傲慢と呼ばないで

 守ろうと思った。
 連れていかなければと思った。
 俺に希望を与えた主だから、俺は。

 守れると思っていたんだ。そんな顔をするなんて。思っていなかったんだ。

 声なき声を聞いたように、少女はそっと目をふせる。
 仕方ないことだよ。当たり前のことだよ。
 だって君が守りたいのは、私だけではないのだもの。
 特に、一番に。
 君だけが、守りたい子は、いるんだもの。

 過去を語るその合間、未来を思うその声は、少しだけ湿っていた。

メマチ編を短くまとめるとこんな感じ。呼んでもいいと思うよ、傲慢。



稲妻サイダー

 どうみても地雷なのに飲んでしまいたくなるこの気持ちになんて名をつければいいだろう…
 ぷるぷると震える主に、炎龍の少女は冷めた目線を送る。
 墓穴を掘るなら1人でやれ。うちからお金は出さないぞ。
 言うなりさっさと自分の買い物に戻る愛龍を、私主なのに、と小さな呟きが追いかけた。

どういう味なんだ。稲妻サイダー。なにがはいっているんだ。



ぼくは誰のにせものですか

 心配性だね君は。鬱陶しさに思わず毒づけば、鈴はふっと眼差しを遠くする。
 無条件に信じるのは正しいのか。心配の一つもせずに、日々を過ごし。
 それで誰かが無事である保証が、どこにある。
 ああ、違う、と思う。
 君が無条件に信じていたのは、間違ってもオレではない。
 あの相棒だろうか。もしくはあの両親だろうか。
 いいや、それさえも違う。
 手の届かぬものを思うような、その眼差し。父を語る兄が、少しだけかぶる。
 彼女がいちいち小うるさく人に口を出すその理由。それはあの兄が柄でもなく店の店主にしがみつく理由と、きっと似ている。
 酔狂だ、代償行為など。一体何になるというのか。
 思っても指摘しないでおいた理由など、たいしたものではない。
 哀れな女と、口に出しては。
 あまりに哀れすぎるだろうから。

賢いことアホの子。色んな意味で、色んな意味で。



うそつきな贄

 祈りましょう、里のために。皆のために。
 そうすることが仕事でした。生まれた時から、守られてきた巫女としての仕事でした。
 能面のような表情で語る少女に、少年はぽつりと呟く。
 じゃあお前の幸せは、誰が祈る。
 微かな、それでも苦々しげな呟きに、少女はそっと目をふせた。
 そんなもの、考えてはいけなかったのに。今、私は。
 同胞ではないものの幸せを祈る少女は、己の幸せの肩にそっと身をよせた。

少し先のセレナとライド。まあ、今も変わらないのだけれど。全て、全部。嘘だったのかもしれません。



スパイシークラシック

 とっても本格的な味のカレーに、思わず聞いてみた。ねえ、これ、すっごくルーがたかかったんじゃ。
 いや、別に。色々つかって余ったスパイスの寄せ集めだ。特別たかかったものは、ないな。
 あっさりと言い放つ顔は、私が変な顔になった理由なんてちっともわかってないだろう。レベルが違う。レベルが色々違うわ。鈴。
 なにがあんたをそうさせるの。問いかけたいその言葉を飲み込み、またカレーを一口。
 やっぱり美味しいそれの隠し味は、真心とか前に彼女が言っていたのだし。

舞華と鈴。ある日の食事風景。鈴はなにもなく生まれ育っていたらお菓子屋さんとかになりたがる子供だったと思います。細かい料理、大好き。



実る実らぬ

 あなたと一緒にいて、なにを得るというの。何か残せるとでも、いうの。

 挑むような問いかけに、男はにこりと笑う。

 何も残らなくとも構わないよ。
 君を選んで、君と生きて。ほしいものは別にない。
 だって、そんなもの、あってもなくとも、どうやら君が好きだ。

 己の主義と正反対のことをはき、ぽんぽんと頭を撫ぜる男に、女はそっと瞼を閉じる。

 何も残らない行為は無意味だわ。

 意味がなくとも、したいことをすればいいじゃないか。

 己を睨み、冷めきった言葉を吐く女の唇に、男は己のそれを重ねた。 

実のっていたのか実のってないのか謎の相崎夫婦。まあ、残ったものはあったわけですが。



スワンレイク心中

 どういう劇だろうね。なんで変なとこだけカタカナなんだろうね。まったく予想つかないな。ねえ、マスター。なにぷるぷるしてるの。哀しそうなの。またカ――
 なにごとかをいいかけた地龍の少女に、青髪の主はぼすんとクッションをなげつけた。

ネタが、浮かばなかった。



僕は世界を救えないので

 僕は世界を救えないので、結局壊すしかなかったのだ。

 とてもちっぽけで、せまっくるしい、僕の世界。
 あなたさえいなければ。それは弟のはいた呪いの言葉。
 僕の世界で唯一、不愉快ではなかった、弟の。

 僕は世界を救えないし、救いたいとも思えない。
 ただ、弟に刺された傷を撫でて、ぼたぼたと涙を流すその顔を眺めて。すべてが下らないと思い―――…

 逃げ出した先にあったのもまた、僕が救うことなど出来ぬ世界。
 それでも、別に構わないのだろう。
 僕は世界を救えないし、救えたとしても、興味はないのだ。

いつか書きたい紅也の詳しい話。愛憎どろどろ兄弟劇が、書きたい。



原罪放棄

 別に全部はなしてくれなくたっていいわ。必要なことは全部知っているもの。
 あなたが無愛想で、意地悪で、でも案外優しいこと。
 手先が器用で、何でも一人でやっちゃって。だから1人ぼっちでも大丈夫な人に、なっちゃったこと。
 ああ、でも。料理だけはてんで駄目ね。だから、そこは助けてあげる。
 ねえ、それだけ知っていれば充分だわ。
 最後に、もうひとつだけ。
 めったにみえない笑顔が、とってもかわいいことも、わたし、知っているもの。

知ることを放棄して、秘密ごとあなたを慈しむ。須堂夫妻。



アダムの骨

 最初の男の骨から女性が作られたってすっげえ発想じゃない。なにがすげえって、なんで作るのよ。なんで一つじゃなきゃいけなかったのよ。そんなものが生まれなきゃ、俺は…!
 憑かれたように妙なテキストを述べる悪友に、成冶はゆるく息をはく。
 ああ、そうだな。男と女がいなかったら、お前、何回もふられないな。こうなってないな。
 言葉にできなかった想いをあっさりと述べる彼に、失恋したての少年は、ぼすんと力ない拳をはなった。

もてない、というよりは。恋に恋するところが、失敗の元なんだけれども。谷川君17歳です。


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