26. 燦々たる月
燦々たる月はまるで滴るように美しくて、ああ見事だなとは感じる。
けれど、どんなに明るく輝いても月と言うものはどこか寂しい。それに照らされる姿もまた、寂しげだ。
「……」
だからそんなものいつまでも見上げてないでこっちを見てくださいよ。
無言で抱き寄せた彼女が実に面白い悲鳴をあげて、やっと安堵した。
かぜこまでいちゃいちゃ。風矢はわりとくっつきたがり。でもくっつかれるとわたわたする。(ヘタレ…?)
27. 幾つ目の嘘ですか
「もうしないから…許して……出てかないでぇ……!」
「その言葉を何度聞いたと思っているんですか?」
「え? たくさん?」
「分かってるなら控えようと思えませんか」
冷やかに言う智華の手の中で、彼女自身を映しこんだ写真がぐしゃりとつぶれる。
それになごり惜しそうな目をする遥霞に、彼女はさらに冷たい目を見せる。
ああ、怒ってる。喜ぶ余地ないくらい本気で怒ってる。
悟った遥霞は、声音を真剣なものに改める。
「思ってるよ」
「目をそらさずにいってください」
冷たく返された声に、返答はなかった。
たぶん付き合った年月×12回目くらいの嘘かな…これは。(他の嘘はもっとあるのかよ)
28. 仕舞い損ねた鋭さ
「あの、こ」
「うるさい」
「刀、当たってるから」
「当ててんだよこの無能。」
「おま、親友に向って無能はねえだろ!」
「今はその事実がむしろ腹立たしい」
「ちょ、またちょっと食い込んだ! さけた! 頬裂けたー!」
なんかした武行となんかされた紅也。たぶん武行が紅也の金に手をつけたとかそういうの。二人は仲よし。…仲良しだよたぶん。
29. ひとくちあげる
「はい、あーん」
下心などないであろう笑顔が眩しい。
間接キスと言う言葉が頭を廻る。
口の中に広がるそれとは異なる甘さに胸を締め付けられる感覚に、少年は遠い空を見やった。
お友達な風矢と小町さん。…今だったら笑顔で食べてそうですね。
30. 桜の花びらのシャワー
買い物帰りに、桜を眺めた。強い風に吹かれてなお、桜は凛と咲く。
「緋那、髪に花弁」
「え?」
小さく呟いて、彼女は髪を探る。
桜色のそれは確かにとれていく―――けど、後から後から降ってくる。
「…家、帰ってからじゃないと、無理みたいだね」
「…そう、だな…」
可愛いなあ。
辛うじてその声を飲み込んで、ベムは微かに笑った。
たまにはほのぼので。でも口にだしたら怒られる。
31. 苦悩する能力
廊下を歩いていると、肩を怒らせた希羅とすれ違った。なんだ、と思っていると、痛そうに頭を押さえる慶が目にはいる。
「…なんかしたんだな」
「ん? んーうん。」
呆れた顔で呟く竜臣に、慶はこくん、と頷いて―――そのまま首を傾げる。
「…なんで怒られたんだっけ?」
「お前…」
きっと今の慶にかけているもの。
32. 五分間よく考えたんだけど
「ここは君に任せた方がいいと思うんだ、ほら、君、血気余ってるし、ちょうどよくない?」
「五分もんなことしてたならその分私を手伝えこの冷血が!」
物理的な迫力さえ感じる怒気は、遠い銃声と遠のく笑声にまぎれた。
紫音と玲人。お仕事中。考えないでにげられた方がまだマシだと思う。
33. 褪せることのない、
「出逢ったことからずっと好きなのに」
「なのに、振り向かない、と」
「…違うよ」
揶揄するような風矢に、ベムは小さく首をふって、少しだけ目を伏せる。
「…まだ、好きになる」
「…いや、今君正坐させられて説教されてましたよね…!?」
褪せること無き思いは今日も暴走中のようです。
34. 塗り固めた偽善
「そのうち伸びるって、身長!」
だってほら龍にはそういう人いっぱいいるし!
