076:物語 (螺旋・鈴)

 めでたし、めでたし。
 物語の最後は、たいていその言葉で片付けられる。
 けれど世の中、めでたいことなどいくつあるだろう。
 めでたく終わったとしても、その物語の中失ったものは、二度と戻らぬというのに。
「…めでたし、めでたし」
 もしこれが物語ならば、自分の状況はそう締められるものだと知っている。
 けれど、めでたさなど。感じるにはあまりに大切のものを失ってしまっていた。

・拾われた直後の鈴。後ろしかむいてない。


077:雨音 (朝町・緋那)

 ソファに身を預けながら、目を閉じる。
 ぱたぱたざあざあ。雨音はリズムを返ることなく続いていく。
 たまに変わることがあっても、規則的なほどに。
 その様は、どこか心臓の音に似ている。
 規則的に鼓動を刻んで、たまに乱れて。
 何事もなかったかのように、晴れ渡るように。いつの日か落ち着けば。良かったのに、な。

・実は着々と落ちていますと言うただそれだけの話です。


078:足跡 (朝町・メマチ)

「おま…早い…」
「なによう。じじくさい。龍ならもっとしゃきしゃきしてよ」
 砂浜をかけながら、彼女はきゃらきゃらと笑った。
 かれこれ数時間バカップルの伝統行事である「うふふ、つかまえてごらーん☆」をかましていた彼は、笑えない。身体の疲労より、精神にくる。
 ぐったりとうなだれる彼を見、彼女は一層笑う。
「だらしないなあ、メー君は」
「無茶言うなっ」
 叫ぶ彼と彼女の間を繋ぐ、足跡。
 乱れたそれはそれでもまっすぐに続いているから、彼女はやはり、明るく笑った。

 ・バカップルです。いつでもどこでも。


079:追憶 (UIS・紫音)

 目を閉じると、黒い髪が浮かぶ。自分と同じ色。けれど自分より少し柔らかい手触り。背負われて見ていた、父の姿。
 なんで違うんだ。尋ねれば返る、静かな声。紫音の髪は母さんに似た。それ以外も、たくさん。
 語る声は優しくて、背中の熱は心地よく。意識などしていなかったが、私は父がとても好きだったのだろう。
 誰かから身を隠すように生きていた父を。遊び疲れて眠りにつく私を迎えてくれた母を。同じように待っていてくれた兄たちを。
 目を開けると、誰も残っていないけれど。
 たぶん、かけがいなく、思っていたのだ。
「……紫音? 顔色悪いわよ」
「…大事ない」
 かけた今こそ、思い出が苦い。
 苦いことに気付いて、少しだけ悲しくなった。

・感情の起伏が微妙な女。宝蓮紫音19歳。怒ったりいらついたりするけど。あんまり喜んだり悲しんだりしないんですよねこの人……


080:運命 (UIS・マリシエル+紫音)

 最初から決まっていたことなら良かったのにね。
 そう呟いたのは、感情というものの消えた、平坦な抑揚で。
 最初から、決まっていたら、よかったのにね。
 壊れたように繰り返す少女の顔にもまた、表情はない。
「最初から、決まっていて。
 守る手段なんて、何にもないって思えていたら。
 わたし、楽だったと、思うんです」
 あの人を守れるはずだったのに見捨てたのはわたしなんです。
 痛ましいはずの言葉にすら、感情はない。
 聖那は黙って、後悔を吐き出す少女の頭を撫ぜた。

・運命というものがあるのなら捻じ曲げて彼女を助けた人がいました。それが彼女の幸せとは限りませんでした。そんなお話。


081:回廊 (螺旋・藍)

 廊下から見える庭ははっとするほど美しく、陽にあふれ。なんて屋敷の主人に不釣り合い。笑い飛ばしてみても、大しておもしろくはない。…いつものことだ。
 長い回廊を抜けると、黒塗りの扉。
 古めかしさといかつさと豪奢さをこれでもかとにおわせる、漆塗りの扉。
 わたしは膝をつき、礼をする。まるでうなだれるようだと。たまに思う。
「―――藍。参りました」
 思うだけで、唇は慣れ切った言葉を紡いだ。

・無駄にでかいお屋敷とその使用人っぽい人。


082:細工 (朝町・かな+ベム)

