とくに思いだしたように空気で揺れるカーテンは、優しいクリーム色。
ベッドを覆うのも、同系色の優しい色合い。なにやら書きものをしていたらしい机の木目も、使いこまれてどこか優しい印象を与える。
窓辺にはみずみずしい花が飾られたそこは、少し落ち着いていることを除けば、実に可愛らしい子供部屋。愛されているのが伝わってくるような、そんな部屋。
けれどそこにいる子供は、ひどく冷めた目をしていた。
冷めた、というよりは。乾いた目を。
乾いた、というよりは、涙さえ枯れてしまったような目を。
ぼんやりと天井に向け、子供は部屋の隅で膝を抱えていた。
紅茶色の髪を肩ほどに整えた女は、階段を見上げ、物憂げに溜息をつく。
「あの子は今日も降りてきませんね」
悲しげな言葉とともに湯気の立つカップを差し出された男は、何も言わない。
何も言わないことが不満だと言わんばかりに置いたばかりのカップを取り上げられ、ようやく口を開いた。
「…ほうっておけ。1人でいても死のうとしなくなったぶんマシだろう」
「でも」
「最近ようやく落ち着いたんだ。ほうっておけ」
同じ言葉を、より強い口調で繰り返す夫に、妻はぐしゃりと顔をゆがませる。
「…けど、寂しそうで」
「だからといってクリスマスにはしゃげというのは酷だろう」
「はしゃがなくてもいいわよ。せめて、もう少しあったかい恰好するとか。外に目を向けてみるとか。そういうことは、してほしいわ」
「空調は整えてるだろう」
「でも見た目が寒いわよ、この時期にワンピース一枚」
「本人がそれでよしとしているんだ」
どこまでも淡々とした受け答えに、女は焦れたように身を乗り出す。
睨みつけられたところで、男の表情は変わらない。それでも、女は続ける。
「でも」
「でも、でも、だって、でもない。…あの子の環境にクリスマスなんて単語なかったんだろう、ならいつもと変わらずにいろ」
「…今いるところには、そういう楽しいこともあるって知らせたいんです、わたしは」
きつく言う放つ夫に、妻はそれ以上になにかを決意するような顔で答えた。
「知識としては理解していると思うぞ、あの子は」
「え?」
「毎日一冊、おいておいた本の場所が変わっている。読み終わったんだろ」
淡々と、声色を変えず養子として向かいいれた娘の状況を語る男は、ついと視線を逸らし、階段を見つめる。その先にある子供部屋を見つめていると言った方が正しいような顔で。
「あれはもう自分のおかれていた環境がおかしかったことを知っている。現在の状況の方が恵まれていることに理解を示している。
ただ、納得はしていないんだろう」
「納得?」
不思議そうに繰り返す妻に、夫は僅かに眉を寄せる。痛ましげな顔をした。
「自分が幸せになることに対しての、納得」
女は言うべき言葉を見失い黙りこむ。
ここ最近は見せなくなった顔で、ひどく静かに言う夫を見、否、その先に1人膝を抱え、生命維持に必要なこと以外を一切しない娘を見、彼女は無性に泣きたくなった。
どうして―――
「なんであの子はそんな思いをしなければならないの」
「さあ?」
「さあ、って、あなた…!」
声色に怒りをにじませられても、男の顔は変わらない。
「世の中には理不尽なことばかりだ。皆理不尽なことで不幸にもなる。いちいち理由を考えていたら、身が持たない」
「…そんな言い方―――」
今にも胸倉を掴みかからんばかりの女に、男は視線を戻す。
「いちいち考えていたら身が持たないと、気付くまで自分を痛めつけなきゃいられないならそうすればいい。
お前か私が助ければいいのだから、問題などない」
さらりとなげられた言葉に、女は小さく瞬く。そうして、一瞬嬉しそうな顔をして、すぐに表情をひきしめた。
「…助けるのが、間に合わなかったら?」
「2人もいるんだ。どうにかなるだろう」
「あなたがどうにかなるだろうなんていうの、初めて聞いたわ…」
「ああ。しかし、どうにかしようと思っているのは事実だ」
「……そう」
あくまで静かに続く言葉に、女は少しだけ息をつく。
そして、階段を見つめた後、なにかを見守るような顔のまま鍋へと向かった。
暗っ。と思ったけど書きたくなった。散々暴れて疲れた頃の鈴さん当時10歳。いや誕生日2月だった気がするから9歳か。今は養父母とほのぼのとご飯食ってるか相棒とほのぼのとご飯食ってるかのどちらかだと思うけれど、彼女のクリスマス。