笑いながら言う主人に、少女はじっとりと目を細める。
「ねえ、マスター、こっち見て言ってね? そういうことは」
磨智の身長は………まあたぶん伸びないと思うんだ。それこそ臨終間際じゃないと。
35. 川のせせらぎ、風の囁き
川辺に足を浸して、頬を撫ぜる風に心地よさげに目を細める。
「ずっとここにいたいなあ…」
「お前が言うとシャレにならねえ…」
この方向音痴、と毒づいて、光龍は小さく息をついた。
道に迷ったかなたとメーと。
36. 約束の行方
ずっと一緒にいようねと誓った。
その言葉を違えるつもりはないし、違えさせる気もない。
けれど、不安にはなる。日々の中に漂って、消えてしまうのではないかと。
「だから、ね」
目をつむって口づけをねだる恋人に、メーは顔を真っ赤にして唸った。
このくらいは進みましたよあんまり書かないけどねと言う話。
目の前の二人の関係は歪に見える。すぐにでも離れてしまいそうに見える。
交わらない点を無理に結んで、そうして恋人なんて言って。
「…あんたそれがほどけた時どうするつもりなんだろうな」
なあ、兄貴。
小さく呟く声に、少し前方を歩く2人は気付かない。
46. 細い手首〜の二人を別視点で。実は彼には弟がいます。兄ラブじゃない方面のブラコンの。ちょうちょ結びいったらこの二人しか浮かばなかった…
38. 膝を抱えて部屋の隅
帰宅と同時に発見した、部屋の隅でなにやら暗雲を背負う少年に、かなたは顔をしかめる。
そして、彼を気にすることなく雑誌をめくる少女へと囁いた。
「ちょっと、あれどうにかしようよ…」
「でも、怒鳴った時、放っておけ!って言ってたしねえ。私は緋那に味方したいな」
「…今度はなにしたの?」
「うん、相合傘を書いてたんだって」
「…そのくらいいいじゃない」
「町の掲示板は嫌だったんじゃないかな。昨日出してきた原稿の隅にあったみたいだよ?」
あっさりと言って、マグカップを口元へ運ぶ磨智は、主人に意味ありげに見あげる。
視線の先で、彼女は顔を強張らせた。
「ちょ、それ私も怒られる! 気付かなかった私も怒られるー!」
「今夜はたぶんポテトサラダが大盛りだねv」
「嫌ぁあっ!? なんで楽しげなの君は!」
「人の不幸はなんとやらだね」
歌うように告げるその唇は、カップに隠されながら楽しげな笑みの形に歪んでいた。
この言葉を見た時ベムしか出てこなかったことに乾杯★
39. あなたはやさしい
「貸せ」
言うなり、荷物を取り上げられた。重いそれがなくなって体は確かに軽くなる。けれど、どこかが重くなる。
照れたような顔でそう言ってくる彼のその行為は、優しさから来るのだと知っている。
狂気のように凶器のようにそれは心を抉るけど。
あなたはきっと易しくて優しい。
だから、ありがとうの一言を言うことはできなかった。
磨智とメー。付き合う前。一緒にお買いもの編。
40. 陽射しの微笑み
「いつまで同居人なの、あの子は」
「…あいつが出てくまでだよ」
諭すような明乃に、そっぽを向いて答えた。
彼女はすぅと目を細める。そして、痛みを覚えたかのように米神をもむ。
「…あとで泣きつかないでね」
「泣きつくわきゃねえだろ…?」
いや、感動で泣くかもしれないけどさ、と小さく呟いて、微笑む。
「…あいつが笑ってればそれでいいよ」
眩しくて眩しくて見ていると目がつぶれそうだ、彼は言って笑った。
「…だからあんたは盲目なわけね」
惚気にしか聞こえないのにただの同居人なんてとんだ笑い話だわ。
明乃とライド。彼が同居人に手を出さない理由。(最終的には出さなかった、だけど)
41. 憧れて尊敬して崇拝して
町を歩くとき、一定の身長以上の女性を見ると磨智がほぅ…と溜息をつくことに気づいたのは最近。
気になって訊ねてみれば、やや口ごもりながら答えた。
「ああなれたらいいなあ、って思ってる…」
「………えー?」
俺は今のお前がいいなあ、とは照れくさくていえなかった。
せくしーなのきゅーとなのどっちが好きなのー言われたら迷わずキュートが好きなメー。セクシーになりたい磨智。
42. 正反対が同席
笑っている顔を見るのが嬉しくて、笑っていて欲しいと思う。笑わせられたら、とそう思う。
けれど、僅かに気落ちした様で、こちらを見る瞳に、なぜか胸が高鳴る。僅かに潤んだ眼尻に色々とそそられる。
「…僕は…人でなしです…!」
「いや君龍だけどね」
しゅんと肩を落とす風矢に、ベムは気のない調子で答えた。
Sっ気あるんだよね、風矢。振り回されるのも悪くない思ってるけど。
43. 彼は其れを愛だと云う
期待に満ちた笑顔を浮かべた恋人から共に渡された包みを手に、女はひたすら眉を寄せる。そのままくっついてしまいそうなほど、強く。
「いくつか聞きたいことはあるけど、まず一つ…なんでサイズぴったりなんですか!」
「投げないでよー。それ布の面積の割に高いんだよ? ちなみにサイズは下着みれば普通に分かることじゃない」