 愛らしくも複雑な模様を中に収めたハート型を模したカラメル細工は、つまめばくだけてしまいそうに繊細だ。
 口に放れば言わずもがな。ぱっきりおれてしまうはず。
「……よくもまあ、こんなものを」
 作れる手腕と根性は、実にきめこまやかだ。
「そんなに細かいのにどうして細やかな心の機微に気付かないんだろ、ベム君と言う生き物は」
「機微?」
 なにそれおいしいのとでもいうようなその顔に、かなたは小さく苦笑した。

・色々細工して近づいたりしたらダッシュで逃げられたのだからあれでいいのだろうけれども。


083:舞姫 (螺旋・拓登+舞華)

「…綺麗だな」
 ある日、稽古付けてくださいと頼まれて。言われるままにみるとその動きは、妙に綺麗だと思う。流れるようだ。
「元々は神様に奉納する舞、だったらしいですから」
 くるくると槍をまわして、少女が淡く笑う。
「だから『神宮』なんです、私。
 ま、そういうことやってたの、ずいぶん前らしいですけどね。
 神様とかすたれちゃって、廃業になって。道場してみても、やっぱり廃れて。教えと型だけが残って、今に至るって奴です」
 語る間にも、槍を操る手も、軽く地を踏む足も止まらない。変わらない。器用なものだ。
「…それがなにか?」
「いや、型が正確すぎて読みやすい。だから俺相手に一本もとれないんだよ、お前」
 器用なものだと感心し、思い浮かんだ言葉を告げる。
 流麗な動きの舞姫は、拗ねたように唇をとがらせた。

・本編ではなかなかいれられない後付け設定。


084:占術 (螺旋・鈴+舞華)

 占いというものが、あまり好きではない。
 あたらないことに一喜一憂するのは馬鹿らしい。あたってしまえば恐ろしい。
 つまり、どちらにしろ、楽しいものではないのだ、占いなど。けれど、
「…お前、好きだよな。そういうの」
 雑誌を楽しげに見る相棒に、ぽつりと問いかけてみる。
「当たるのか?」
「まあ、当たらないわね」
「じゃあ意味ないだろ」
「あら、信じればいいことあるかもしれないじゃない」
 明るく笑う舞華に、私は頷かない。
 ただ曖昧に相槌を打って、ふき終えた皿を棚へと戻した。

・気の合うところなんてたぶん多くはない二人。


085:姫君 (紅也→明乃)



「動きづらい…」
「いやそこで僕を睨まれても…」
「ヒールはいいよ。別に。でもこのスカート、なに。歩きづらいったらありゃしない」
 タイトなスカートを破りたそうに見つめる彼女は、少し傾斜のある道に大きく息をついた。
 …うーん。似合うんだけどな。見た目は、この上なく。
 けれど性質にはあっていないのだろう。ついでに、ヒールも口で言うより忌々しく思っているのだろう。歩きづくめでそろそろ一時間。疲れたのだろう。
 だから。
「…じゃあ、お手をどうぞ?」
 笑顔を作って差し出すと、驚いたような顔をされた。失礼だな、と思ったりするのだけど。それ以上に可愛いと思った。
「…ありがと」
 あんたこういうとこは気がきくよね。
 暗に響く、『いつもは気がきかない癖に』の言葉。
 いつもと違う理由など、心の奥底から君は大切だからだよ、と。
 伝えらたら楽なのか。伝えない今が楽なのか。
 分からないけど、差し出した手は熱く。不信に思われたら嫌だなと、今更のように思った。

・彼にとってはお姫様だそうです。彼女にとって彼はただの友人ですが。


086:共鳴 (UIS・竜臣+智華)

 なにを顧みることもなく、恋人の元にかける彼女が怖かった。
 なにも見えていないような顔が、大切な人の今際の顔と重なったから、心臓がつかまれたように。ずきずきと。
 けれど、今。
 懇々と眠る彼の手を握り、どうして、と小さく呟く顔が、兄と違うものと重なる。
 兄とはまったく違う―――そう、例えば。鏡の向こうにあった顔。
 どうして、なんで。無茶ばかり。
 傷だらけの男に向け、嘆く女の心を、俺はきっと知っている。

・遥霞が竜臣を手放さない理由は彼女に対して恋愛感情はわかない(兄と重ねているから)けど絶対見捨てられない(昔の自分に似ているから)のをおぼろげに悟っているからです。知られたのが運のつきです。


