君のことを考えているようで、自分のことしか考えていないのを、知っていた。
 それを間違っていたと恥じ入る気持ちは、あまりない。
 けれど、悲しいくらい思うのだ。
 エゴでまみれたこの身では、きっと君を探せない。

君を探せない

「…迷った」
 ひくつく頬を自覚しながら、ぐるりと回りを見渡す。
 見渡す限り、森だ。太陽を覆い隠さんばかりに鬱蒼とした森だ。
 …どこだろう、ここ。
 じわ、と涙がにじみそうになるのを、慌てて拭う。
 そんなことより、帰らなければ。連絡手段もないのだから、自力で変えるしかない。
「…なんでこんな時に限って、召喚石置いてきたかなぁ」
 それは私がドジというかアホだからという悲しい現実から目を逸らす。逸らしますとも。
 うなだれたくなる気持ちを抑え、足を進めて―――…
「さらに迷った気がする…」
 しばらく―――時計もないから本当体感時間だけど…しばらく歩いて、思わず頭を抱える。なにこれ。ここ、もう、朝町なの? 実は違う所じゃね? みたいな。
「…うぅ」
 適当な切り株に腰を下ろす。
 それでなにが解決するわけではないけれど、思わず腰かけた。
「誰かぁ…」
 助けてって言うか、通りかからないかなぁ。
「もう、嫌だよぅ…」
 へこたれる。
 身体も辛いけれど、誰もいないのが、つらい。気がまぎれないから、どんどん落ち込む。
 …ああ、でも。
 元から、誰もいなかったなぁ。
 なにやっても、人とずれて。
 人のようになりたくて。
 そんな風に思うことに疲れても。
 誰も、いなくて。
 それが、嫌で…………
「かなた」
 それが、嫌で、ここに来たんだ。
 思った時、頭の上で声がした。
 見上げた先には、銀色の龍。
「…メー君」
 ぽつり、とその名前を呼ぶ。
 彼はそれに答えることもなく、すとん、とこちらに降り立つなり、人の姿になった彼は、心配そうな顔をしていた。
「お前、なに迷子になってんだよ!」
「…なに迷子になってるって、ただ迷子になってただけだよ」
「なに開き直ってんだ!」
 びしっとつっこまれる。…短気だ。
「…ったく」
 それなのに、がりがりと頭をかいた彼は、ずいと腕をとって来る。
「とっとと帰るぞ」
「…痛いよ。メー君」
「へ? …ああ、手か。悪い」
 言いながら、くるりと振り向いた顔が、不意に歪む。
「…んな変な顔するほど、痛かったか?」
「変な顔?」
「泣きそうだ」
 心配そうな顔すするメーに、肩の力が抜けていくのが分かる。ひどく、安堵する。
「…ううん、これはね」
 君が来てくれたことがうれしい。それだけだよ。
 なのに。
「なんでもないよ」
 嬉しくて、ひどく心が痛いんだよ。
 だって…
「…ち………い…のに」
 そんな価値なんて、どこにもないのに。
 声に出せば、否定されると知っている。だから、どうにか抑え込む。
 ああ、そもそも、この考えそのものがひどく傲慢なのかなぁ。優しいから、探しに来てくれるのは、当たり前なのにね。価値なんて、そんなモノのある人、世の中に、いないのにね。
「…かなた?」
 ずんずんと森を進んでいた彼が、ぴたりと立ち止まる。
 くるりと振り向いて、こちらを覗き込んでくる。
「怖いものでも、みたのか?」
 琥珀色の目が、ほんの少し細くなる。
 つり気味のその眼が、ひどく優しく見えた。
「…ううん」
 だから、意味もない考えを、そっと打ち消す。…失礼だしな、心配してくれてるのに、こういうこと、考えるの。
「なんでもないよ。…もう、君が来てくれたから、大丈夫」
 にこりと笑ってみた。
 納得していない顔のくせに、なにも言わないでいてくれる彼が、ひどく愛おしかった。

 森を1人歩いている間、ずっと思い出していた。旅をしている頃の、ことを。
 朝の町へ辿りつく旅をしている間、ずっと思っていた。
 私は、なにがしたかったのだろう。
 どうしよもなく息苦しくて逃げ出した。けれど、そこに目的など、あったのだろうか。
 恩人とも言える自称魔法使いとかいう怪しい人と別れてから、思うのはそんなことばかりだった。
 一体、なにがしたかったのだろう。
 一体、なにが欲しかったのだろう。
 その答えをくれたのは。
 朝の町でめぐり合った、1人の光龍だった。
 今この手を握ってくれる、この光龍だ。

 私は、自分を認めてくれる存在が欲しかったのだ。
 認めて、共に歩いてくれる存在が欲しかった。
 そして―――そのままでいれたらと、そう、願うようになっていた。
 変わらないものなど、何もないと言うのに。
 どうしても、願ってしまった。

 そのことが、いつか、君と私との傷になるのだと、悟っていたのに。

「…知ってたのに」
 呟いた声が、虚ろに響く。
 夜の中で、溶ける。
 いつかどこかの森に似た感覚。けれど、彼が現れないのは。あの時から『変化』したことで。
 それが避けられないことを、私は…
「知っていたのに…」
 彼との関係は、少しだけ歪んでいた。歪んでいると言うより、ねじ曲がっていた。二人揃って生産性のかけらもないことを考えているのだ、しかたない。
 ずっとそのままで、なんて、無理だったんだ。
 知っていたのに、そのままでいようとした。
 そのままでいようとして、1人の少女を傷つけた時から。
「知っていたんだ…」
 私はいつか君を見失うのだと。
 否、最初から見失っていたのかもしれない。
 私も彼も、お互いのことしか見ていない。けれど、お互いを通して自分しか見ていない。
 だから。
 今、彼女と仲互いを起こした彼にどう接すればいいのか、分からない。
 変わろうとするであろう彼を、探すことが出来ない。
 私が迷った時、いつも探してくれたのに。
 私が惑った時、いつも傍にいてくれたのに。
 手のひらで顔を覆う。だって、こんな目は、いらない。自分のことしか見れない目なんて、もう、いらない。
「…ごめん…」
 歪んだ願いで盲いた目では、決して君を探せない。


2010/05/05

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