「メー君のばかぁあ!」
 幼い子供独特の大声が響く。
「ばかじゃねーもん! おまえがばかだもん!」
「ばかばかばかああ! 知らないっ! メー君、嫌いっ」
「おれだってきらいだよ、ばーかっ!」
 それは、とても遠い昔の。
 クリスマスの近い、ある日のことだった。


「あのね、メー」
「…なに」
「磨智ちゃんかなしそうなの。私とも目を会わせてくれないの」 「おれわるくねーもん!」
「…やっぱり、けんかしたんだ」
 姉にじいっと睨まれて、少年はぷいっと顔をそらせる。
「けんかなんてしちゃって。ふたりはこどもだなぁ」
 うんうんと頷く少女もまたとても子供だったが、それに頬をふくらませる少年はもっと子供だった。
「だって磨智がおればかにしたもん! サンタなんていないもん!」
「さんた?」
「サンタなんていねーっていったもん! ほんとだもん! でも磨智がかってに怒った!」
「いないって、いっちゃったの?」
「だってホントだもん!」
 ぷうっと頬をふくらませる弟に、少女は目をまんまるに見開く。
「メ―君、駄目な子」
「だ…」
「そんないじわるいって、嫌われてもしらないんだから」
 言うだけ言ってとてとて歩いていく姿を少年は呆然と見つめる。
「きらわれる…」
 磨智に、きらわれる。
 呟いた言葉に、胸がずきんと痛む。
 きらわれたら、どうしよう。
 もう、遊んでくれないのだろうか―――…
「でも、俺、馬鹿じゃねーもん」
 少年はふてくされた顔で歩きだす。
 いきつけの公園に、彼女は現れなかった。

 次の日も、その次の日も。少女は少年の前に現れなかった。
 少年は1人で転がしたボールをじっと睨む。
「きらわれる…」
 おれ、きらわれたのかなあ。
 少年はほんの少し視界がゆがんだ。

「かなた! 赤い布!」
「へ?」
「くれ! 赤い布! あとでありがとするから!」
「どーして?」
「どーしても! だって―――」
 必死に続けられた言葉に、少女はぱああっと顔を輝かさせる。
「…おかあさんのとってきてあげるよ」
「うん」
 とてとてと歩く姉の背中を、彼は泣きそうな顔で見つめていた。

 1人で遊ぶのは、少しさみしい。
 人形の髪をいじりながら、少女は思っていた。
 向かいの家まで足を延ばせば、いくらでも一緒に遊んでいてくれる人がいると知っているからかもしれない。
 けれど。
「…ばか。ばかばか。知らないんだから」
 頭に浮かぶのは、『サンタなんかいない』と言ってきた近所の友達。
 サンタの存在がおかしいことくらい、少女だって分かっている。
 けれど、いた方が嬉しい。なら、信じてたい。なのに。
 信じたいと言う気持ちを否定されて、とても悲しかった。少女はぐすりと鼻を鳴らす。
「…ばかぁ」
 メー君なんて、知らないもん。
 ぐすぐすと鼻を鳴らす少女は、なんとなしに窓を見上げる。
 向かいの家の窓も、当然見える。
 そこには―――……
「メー、君?」
 赤い布をでたらめにまとった少年がいた。
 少年はみぶりてぶりで、窓をあけろと訴えてくる。
 少女はぱちぱちと瞬いて、思わず窓を開けた。
「磨智っ」
 開けるなり、聞こえてきたのは大音量。
 赤い布をまとった少年は、やけに必死な顔をしていた。
「俺がなるから!」
「え?」
「俺がサンタになるから!」
「ええ?」
 いきなりなにをいっているのだろう、この少年は。
 驚きで固まる少女に、少年はさらに続けた。
「だから、嫌うなよ!」
 サンタになるから!
 必死にそう繰り返す少年を見て、少女はぽかんと口を開けた。
「……メー君が、サンタになるの?」
「だってそうしないとお前嫌いになるんだろ!?」
 いや。別に。嫌いっていっぱいいったけど。本気で嫌ったわけでは、ないけれど。
 そんなことを思いながらも、少女はぱあっと笑った。
「すてきだね!」
「すてきなの?」
「だって、嬉しいもん」
「嬉しいか」
 少年もぱあっと嬉しそうに顔を輝かせる。
 少女はきゃらきゃらと笑って、うん、と頷いた。


「―――そーんなことがあって2人ともとってもかわいかごはっ」
「軽々しくしゃべってんじゃねーよ叶多…!」
 言いかけた言葉をクッションを投げてさえぎったのは、耳まで真っ赤にした芽以。
「…重々しく喋ったら余計恥ずかしいと思うけど」
「お前がそれを言うか!?」
「なによう。私に責任があるっていうのー? メー君が勝手に言ったんじゃない」
「お前が! すねるから! 俺も変になったんだろ!」
「青春だよね」
「まだ喋るかお前はあ!」
 べしっと2個目のクッションを投げつけられた叶多は、今度こそ黙る。クッション以外を投げられてはたまらない。
「…でも、嬉しかったな」
 そのすきを縫うように、磨智は静かに呟く。
 そっと目を伏せて、はにかむように。
 物珍しい表情に、芽以は僅かに目を瞠り、3個目のクッションから手を放す。
「あれでメー君は私のサンタってことで永久に貢いでくれることに―――」
「なるわけねーだろ!」
 つっこんだ。神速でつっこんだ。
 磨智はぷうっと頬をふくらませる。
「え。ケチ」
「ケチでもなんでもねーだろ!」
 叫ぶ声は、聖夜に吸い込まれる。
 今日も2人は仲良しだった。
 あの日からずっと、仲良しだった。





はずかしい奴め!あっはっはっは!と指差してわらってください。そういう話ですから。