01. 僕を動かせるもの
「手伝うのはかまわねえけどさ」
金、とライドは端的に呟く。
目の前の元上司はそれはそれは綺麗な笑顔で首をふる。
「そんなものあったらお前に頼まない」
「…おれに頼む時も用意して欲しい」
「用意したじゃないか、お前が飲食店やりたいとか言い出した時に」
だから、手伝ってくれるよな。
あくまで綺麗な彼の笑顔が、珍しいものだと、ライドは知っている。
彼は追い詰められれば追い詰められるほどよく笑う人間だということも。
はぁ、と息をつくライド。
無言の承諾に、武行は小さく拳を握った。
武行とライド。僕を動かせるものそれはことの成行きですという話。
02. 虹色の眸
「…虹色の眸ってさあ。七色なのかな。それとも色が変わるのかな」
本を眺めつつ突然意味の分からぬことを言い始めた主人に、光龍は不思議そうに首をかしげた。
かなたとメー。いや本当どういう色だ。
03. 終わりの夜明け
壁はヤニで黄ばんで、床には衣服が散乱し、うすぎたいないその部屋は据えた香りがした。
体を預けるベッドだってきしんで、シーツは汗で汚れて、こんなところで寝ていたら治る傷も治らないのではと疑いたい。
けれど、ひび割れた窓から見た紫煙にまぎれた朝日はとほうもなく眩しかった。
喋ってないけど慶(と真)人形はお終い、慶の夜が開けた日。
04. 立入禁止テープ切断
「昔のあなたは本当に無愛想だったわよねー」
頬杖をつきながら、今もだけど、と呟く聖那に、紫音は僅かに鼻を鳴らす。
「…お前は昔から騒がしかったな」
「あなたには特に騒がしくしてたのよ?
こう、ツンツンと私に構うな、みたいな顔してると、ちょっかい出したくなるじゃない?」
「…悪趣味な奴だな、お前」
立ち入り禁止はもう通用しないのだから。
聖那と紫音。彼女が彼女にかまう理由。
05. 頬擦りしたくなるような
それは、いつもと同じような口論で。
なんの下心もなかったんだ、と後の彼は語る。
「んだとお前もういっぺん言ってみろ」
言いながら、口論の相手の頬をつねる。
つねるといっても、深刻な痛みを与えないように、程度に気をつけつつ。
すると、むにょん、と伸びる頬が指を押し返す。
軽くひっぱると素直に伸びる薄い頬。
その感覚は、非常にやわらかく、弾力があり―――
「………」
一瞬浮かんだ言葉に、青年はぶんぶんと頭をふる。
急に狼狽を始めた同居人に、少女は頬をひっぱられながらも不思議そうな顔をした。
ライドとセレナ。本当にやったらロリコンだと思う。っていうかやらなくても思考犯?
06. 今も欠片を探してる
確かに手の中にあったはずの欠片は落としてしまったのだと、そう思う。
それとも、落としたのは欠片ではなかったのかもしれない。完成したなにかを落として、そうして粉々になったそれを拾い集めているのか。
探すソレの名前を忘れてしまうくらい、探し続けているのか。
分からぬまま抱き締めて囁く。俺の壊したモノ。俺の壊した人。その顔を覗かずに済むように、強く。離れずにいられるように、近く。
「…愛してるよ」
君を、ずっと。昔から。
遥霞(と智華)たぶん彼が探してるのは愛情ではなく幸福の欠片。
07. 空を喰う雲
曇りの日は頭が痛む。こめかみから全身にかけて、ずきずきと脈打つ痛みが広がる。
舌うちして空を見上げる。
重々しく広がる灰色の雲が、牙を誇示する性悪な化け物に見えた。
まあたぶんかなた。…っていうか実体験? 曇りだと気持ち悪いじゃないですか!
