自室のはき掃除を終えて、窓から外をのぞく。
 先日まではよく晴れていたというのに、いまいち芳しくない天気だ。
 雨の降る直前と言うか、いつ振るか分からないというか…
 だから、なのだろうか。
 居間のソファーに腰掛けながら、磨智は一冊の本を開いていた。
「ねえねえ緋那、心理テストやろうよ!」

たかが占い? されど占い?

 特に断る理由がないので試してみると、結果は…なんというか、散々だった。
「…納得いかない」
「…その場の雰囲気優先な辺りとか当たってると思うけど」
 同じように磨智に誘われたかなたがぼそりとつっこむ。
「それはまあ反論しない。恋人の記述は存在しないので真実かどうかは分からない―――だが!」
 私は診断結果のページをじろりと睨む。
 そこにある文字は―――

あなたは弱い奴に強いエム
普段のあなたは若干ストレスをためつつもエムでいます。
あなたの周りには我が強い人が多く、あなたがこだわりを出すチャンスが少ないでしょう。
あなたが自分の主張なり意見なりしたとしても、あっさり却下される雰囲気のため
出さないほうが円満にいって楽チン。
自分よりもその場の雰囲気優先のやさしいのがあなたです。
そんなあなたにまわりはみんな、話をしやすい安心な存在と思っているでしょう。
しかしあなたは本質エス。
「こうするのが当然だろう」とか「こっちがいい」とか
思っているのに、思っているのに、思っているのに、、、いえません。
心の中では突っ込みキャラなのに、いじられキャラを通さなきゃいけない立場。

でもただ「便利な存在」なだけで終わらないのがあなた。
ちゃんと我の強い人に関わるメリットをわきまえているのでしょう。
自分が言えないクレームやためてしまう文句を、
周りの我の強い人は率先して言ってくれたり
困ったときは世話を焼いたりしてくれる強い味方だということを、あなたは知っているのです。
自分の中で小さく収まる楽しみ方をちゃんと知ってるあなたは
マイルやポイント集めが上手なんじゃないですか?

そんなあなたも恋人には我を見せられます。
自分のペースを崩す相手は好きにならない、あなたは間違いなくセクシャルエス。
自分のわがままに付き合ってくれる相手が本質的には好きなはず♪

あなたは相手がへりくだるほど高飛車になってしまうタイプです。
ちょっと未来を想像してみてください。
エスカレートすると奴隷と女王のセクシャルエスエムに発展しかねない要素です。

 ―――これが文句を言わずにおれようか。いや、できない。そんなことは、決して。
「かなたと診断結果一緒とかなんか違うだろ!」
「…それは確かに私も思うけどさ」
「…君ら、私のこと、そんなに嫌い…?」
「嫌いじゃないけどな! なんかだらしないとかものぐさとか言われた気分だ…」
「いや、これそんな記述は一切ないからね?」
「ともかく納得いかないんだ!」
 腹立ちまぎれに言い切れば、磨智が小さく肩をすくめる。
「まあ、こんなの話半分…ううん、それ以下で聞いていればいいんだよ。
 うん、当たってないあたってない。緋那はこういうの信じないからなおさらあたらなーい。言いたいツッコミはちゃんと言ってるしね」
「…お前は、そう言う風に思っててよくこんなことするな…」
「たまに当たるから面白いんじゃん。それにほら、隠れた一面が見えてくるかも?」
「こんなよく分からない要素は隠してないからな、私は!」
 再び怒鳴ると、静かな声が響いた。
 向かい合っている磨智からではなく、背後の扉の方から。
「けど僕は貴女なら女王様タイプな高飛車になっても好き」
「…どこから出てきた」
 首だけで振り返れば、ベムはいつものように淡々と答えた。
「普通に。そこのドアから」
「いつから聞いてた」
「声をかけようとしたら貴女が叫び始めたから遠慮した。盗み聞きしてたみたいに言わないで」
「…別にそんなことを疑ってはいなかったんだが。…やましいことでもあるんじゃないのか?」
「誤解。濡れ衣。冤罪反対」
 思わず一歩引く私、淡々と答えるベム。
 いつも通りと言えばいつも通りのその光景に、磨智がにっこりと笑う。
「ね、せっかくだからベム君もやろ」
「緋那がやったんならする」
「おまえのそういうところ心底気持ち悪い」
「…………ともかく、する」

