僕と双子の姉はある時までとても似ていたと思う。
けれど、ある時、決定的に変わってしまった。
今となれば、それが喜ばしかったのか、悲しかったのか、よく分からない。
常識なんて僕らが作るのさ
ある時、彼女は問うてきた。
父や母に問うても答えてくれなかったこと。自分で考えなさい、そうたしなめられたこと。
分らないことを2人で考えるのは当たり前だった。僕は彼女の半身で、彼女は僕の半身なのだから。
「ねえ、雅輝、普通って、なんだろうね」
「……普通?」
「私達のいるここは、普通ではないのでしょう? なら、普通とはなんだろうね? 私達が普通と思っていることが、違うのなら」
その時の彼女の顔は今でも覚えている。
とても悲しそうで、これ以上なく必死で。
教養も体術も生まれ持った力の制御も、全て僕よりうまくこなす彼女が、あれほど弱々しく見えたことなど、当時はなかった。
なんとなく、悲しくなって、ぎゅうと彼女の手を握った。きっと、あの時、彼女も悲しかったのだと思う。
そうして、僕は答えた。心のままに。
「分かんない」
「…そう?」
「きっと、考えなきゃいけないんじゃないかな。うん、きっと、大人になれば分かるんだよ」
「…大人?」
呟いて、彼女はおかしなほど不安げな顔をした。
…今の僕なら。その顔の理由も分かった。察することができた。けど、あの時。
あの時、戸惑った僕は、実に短慮な言葉を紡いだ。
「それでも分からないかもだけど、大丈夫だよ、その時は、僕らで作ろう? ねえ?」
それは理由のない万能感。根拠のない自信。もしかしたら、希望というべきもの。
僕はそれを持っていた。けれど、彼女はそれをもっていなかった。
「…ねえ、雅輝」
ただそれだけのことに、あの日僕は気付けなかった。
「私達、大人になんて、なれるのかな?」
彼女は笑った。
とても儚い笑顔で。
あれほど儚い笑顔の雅夜を、それから見たことない。
その時からだ、僕が彼女を雅夜と呼べなくなったのは。
双子の姉が、己の半身ではないのだと―――同じことを考える存在ではないと、気づけたのは。
それから、僕は子どもと言えない年齢になった。
その頃は、雅夜―――姉さんと僕は、幼い頃のように一緒に行動することもなくなっていた。
けれど、同じことを訊かれたことがある。
「ねえ、雅輝。普通とは何かしら」
雅夜は笑いながら訪ねてきた。あの時とは違う、自信に満ちた顔で。
僕は答えた。恐らくはあの時とは違う、静かな笑顔で。
「幻想だろう、そんなものは」
「あら。昔とは違う答えだわ」
言われて、一瞬言葉につまる。ああ、あのことを彼女も覚えていたのか、と。
「幻想だよ―――個々で食い違うものなのに、それを今の君のように、誰もが共有できるもののように語るのは」
「…それは、分からないってことかしら」
「ああ。分かるはずがない。…私達じゃなくても、な」
「…そう」
頷いて、彼女は笑った。
私達は本当に違ってしまったのね。
そんな声が、聞こえた気がしたけど。
それはそれは明るい笑顔だった。
それから。それから、また、時が流れて。
僕は心から欲しいと願った。良心とか常識とか、そんな安泰な世界を構成するものが。
祈って祈ってその度に血が流れて、いつからか疲れた。
だから僕は――――……
「…希羅さん、常識なんてこの街にはないでしょう」
「それとあんたが私に付きまとう状況、なんの因果があるのよ」
「常識なんてない…だから、作ればいい、そう思いませんか?」
「……まあ、そういうのは嫌いじゃないけど…」
「だからこの求愛行動も僕的には常し、ぐはっ!」
「ちったああんたの話聞いた私がアホだったわよ!」
だから僕は、今日も。己を信じてここで生きていこうと思う。それが間違っていることなど、知っているけど。
―――ねえ、雅夜。君は、どう思っている?
かつての片割れの心は、今は遠いものだった。
雅輝が大人しいとすさまじく違和感がある。ちなみに黄昏の〜でやってる明けない夜の〜の挿入話だったりします、これ。