087:泡沫 (UIS・ライド)

 目を閉じるとみる夢は、いつだって穏やかだった。
 あの日潰れた顔をさらした両親が、友人が、穏やかに笑っている夢。
 穏やかで、当たり前で、幸せで。
 それでもいつも、そこにおれはいない。
 ああ、もう二度と会えない。
 そう気付いて、夢は終わる。泡がはじけるように、幸せな光景が途切れる。
 だから、目を開けてみる現実は、いつだって。
「………」
 ごろりと転がる死体に目をやり、ぼんやりと瞬く。
 目を閉じて闇を見る。
 睡魔を伴わないその中には、誰の姿も見えやしなかった。

・彼がやさぐれてもといストレートチルドレンしていた頃のお話。泡のようにはじけた幸せを、いつまでも抱えてる。


088:静寂 (螺旋・たくゆえ)

 静かに寝息を立てる顔を眺めて、隣に腰を下ろす。
 …静か。
 いつもなにげなく口やかましい彼が珍しい。
 あれをしろこれをしろやる気出せ―――やかましくされるのは、別に苦痛ではないけれど。
 黙って目を閉じる彼は、何の音もない世界で見る彼は、いつもより幼く見えた。

・苦労性とその彼女。


089:右手 (螺旋・神宮夫妻)

 右手はあなたにあげる。
 いつになく甘い声で告げられた言葉が、耳に焼き付いて離れない。
「…なんで右手よ」
「聞き手を預けられる関係って、素敵じゃないですかー?」
「…あんたのことだから全部上げるとでも言うかと思ったわ」
「そーですねえ」
 僕はその気持ちだったんだけどねえ。嘯く声は、笑声混じり。
 ふざけた様子だと思う。思うけれどそこまで腹が立たないのは―――慣れだろう。
「右手はあなたにあげる。
 けど片方は、こっちにとられちゃったからさ」
 甘えるような、甘やかすような。
 とろとろとしまりのない顔でにやける彼が、鬱陶しいと思わなかったのは。
 父親の指をきゅっと握りしめる娘が可愛かったのだろうと思う。

・17年前の光景。ほのぼの家族。


090:相棒 (螺旋・谷川+成冶(学生時代)

「相崎ぃー。やべえオレ十山の講義爆睡して」
「いくら出す?」
「おま…困った親友から金をぶんどると!?」
「困った悪友だから料金要相談にしてあげてるんだよ。で、いくら」
「……お前の薬学のレポートの添削」
「……実験の協力なら手うつよ」

・いやなんだかんだで一番『相棒』なのってこの二人な気がして。二人とも成績的には優等生です。成績的には。


091:一緒 (朝町・磨智+緋那)

「ひーなっ」
 明るい声に振り向くと、雑誌の一ページをめくった磨智がいた。
「見てみて! これすごく可愛い。というかいきたい。行こう?」
 きらきらとした瞳に、1人でいけば?などとは言えない。しかし。
「…私が嫌だって言ったらどうする?」
「うーん、都合つくまで待つかなあ」
「…気、長いな」
 感心して呟けば、彼女はだってと笑った。
「一緒の方が楽しいじゃない」

・二人は仲良し。


092:綺麗 (UIS・りお+紅也)

 じっと伏せられた瞼は白く、それを縁取る睫毛は長い。陽の光を返して淡く輝くそれは、整いきった顔にうっすらと悩ましい影を落とす。
 まるで一服の絵画のように美しい少女は、薄紅の唇から息をつく。
「紅。ボク、お腹減ってしにそう」
「うん。ホントに死にそうだったら僕におぶさって邪魔するのも無理だと思うから。そうなったら助けてあげる」
 綺麗な綺麗な娘は、やはり無駄に綺麗な声を不機嫌に低めて、不満を訴えた。

・残念な美少女。


093:唯一 (朝町・かなた)

 例えばこの先、彼以上に愛する者ができても。
 彼へ対する感情とは全く違うのだろうと思う。
 例えばこの先、彼が死んでも。
 この位置には、誰もいらない。
 だからね、だから。
 君が私を置いて逝っても。
 何も変わらないよ。もう立ち止まらないよ。いつか待っていてくれるなら、いいんだよ。

・メマチ編あたりのかなたさん。うす暗い。


094:不死 (朝町・メー+かなた)