08. 恋の名を騙った執着心
知りたいと思うこと。傍にいたいと思うこと。触れたいと思うこと。
これが執着以外のなんだというのか。
自己を変えるほどのそれなど知る気はなかったというのに、なぜこれはこんなにも甘い。
ぐっと拳を握る。感じるのは爪が食いこむ痛みと、熱。つい先ほど触れ合った彼女の手はひんやりとしていたのに、離れた今、この手はどこまでも熱かった。
かぜこま。執着心と恋が紙一重でもいいじゃない。
09. 青と白しかない
なにもないよ、とかなたは呟いた。ぐったり感を声にまで滲ませて。
その言葉に、メーは顔を引くつかせる。
「いや、でも俺、肉とか食いたいんだけど」
「蘇生したてのマスターに老体にムチうって歩きまわってなにか探して来いって言うんだ…?」
「老体?どこが」
「精神年齢83歳って判定されたことがあるの」
「ばばくせえ…」
「うるせえ従者だね!」
空と雲だけがその騒動を見つめる。
彼らが住居へ帰りつけるのは、青が黒へと変わってからだった。
仲良し主従IN2人だけだった頃。遠くに検索中→死神にでも遭遇→ふらふらで帰宅。だと思われます。
10. 近くの体温
どうにかなりそうなくらいに幸福なのに、なぜか逃げ出したくなる。
「…どーにかなってるから逃げてえとか?」くっついた後のメマチ。もうどうにでもなれお前は。
11. 絶対、を飛び越えた
「絶対を飛び越したらそれは運命なのでしょうね」
歌うように彼女は言う。
楽しそうに、愉しそうに。けれど目は陰鬱で。それがとても悲しかった。
「…似合わない言葉だよ、姉さんには」
「なんで似合わないのかしら。運命に関わってない人などいないでしょう?
生きていれば、死ぬ。始まれば、終わる。それから逃れられるものはいないでしょう?」
そうだね、と僕は頷く。それじゃないだろ、とは言わない。君が囚われたのは、囚われたつもりなのは全く別の運命だとは、決して。
雅夜と雅輝。無駄にシリアスかつ意味深。…そのうち長いの書きたいんだけどなあ。
12. 幸せを願えるシアワセ
「武はどんな時に幸せって思う?」
「…なんだ、いきなり」
「いっつも面白くなさそーな顔してるから」
「人のこと言えるのか、お前」
「言えないかもだけど。だからこそ?」
「そりゃあ…」
浮かんだ言葉を慌てて打ち消す。そして、代わりに笑みを刷いた。
「そりゃ、甘いもん食ってる時とかだなぁ」
「寂しい幸せだねえ」
ああそうだな、と頷くことはしない。
お前らが無事でいてくれれば、とそう祈れれば、俺は何より。
そう告げることは、躊躇われたから。
武行とりお。本編よりちょっと昔。幸せを願えるシアワセはたぶん失くしてしまったんだ。
13. 錠前に斧
近づくなと言っても毎日付きまとわれた。
うるさいといっても少しも黙らなかった。
「…無視、しきれなくなった…」
言いかえすようになって、少し避けるようになって。
それは、なにかを壊される感覚に似てた。
ベムヒナ。心の鍵を強引にぶっ壊されましたという話。
14. 夜更かしの理由は君にある
鏡に写り込んだ目元のクマに舌打ちをする。…可愛くない。
でも、寝れなかったのだから仕方ない。どうにか隠すことを考えよう。
あれには気づかれぬように。
胸の内で呟いた瞬間、指先には必要以上の力が籠った。
夜更かしっていうか眠れない理由になっちゃったメ←マチ
15. 最初から数え直し
リビングを歩くかなたは衝撃的なものを目にした。
無意識のうちに手を伸ばす、と、それはばらばらと崩れてしまった。
バツの悪い顔をする彼女に、やや憮然とした声がかかる。
「なにするの、かなた」
「いや、それこっちのセリフでしょ? なにしてるの、君は」
「ポッキーゲーム」
「ポッ…!? ポッキーゲームはポッキー積み上げるもんじゃないよ!?」
「100本積み上げれば成功と訊いたのだけど」
「積み上げる気だったの!?」
「ほめてくれるかな、と思って」
「ほめてくれるかもだけど!」
見た目悲しいからやめようよ…
肩を落とす主人に、炎龍は首をかしげ、ちらばったポッキーを拾い上げる。
やり直すらしい彼に、彼女は今度こそ深く息をついた。
100本積み上げたらと言ったのはいわずもがな磨智です。
16. 衝動的抱擁
その衝動は唐突にやってきて、とてもとても制御できるものではない。
例えば空気に吐き出された息が白く染まる瞬間とか、そんな時に。
「風矢さん?」
「…その、なんか、…寒かったので」
ぎゅうと抱きしめる。ひんやりと冷たいであろう頬が目に見えて熱を帯びていく様が、とても愉快だと思った。
かぜこましか浮かばなかったこれ。風矢はわりかし本能に忠実(つきあった後は)