あなたは見返りを求めるエム
普段のあなたはまわりに流されエムキャラでいます。
あなたの環境は我が強い人が多く、あなたは黙っていても物事が進んでいくでしょう。
あなたのやんわりとした雰囲気を見て、まさかあなたに主張があるとは誰も思いません。
自分は突っ込まれキャラに設定されているんだと認識しているでしょう。
その場の状況を優先するやさしい存在。
そんなあなたにまわりはみんな、優柔不断な危なっかしい存在と思っているでしょう。
しかしあなたは実は本質エス。
「え?それおかしくない?」とか「まじ?ありえね〜〜!」とかひそかに思っているのに
口に出さないエムなキャラ。
心の中では突っ込みしつつ、いじられキャラを貫きます。

でもただ「どこにでも誘えば付き合ってくれるような便利な人」なだけで終わらないのがあなた。
あなたのまわりの環境は
自分が出来ればやりたくないような忘年会幹事や、お店の予約など
困っているとき、率先して世話を焼いたりしてくれる「便利なやつ」なのです。
ちゃんとギブアンドテイクが成り立っているのです。

そんなあなたは恋人にももちろんエム。
相手の要求に出来る限りこたえたくなっちゃう、あなたは問答無用のセクシャルエム。
本質的には自分に横柄な態度をとる相手こそ大好きなはず♪
自分にしかこんな横暴な態度取れないわっ特別感に浸る感じでしょ?

あなたは相手が横柄になるほど夢中になって言うことを聞きたくなっちゃうタイプです。
しかももっと言うとその見返りを求めています。
ほめ言葉だったり、優しい言葉だったり・・。
あ、これはもしや。
奴隷と女王のセクシャルエスエムに足を踏み入れてる感じがしませんか?

 ―――それは、途中までは私やかなたが割り振られたものと違いない。
 けれど、後半が違う。…そ、そうか、エムなのか。じゃあむしろ怒鳴ったりせずに優しく対応すればいいのか。いやしかし、こいつのアレな行動を放っておくのは、お互いのためにならないし…?
 いや、それ以前に、横暴なのか!? こいつに好かれてる私は横暴なのか!?
「…別に貴女は横暴じゃないと思う」
「うん。それより君が気にするべきは見返り求めてる、って部分だと思うよ」
 ベムとかなたがなにやら呟いているが、反応する気になれない。
 なんかショックだ。なにがショックなのか分からないけどショックだ。
「だいじょーぶだって、緋那。私もこれだったけど当たってないよ」
 ぽん、と肩を叩かれ、少し落ち着く。
 …そうだ、あくまで占いだった。ムキになることなんて、ないじゃないか。
 立ち直った私。だが、かなたは話を蒸し返した。
「…いや、結構当たってね? 本質Sな辺り…」
「マスターたら、そんな。私のどこがSかな?」
「今かなたに圧力たっぷりな笑顔向けてなおかつ楽しそうなとこ?」
「ベム君、うるさいよ。…大体なにが嫌って君と同類なところが嫌だよ」
「安心して。僕も願いさげ」
「…お前ら…」
 無駄に喧嘩売るなよ…
 小さく呟いても、そのにらみ合いは終わらない。
 はぁ、と息をつけば、再び扉の開く音が響いた。
「…お前ら、なに盛り上がってるの?」
 心底不思議そうにメーが言う。
 その瞬間、磨智の表情がぱあっと輝いた気がした。
「メー君、来て来て。で、これやってv」
「あ?」
 手招きされて、首を傾げつつもこちらに来るメー。
 …Mというのなら、いっそこちらの方が。
 漏れかけた言葉を、私は慌てて引っ込める。―――が。

