君は野に咲くあざみの花よ 見ればやさしや寄れば刺す


 ある場所ある部屋の片隅で。
 本棚にもたれてページをめくる少年に、声をかける少女が一人。
 否、正確には人なくとも。
 人の形をとった、うら若き神の一柱。
 麗しいその少女は、しばし少年の横顔を見つめ、細い首を愛らしい仕草でかしげる。
「なに暗い所でぶつぶつと読んでるんですかぁ。根暗なことしてますね」
「僕がこんなところで召喚に関するもろもろの準備をしているのは元をたどれば誰の所為だと」
 ちらと顔をあげぼやく少年に答えるのは、笑顔。
 それはそれは綺麗な、花のような笑顔。
「あら。幼馴染の好意でしょう? このくらいで恩を着せるなんて、小さい男ねぇ」
「小さくないよ」
「小さい男ね」
「今どこ見ながら言った!?」
「あら。答えてもほしいんですかぁ」
「そういうことを幼馴染に言わないでほしかったかな!」
「別に騒ぐことないじゃないですかぁ。大丈夫ですよ、ロンドはむしろ」
「いいから黙ろうよ!」
 今にも泣きそうな顔で、少年は少女の口元を覆う。
 ぽふんと押さえられた少女は、不満げに眉を寄せる。
 けれどその表情は一瞬。変わりにあるのは、実に楽しそうな笑顔。
「いちいちうるさい人ですねぇ」
 もろもろの感情に顔をゆがめてつっこむ幼馴染に、その笑顔は揺るがない。
 いつも笑顔のかわいい少女。
 整った唇は花弁のようで、はかれる言葉は刺激的。
 その姿に、少年は思う。
 なんというか、実に残念だ、と。
 思いつつ、ぱたん、と本をたたむ。と、少女はあらと声を上げた。
「もういいんですかぁ」
「うん、まあ大体は」
 静かな答えに、少女は頷く。満足げに。
 それは結構と言わんばかりの表情と仕草。
 わずかに肩を揺らすひょうし、一緒に動く巻き毛が綺麗だと思う。
 触れたいとも感じた。
 けれど彼は背を伸ばし、彼女に向かって小さく笑う。
「じゃあ、行こうか」
「ええ、何かを迎えに」
 お互いくすりと笑いあい、二人は長い廊下を歩く。

 二人が背中を向けた、小さな窓。その真四角に区切られた庭の一角、名もない花が揺れていた。