1人の少年は、ひどく思いつめた顔で紙切れを睨む。
手の平に収まる小さなそれには、『クリスマス ライブ』とある。
彼には、それを渡したい相手がいた。
いたけれど、会う予定はない。
連絡先を知ってはいるけれど、とりついでもらえる自信がない。
少年ははぁ、と息をつく。
少年は、ある少女をライブへと誘いたかった。世の中ではそれをデートと呼ぶ。かどうかは別として、彼はそのつもりだ。
彼はそういうことに誘いたい気持ちだが、彼女はちっともそんな気持ちではない。
失せろよるなストーカー。そんな風にあしらわれるのが日常なのだから、こんなものは受け取ってくれないだろう。
「……」
少年は悲しい顔をして踵を返す。明るく華やぐ町に背を向け、家に帰ってしまおうと思った。
それを見計らったように、ポケットに入れた携帯電話が振動する。
その短さにメールだろうと思いながら開いてみると、一個下の幼馴染の名前が表示されていた。
なら後でいいか、と思いかけたが、ぽちぽちと指を動かし本文を確認する。まぁいいかと思いはするが、確認しない理由もなかったからだ。
『どうせあなたは暇でしょう。帰って来る時はうちにきてください。あんたのかーさんがうちに居座ってます』
「…どうせ暇だけどね」
そんなもの、自宅でメールを打っているらしい彼だって同じだろう。
まったく、優秀なところをわりと鼻にかけるからトモダチが少ないのだ。
少年自身はまったく鼻にかけずとも少ないどころではなく友達がいなかったが、棚にあげて思う。
どうせ、思いの人には会えないクリスマスなのだ。
気心の知れた幼馴染と過ごすのも、おそらく悪くはないのだろう。
意識しなければ彼女の家の方角へと向かっていきそうな足を無理やり自宅へと向ける。
ルミネーションをほどこされた木を見上げ、1人歩く背中は、少しすすけていた。
「…そんな感じで寂しかったから。今年は誘ってみた」
「お前は今年も風矢とすごせ」
淡々と言ってバイキングのチケット差し出すベムに、緋那はすぱっと言い切った。
想像と寸分たがわない冷ややかな眼差しに、彼は少しだけ寂しげに眉を下げる。
「風矢は今年、例のオカルト研究会の子とリア充。だから無理」
「へえ、それはよか…ったが、私がお前に付き合う義理はない」
一瞬緩んだ表情は、すぐに凍てつく。外の気温も真っ青な冷ややかさだ。
「義理、とかじゃなく。できたら好意で付き合って」
「ますますない。お前に好意とかない。本当ない」
「そこをなんとか」
「なんともならない!」
言ってくるりと背を向ける緋那。振り向きもせずにずんずんと歩いていく背中を、ベムは静かに見つめる。
「美味しいんだそうだよ。ここのご飯」
「そうか。ならお前は、楽しんでくると良い」
「僕1人で食べても。味がわからない」
「なら私と食べても一緒だろう」
「違う。貴女と食べるとなんでも美味しい」
「お前と2人きりで食べたことなんてないけどな!」
背中越しに帰ってくる冷たい言葉達に、視線を下げるベム。
彼の手の平に握られたチケットは、今年も出番を与えられないらしい。
「…それでも、僕はめげない」
「黙れストーカー」
間髪いれず告げられた、雪よりも冷たく言い切られた言葉に、ベムは小さく息をついた。
去年も今年もかわらず不憫なお話。…こっちのベムヒナは緋那がきっついなあと笑いながら書きました。