃぜっーて止めておこう。と。
「雅さん……ですか。いい名前ですね。私の名前にも雅という字が使われているんですよね……。
なんだか運命めいたものを感じませんか?」
 とても嬉しそうに微笑み雅の手を取る。
 勇気と書いて無謀と読める行為だった。
「感じるかボケ! 寝言は寝てから一人で言ってろ!!」
 雅がそう言って己の手に憑いた物体を蹴り飛ばす。
 同時に、
「クス……さっきから黙って見てたら君は何?」
 笑顔の流に燃やされた。
 ある意味では素晴らしいコンビネーションだ。
「なんだか知らないけどいきなり出てきて。おまけに雅に手を出して。彼女に話しなら  俺を通してからにしてくれないかな。
 絶対に許可は出さないけどね」
 どこまでも笑顔で言ってのける流。
 炎のような嫉妬とは良く言ったものだ。
 だが、本気でオトコ燃やすオトコも珍しいだろう。

「………雅………だったわね……」
 黒髪の少女は、出逢ってからはじめて、彼女の名を紡ぐ。
「ああ」
「あんた……すごく大変なコだったのね」
 その言葉を受け、雅はいつのまにか命のやり取りまではじめた流と雅輝を見る。
「………大変だな、確かに」
 妙に遠い目をする二人。
「………ま、負けるんじゃないわよ。あいつは頭潰しても熱湯かけても死なないけど」
 ゴキブリ扱いされている。
「ハッ。誰にものを言ってやがる」
 多く言葉は交わさない。
 だが、
「そぉぉいう貴方は彼女のなんなんですか?」
「俺? 俺は雅の婚約者」
「ふざけんな!」
「というか虚しいわよね〜。そーゆ態度」
 だが、ここに似たもの同士の一つの友情らしきものが生まれたのかもしれない。




 一方、こちらは『BIACK・MIST』本部。
 東遥霞の自室。

「ねぇねぇ智華〜。あいつらどーなったと思う」
「……私よりあなたが解っているでしょう」
 芹野 智華は表情を変えずに答える。
「なんで?」
 とぼける様にそう訊き返す遥霞に、智華は軽くため息をついて、
「あなたの右耳のイヤホン。繋がってるのは希羅の襟に付けた盗聴機。ずっと聞いていたのでしょう。彼等のやり取り」
 彼女の指差した先には、ラジオの様なモノから繋がれたコード。
「ん〜〜さっすが。俺の智華」
 遥霞はニッコリと笑う。
 その表情は悪戯のばれた子供のそれだ。
「怒られますよ、そういう悪趣味なことをすると」
 呆れたように静かに言う。
「大丈夫だって。俺は気にしないし。……それにしてもくだらない事ばかりしてたねぇ」
「間接的にあなたが招いた事態でしょう? 少しは反省しないと、怒りますよ」
「それは困るかな」
 クスクスと愉しげな笑みをこぼす彼の辞書に『反省』の2文字はない。

彼等のトラブルまみれの日常は終わりそうにない。

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