17. 常に本音のぶつけ合い
「失せろ」
「顔見たくないなら君がどっかにいけばいいじゃないか」
至って真摯な顔で言われた唐突な言葉に、青年もまた真摯な表情で言いかえす。
「…少し、本音を包めばまるで仲良しのようだよね」
「少しじゃ足りないと思うわよ?」
頬杖をついて呟く少女に、傍らの女がにっこりと笑った。
紫音と玲人。少しは本音で話さなかったらもしかして仲良くなれる…かもと考えてすぐに無理だと思いました まる
18. 次会うときが最後だね
次に会う時が最後かもしれない。その事実は、思いのほか胸を打つ。当たり前のようにあったそれを失う感覚は、すぅすぅと胸を冷たくする。
「ああそろそろなくなってしまう…」
「紅茶ごときに涙ぐむなよ、お前…」
肩を落とす主人に、光龍は呆れたように言った。
こういうものが切れた時の切なさ異常。
19. 微睡に溶ける子守唄
「聞いてるか、お前」
おう、と答えられていた。と思う。けれど視界がぐらんと歪んだ。
窓から差し込む日の光に、うとうととまどろみが迫る。
かくん、と落ちそうになる首に活を入れて、その顔を見ようとする。
けれどその口から紡がれる小難しい言葉は、彼を現にとどめる役には立たなかった。
慶と竜臣。たぶん仕事のお話中。…昔は慶だってしゃんとしてたんだよ。今はでろでろだけど。
20. 二度は言わない
「そこ、床緩んでて危ないよ―――ってもう無駄みたいだけど」
「そういうことは何度でも言え、君は」
苛立ちを隠さぬ口調で言う同僚に、少女は僅かに首をふる。
「面倒。」
足を床から引きぬく彼の額に、僅かに青筋が立った。
りおと紅也。りおの私室はぼろっちいのです。色々彼女が重いもの置いた所為で。
21. 裏切り者の王子様
「はい、あがり」
「「裏切り者!」」
「…人聞きの悪い」
「だってお前ばっか何度目だよ!」
「こういうゲームで強いなんてロクな性格じゃないですよ! この鉄面皮!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ2人に、彼は小さく肩をすくめた。
皆でポーカー。たぶんベムはこういうのすごく強い。
22. 答える代わりに、笑って
なんで置いてくれるんですか、と訊いて見た。
心配だからだろ、と頭を撫でてみたら、ますます不満げな顔をされた。小さく唇を尖らせるその様が、やっぱり子供っぽいことを、彼女は気付いてはいない。
「……私、あなたに心配されるほど駄目じゃないです」
「てめえが一人前だと思ってるうちは半人前だよ」
軽く言うと、しゅん、と肩が落ちる。…本当に残念そうに。
「…だから、いつか頼られるくらいになれよ」
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜる。それまで待っていてやるから、と。小さく呟いた声に、その唇はほころんだ。
答える代りに、笑って。それだけで僕は救われる。
23. 不器用な人間の精一杯
主人の手から作り出された陶器の人形に、五対の瞳が注がれる。
「…犬?」
「いや、架空の生物だろ?」
「つちのこ的な?」
「猫だね、ほら、ひげっぽいものがあるじゃない」
「何言ってるんですか、狸に決まってるでしょう」
「兎だよ畜生ー!」
涙ぐんだ彼女は、叫びと共に謎の置物Xを床に叩きつけた。
シリアスできそうだったけど遊んでみた。なんかすっきり★
24. 冬の朝の寝室
「出たくない」
布団の中から聞こえるくぐもった声に、緋那は大きく溜息をつく。
「…今日の朝食はコーンスープだ」
う、と心動かされたらしい呻きが漏れる。
「お茶もいれてる」
うーうーうー。
嫌そうに呻く彼女が蒲団から這い出してきたのは、この五分後のことだった。
緋那とかなた。駄目主人とおかん。
25. 裸足で進む、ゆっくり
砂浜を歩きながら、ゆっくりと海へ足を浸す。寄せては返す波に、沈み込むような砂に、少女はくすぐったそうに笑う。
白いスカートをつまんだまま、楽しそうに歩いていく。
傍らを歩く青年は、穏やかな顔をして僅かに目を細めた。陽の光で輝く波を眩しそうに見つめる。
くるりと少女が振り向く。その顔に、彼はさらに目を細める。眩しげに。
「海、始めてきました」
「そうか」
「ずっと見てたけど、始めてきました」
言うだけ言って、少女はまた歩きはじめる。ゆっくりと、踏みしめる。
青年もまた小さく苦笑して足を動かす。
彼女に合わせてゆっくりと。
そうして歩いていけばいいよ、お前は。
静かな呟きは、さざなみの音にまぎれた。
ライセレ。今の情景のような、この二人の在り方のような。