「永遠に死ねないつーのは、永遠にいきれないっていうのと同じだよ」
「…そういうもの?」
「少なくとも、俺にとっては」
 永遠とやらを持っていた頃、生きていた実感はない。
「だから、俺は」
 お前に会って、きっと、生まれたのだと。
 青年は、その先を続けなかった。


095:破片 (螺旋・相崎さんち)

 拾い上げたガラスの破片は、気をつけていても手を刺した。
 その痛みより破片の出来た経路にこそ、男は顔をゆがめる。
「とーさん?」
「…ん?」
 それでも淡々と散らばるガラスをかたずけた男に、幼い声がかかる。
 鈍い色をした金髪と、翡翠のような目をした子供は、自分に振り返った父に首をかしげる。
「だいじょうぶ?」
 幼い声で問いかける息子に、彼はふと思い出す。
 今朝散々言い争って、いつものように家を飛び出した妻は、この子が生まれたその頃は、穏やかに笑っていた。
 最近はなにかに急かされるように、つっかかってばかりだが。笑っていた頃も、あった。
 私はこんなことのためにいるんじゃないわ。そう繰り返してばかりの彼女が帰らなくなるのは、きっと遠い日ではない。
「とうさん?」
 けれど。
「…ああ。大丈夫だよ」
 幸せが割れて破片になっても。確かにここに残ってる。

・客観的に見たら奥さんに捨てられた気の毒な人だけど主観的には別にどうとも思ってなかったんだろうなと思います。相崎父。普通こだわらね?ってところに驚くほど頓着しないのはばっちり息子に継がれてるよねともいう。


096:伝説 (螺旋・神宮夫妻)

「一部では伝説だったわよねえ。1人でカップルまみれな店にも平気で入るって」
「だって食べたかったんですよ。ここのパフェ」
「…美味しい?」
「貴女の顔を見てると余計に美味しいです」
「殴ってほしい?」
「褒めたのになぜ!?」

・ツンデレというか…ヤンキーなデレと天然。基本バカップル交際時代。


097:束縛 (螺旋・三瀬→神宮)

 大切なモノを増やしてやれば、この人は少しは落ち着くだろうか。
 なにかを削るように生きる彼女は、少しは己を顧みるようになるだろうか。
「ねぇ、美華さん」
 前を歩く彼女が振り向く。僕は笑う。笑おうとしていたと、そう思う。
「結婚しましょうか」
 じわじわと木綿で首を絞めるように、あなたが遠くへ行かぬように。
 そうして、縛り付けられたら良かった。

 ・結局縛り付けられたかというと微妙な気がします。束縛とみてふっと思いついた。嫉妬とかはかなり薄いと思うんですけどね、この人。


098:地図 (朝町)

 こんなところにあったのか。小さくごちて、少女は紙切れをつまむ。随分とくたびれたそれは、まるで水浸しになったかのようにぼろぼろだ。
「……なんでこの地図でここに来たんだろうなあ」
 目的地とは全く違ったところに落ち着いたかなたは、文字も読めぬほど滲んだそれを屑かごに投げ捨てた。

 ・地図が役に立たない女。最初は朝町じゃないところ目指してたんじゃなかろうかと思うんですよ。自称魔法使いに会うまでは、確実に。


099:別離 (UIS・智華→遥霞)

 ぼうっとした心地で、墓標に刻まれた名前をなぞる。
 冷たいそこに、彼がいるのだと言う。
 雪が嫌いだった幼馴染は、雪のように白い石の下で、永遠に眠っているのだと言う。
 ぽとり、と涙がこぼれる。次から次へとこぼれる。
 でも、これでは、足りない。
 温めることなど、こんなちっぽけな水では、足りない。
「……まだ」
 私は、まだ、あなたに何も言っていないのに。
 まだ、あなたから、言葉を引き出せなかったのに。
「………っ」
 土の下と、土の上。
 分かたれた距離が戻らないことは、きちんと知っている。
 けれど、戻ってほしいと。
 狂いそうなくらい、そう思った。

 ・彼女と『幼馴染』との別離。…再会は、約一年後。


100:永遠 (螺旋・拓登祐絵)

 どこにもないわよ、そんなもの。
 淡々と言われて、思わず苦笑する。
「いきなりどうしたの?」
「いや、どうもしないよ」
 お前にそう言ってほしかったんだ。

 ・終わりがあるからこそ、日々は愛しき。