「……いつのまに……」
「脱がせてる時見た」
「……っの、変態」
「えー。他にいつ見ろって言うわけ? 君は俺にタンスとか漁ってほしいの?」
「そう言う問題じゃありません、そんなものいちいち覚えてる神経が気持ち悪いんです」
「恋人のこと全部知っておきたいのは愛じゃないかな…それに、覚えないでどうやってこういうの買うのさ。なにも見ないで分かったらそれも怖いだろ? 変態だろ」
「そもそもそんな下着同然のもの送りつけて着ろと言ってくる時点で変態ですよ!」
ただの変態とののしっても罪はないだろうけど。遥霞と智華。着て欲しい言うより怒られるのが楽しいんだろうなあ、この人。
44. 君に、預ける
「あたしはこれから変わっていくかしら」
赤い髪の少女は月を見ながら静かに呟く。
唐突なそれに驚くことなく、傍らの少女は答えた。
「…できれば落ち着いて欲しい」
「それはないわね」
「…そうか」
残念そうに、けれどどこか諦めをにじませた親友に、少女はくすくす笑う。そして、声音を真剣なものへと改めた。
「ねえ、これから色々なことがあれば、きっとあたしは変わっていくわ。だから、あなたが覚えていて」
「…変なことを頼むんだな」
不思議そうな顔で頷く少女に、赤い髪をした少女は安堵したように立ち上がり、彼女の背後に回り込んでから腰をおろした。
とん、と背と背が触れあう。
「…寄りすぎだ。重い」
「ええ。重いでしょうよ。でもあたしはこれからあなたに思いっきりもたれていくわよ」
「…そうか」
答えながら、お返しとばかりにぐいと押し返す。僅かに背中が揺れた。笑ったのだろう。
背中合わせの二人には、互いの表情など表情はうかがえない。
そのことに不満も不安も感じることなく、二人は月を見上げた。
紫音と聖那。預けたのは互いの背中。
45. 直球勝負が恐いだなんて
その声で名を呼ばれる度に狼狽していたことがある。今は、少し慣れたけど。今は、それだけだ。臆病だと知っているけど。緋那はちょっとベムが怖いんだよという話。
46. 細い手首にあかい痕
仕事のついでに彼女の家に訪ねてみれば、いらっしゃいという声と共に、玄関を開ける手と、袖から覗いたあかい痕が見えた。
「…腕、なにか、したのか?」
「客にからまれた」
あの店はガラが悪いわ、と珍しく愚痴じみたことをこぼすその姿に、災難だったなと頷いた。驚くくらい、あっさりと。
気持ちを悟られぬための演技ではない。漏れたのは安堵の吐息。惚れた女へ他の男に触れたことに対する嫉妬など微塵もわかなかった。
それはその肌の下に血のめぐりがある証拠なのだから。
前から書きたい書きたい言ってる短編にある2人。…名前は決まってるんだけどね。
47. 昔日の悲劇
組まないか、と言われて頷いた。
今にも雨の降り出しそうな空の下、微笑む彼に怖気が走ったのに、気づいたら。
「…なんであの時俺は全力で逃げなかったのか…いっそあいつの息の根を止めておかなかったのか…いや、そこまでしなくても、そこまでしなくても、もっと考えりゃよかったんだよ…あいつの性格分かるまで保留にするとかよぉ…!」
カウンター席から響く湿ったその声に、若き飲食店店主は沈鬱な顔をする。
「あんたの上司がアレなのは分かったから、場所変えてくれねえ?」
他の客が引く、と切実な感情をこめてそう告げる声は、グラスを乱暴に叩きつける音にかき消される。
「追加」
呻くような注文に、ライドは諦めたように頷いた。
ライドと竜臣。彼の人生最大の悲劇なのかも知れませんアレに会ったことは。
48. 誰に尋ねておいでですか
朱い髪の少年の差し出した花束は、今日も受け取られるままにさ迷う。
頬杖をついて彼を眺めながら、少女は小さく溜息をつく。
「…恋愛って難しいね。なんでだろね、メー」
「なんで俺に言うんだ…」
知るかそんなこと、と呟く愛龍に、かなたは小さく笑った。
わりと昔の126番地。今聞いても分からないだろうけどね!
49. 限りなく人に似ている
「…けど人じゃねえんだなあ、とこう言う時思うよ」
「お前…そう言うこといってる暇あんなら助けろ…!」
地底から這い出し息をきらす愛龍に、かなたは小さく首をふった。
「大丈夫だって、君なら☆」
「いらねえ信頼だなそれ!」
埋められたメーと見てるだけのかなた。
50. 全てが始まった日の話
銀色の体は狭い部屋の中で奇妙に輝いて見えた。
とかげっぽいなあ、と少女は思う。けれど、それを口には出さない。
代わりに、くすくすと笑声が漏れた。
すると、彼は不思議そうな声で言った。
「…なににやけてんの」
「いや。なんか暖かくて」
今日からよろしくね。
精一杯の笑顔を浮かべてそう言えば、一瞬間が空く。不安な沈黙だ。
けれど彼は、ああ、と頷いてくれた。その表情はよく分からない。異種族交流は難しい。
けれど、笑っていたらいいな、とそう感じた。
かなたとメー。はじめましてと彼女は笑った。