百年待っていてください。
 百年、私の墓の傍に坐っていて待っていてください。きっと逢いに来ますから。
 ―――それは、ある物語の一遍。
 ああ、あの物語は、どう終わったのだろう。
 分からないことが、ひどく歯がゆかった。

祈り

 あるところに、ひとりの少年がいた。
 少年は、来る日も来る日も空を見上げる。
 そこへいってしまった誰かを惜しむかのように。そこにいる誰かを思うように。
 少年は、そこを見つめ続ける。
 あまりに熱心に、まるで思いつめたようにそれを見つめるから、ある人が問いかけたことがある。
 一体、なにをそんなに見ているのだ、と。
 問われた少年は、ふわと笑った。
 僕は、待っているのです、と。

 百年、祈ったのですよ。
 どうか、彼女へ会えますように。
 どうか彼女と、同じ身体で、会えますように、と。
 僕は、元は人形だったのです。
 けれど、僕の焦がれた彼女は、人間で。
 陶器の指は彼女に届かず、喉からは彼女に聞こえる声が紡げない。
 彼女の一族に代々愛され、魂が宿った。
 けれど、それだけなのです。僕はその時、声なき人形。意思があっても、伝える術がなかったです。
 涙さえ流せぬまま、悲嘆にくれる日々でした。
 けれど、そんな日々に、光明が差したのです。あの時僕へ聞こえたのは、何の声だったのか分からない。けれど、その声は、間違ってなかったのですから。神様だったのかもしれませんね?
 その声は、言いました。
 百年、祈ればいい、と。
 百年祈れば、その願いを叶えましょう、と。

 だから、百年祈りました。
 僕は、彼女へ想いを伝えたかった。
 その一心で、祈りました。
 そして、百年後、願いは、半分だけ叶いました。
 人間に、なれました。
 けれど、百年かかりましたから。百年、たってしまいましたから。
 彼女は、死んでしまっていました。
 触れたいと願った肢体は、冷たい土の下で眠っておりました。
 どうすれば、良いのでしょう。
 なんのために、祈ったのでしょう。
 目的を失っても、僕は人のままでした。
 彼女と同じように眠ることすら許されず、今、何年目でしょう。まだ、あまり時間は立っていない気でいるのですが。分かりませんね。
 僕は百年前と同じ人形なのかもしれませんね。そうして、あの綺麗に整えられた棚の上たたずみ、今、少し夢を見ているだけかもしれない。
 それでも、今思えば、それでもいいと思うのですよ。
 今までが夢なら、起きれば彼女がいるはずですから。
 彼女がいてくれるなら、それでもいいのですよ。
 想いを伝えられなくとも、いてくれるのなら。せめて、見つめていられるなら。それだけで、良かったんですよ。
 ああ…失ってから、初めて、そう思うことができました。
 そう、思っているのは、失ったからです。
 ねぇあなた。僕はいつまでこの想いを抱えていればいいのでしょうね?
 百をもうひとつ重ねれば、僕にも迎えは来るのでしょうか。今度こそ、彼女と同じものになれるでしょうか。
 ねえ…どうか。
 今度こそ。

 問われた人は、困ったように首を傾げた。
 滑稽な話を信じる気が起きたわけではなく、ただ困ったように首を傾げて、微笑む。
 その笑みに、少年は諦めたような顔をした。

 冒頭は夏目漱石先生の夢十夜。…一夜しかよく覚えてないなぁ、という人はきっと他にもいる。
2010/03/30