ある日の、いいえ。2月3日の学校帰り。
「節分だよ能々子さん!」
「え、なんでそんなにテンション高いの!?」
部活終わったら落ち合おうといつもの約束を果たしてくれた彼氏さんは、なんだかとっても。
いやな予感が止まらない感じに、テンションが高い。
2月3日:豆をぶつけろ
「だって、節分だよ?」
「うん、節分だね」
「マメをぶつけられて冬の寒空に追い出されるって。いいよね」
「止めて! 素敵な笑顔を無駄づかいしないで! うっとりしないでぇ!」
家に向かっていた足を止めて、彼の肩をつかむ。
がっくんがっくん揺さぶると、なんか幸せそうです。
う。ううう。うう。
真木彦君が変な世界を見てるよう。
わ、わたしだけみてるといいのにな、なんて。思っちゃったりするなああはは。
「能々子さん…投げてくれないの?」
雨にぬれた子犬チックな顔で言わないでほしいな。そういうこと。
「真木彦君は、投げてほしいの…?」
いやそんなことないよ。
ちょっとした冗談だよ。
そんな言葉を期待して、尋ねてみる。
すると彼はまじめな顔で。びっくりするほど、まじめな顔で。
「はい勿論です!」
大声で何言ってるの。
そそっと道の河原まで行って、はあとため息。
ああ、目の前が暗い。日が落ちるのが早い時期だからかな。だったらよかったのになあ。
「…真木彦君の…へんたい……」
「能々子さん、そういうセリフはもっとこう、冷たい感じに」
「言わないもん! 言わないよ! 言わないったらあ!」
変やりと力の抜けた肩にカツをいれて、ぴしゃりとつっこむ。
真木彦君はとても悲しそうな顔をして、それでも少し不満そうな顔をする。
理不尽だ。
なんて理不尽なんだろう。わたしが悪いことしてるみたいな気分に、なる。
「でも能々子さん。僕はこれでも欲望を押さえてるじゃない」
「漏れてる! ただ漏れてる! もっと蛇口閉めて!」
なったけどそんなの気のせいで吹っ飛びました。
「どこが!? どこがなの!? どこが押さえてるの!?」
「本当ならこう、某アニメのトラ柄ビキニ的なもの着て罵ってほしいよ」
「いっそビキニ着てって言われた方がノーマルな気がする!」
「能々子さんが恥ずかしがって嫌がるようなことしないよ!」
「私が悲しくなって嫌がることはいいの!?」
「良くはないけど、諦めきれない! 男のロマンだから!」
え。そういうものかなあ。
ロマンって本当にそういうものなのかなあ。
今真木彦君が遠く見えるのって、絶対男女の差なんかじゃ、ないよ。
「…能々子さん、怒った?」
「怒ったじゃなくて、悲しいの…
だってわたし、真木彦君にひどいことしたくないって…いつもいってるじゃない…」
「ひどくない! ご褒美だから!」
「鼻息荒い! すごく怖い! っていうか本当…わけわかんないよぅ!」
ああ。今のわたし達ってはたからみたらどう見えるかな。
河原で怒鳴り合う男女。
なんだか言葉の響きだけは、青春っぽいね。
それとも、別れ話っぽく見えるかな。
…ああ。もう。
別れ話に見えるかな、なんて。考えただけで悲しいのに、どうして。
ど、どうしてこうなっちゃったのかな。
「能々子さん……」
「なに」
「その、がっかりさせたのは、ごめん」
謝られても。困る。
そういう、自分の悪いことをあっさり認めて。ちゃんと謝れる彼が、ものすごく好きで。困る。
「だから…」
…だから?
「さあ…その憤りを豆とかにこめて、こう…」
「投げません! うっとり禁止!」
「ふりかぶって投げればいい! 僕を外に追い出せばいい!」
「ここは既に外だよわけわからないよ! もう! もう…っ真木彦君の…ばかああ!」
悲しくなって走り去ってみた。
ちらりと振り返ると、彼は悲しげな顔で佇んでて。
佇んでるけど。
わたしはだまされないんだからね、真木彦君の馬鹿!
目次