町中が明るく華やぐある日のこと。
少女は1人窓に頬杖をつき、外を見つめる。
わくわくとした瞳で、外を見つめる。
少女のいる部屋は、町中の明るさの恩恵がない。質素で、余計なものは一つとしてない。
寂しいとすら言える部屋で、少女はどこか嬉しそうな顔をする。黙って窓を見つめる。
何分も何時間も経った頃、やがて、彼女の背後の扉が開く。
少女は振り向き、ぱあっと笑顔を浮かべる。
「おかえりなさい。お母さん」
にっこりと笑う少女に、そう呼ばれた女は、どこか困ったように笑った。
「ごめんなさいね、遅くなったわ」
「そう?」
こくん、と首をかしげる娘に、母はようやくふわりと笑う。
「…けど、ケーキは買って来たわよ」
「あ、食べたい」
「そうね。どちらがいい?」
「イチゴショート!」
楽しそうに笑う娘に、母もまた笑う。
どこか怯えたように笑うのが常の母だった。
だから、そんな風に明るく笑ってくれるのが。
少女は、とても嬉しかった。
町中が明るく華やぐある日のこと。
綺麗に着飾った長身の女は、低くつぶやく。
「なぁ」
「綺麗よー、紫音」
文句を言う前ににっこりと言われ、紫音は軽く息をつく。
「…おまえなんで毎年この日に私をめかしこませたいんだよ」
「楽しいから」
きぱっと言われ、紫音はじりと眉を寄せる。
「他に楽しみ方あるだろう。清酒を飲むとか麦酒を飲むとかカクテルを飲むとかチューハイを飲むとかワインを飲むとかウィスキーを飲むとか」
「ねえ、紫音…つっこまないわよ、あたし…」
楽しいだろう、酒盛り。小さくつぶやく彼女に、聖那はじとりと目を座らせる。
らしくない顔に気まずくなったように、紫音はこほん、と咳払いをする。そして、話を変えるように、
「…お前はこの日にいい思い出だって…」
小さく続けた言葉に、聖那は笑みを浮かべる。
少し、寂しげに。
「…すまない」
そのことに気付き、紫音は頭を下げる。
珍しく悲しげに顔を曇らせる親友に、聖那は少しだけだまり、静かに笑う。
「やぁねえ、別にこの程度で腹立てないわよ」
けど、そうね、と小さく聖那は呟く。
「…この日は、いつも、お母さんが」
遠くを見るような瞳で、小さく。小さく。
「…早く帰ってきてくれたのよねえ」
呟かれた言葉に、続く声はない。
静かに目をとじた女は、胸のうちだけで呟く。
今も。
良い子にしてたら、帰ってきてくれるかしら。
ずっと良い子にしていたら―――
「…馬鹿らしい」
帰って来たところで、昔のように慕うことなんてできないのに。
ああそれでも。帰ってきてくれるなら。何度でも。
貴女を拒んだり、しないのでしょうね。
聖那のとても遠い昔の話、というか、聖那とおかーさんの話。昔はなかよかったけど今は色々疎遠というか悲しいことになってる2人の話ともいう。
…彼女は今の状況に満足しているけれども。昔は昔でものすごく幸せだったというお話。