あなたはオレルールなエス
普段のあなたはエスっぽくないエスです。
あなたは結構気分しだいで生活しているため人にも流されません。
かといって他の人に要求したり、不満を感じることも少ないヒョウヒョウとしたタイプです。
「自分は自分、人は人」という感じが、マイペースなエスっぽさを感じるくらいで
本質は許容範囲が広く、ツッコミキャラにはれないでしょう。
むしろ若干ボケなんじゃないか?とまわりに思われてしまうマイペースっぷりは
気分しだいの奔放なエスのくせにまわりを和ませます。
思わずツッコミを入れたくなるようなくらいの気まぐれさですが
「受ける〜!それ自己中すぎ〜〜!!」などと突っ込みを入れても
ダメージはまるっきり受けないキャラ。
ツッコミは本人に入れるより第三者を交えての笑いに使われるでしょう。

マイルールで生きているあなたは毎度毎度気分しだいなので
まわりはあなたの行動をなかなか読むことが出来ません。
あなたも当然相手の心理を読むことや駆け引きなどには、まったく疎いタイプです。
いや、むしろ面倒ですよね、あなたには。w

そんな駆け引きをしないあなたも恋人にはもちろんセクシャル面の駆け引きを発揮。
相手の「も〜なにすんの!」という態度に快感を覚える、あなたは当然セクシャルエス。
横柄な態度をとって相手の好意を確認してることもあったりして♪
自分のペースでいさせてくれる相手が大事でしょ?

あなたは相手に自分のペースを受け入れてくれることを第一条件として持っているタイプです。
え、それってある意味生きてる姿勢そのものが「どエス」じゃないですか?
奴隷に対しての女王とかじゃなく、奴隷が皆無でもあなたが紛れもない絶対的キングって感じですね。

 ―――診断は、中々意外な結果を示した。
 なんとなく落ちる沈黙。それを破ったのは、本人の慌てふためいた悲鳴だった。
「…いやいやいやいや、ありえねえー!」
 それを合図に、磨智が笑う。それはそれは楽しそうに、にっこりと。
「…サドなんだ」
「誤解だっ」
「じゃあやっぱりマゾだと」
「なにその押しつけられた二択!? しかもやっぱりって! そんな常日頃疑ってたように言うな!」
 じゃれてる二人は無視して、私とかなたは顔を見合わせる。
「でもこう、項目は当たってるよね…?」
「あぁ…自分の道突き進んでるあたりな…」
「うん、すごく」
 頷きあう私達の言葉に、「俺はサドでもマゾでもねえええ!」という魂の叫びが聞こえたり聞こえなかったりするけど無視する。…言っちゃあ悪いが、どうでもいいことだからな。
 なんて思っていると、案の定というかなんというか、少しだけ不機嫌そうな声が聞こえた。
「うるさいから降りてきてみれば―――なんの騒ぎですか?」
「あ。風矢君、君もやらない?」
「はい?」
 なにをですか? と尋ねる彼も、結局かなたにごり押されて判断を受けることになった。
 そして。

あなたは尽くし疲れたエム
普段のあなたは相手のために出来るだけ役に立ちたい、尽くし型エムです。
あなたは常にまわりや相手の状況をチェックして皆が求めるものを意識しつつ生活しています。
その姿はまるで空いた椀にはつぎつぎそばを足すわんこそばのサーバー。
当然あなたのまわりは必然的にマイペースな人が集まります。
そのマイペースに振り回されることが喜びとして生きているのがこのタイプ。
まわりから「うれしい」とか「ありがとう」とかが喜びなのです。
ちょっとこれは変態的なエムを思い浮かべるほど心底いい人。
動物でたとえると「盲導犬」って感じです。
ただ自分を消しているため相手もエムだとエムの勝負。
「なにたべる?」「どうする?」「あれはどう?あ、もしかして好きじゃないっけ?」など
ランチは食べるよりも決めるほうに時間がかかります。

相手ルールで行動をするため、すべては相手次第。
好みが解りやすい相手のみならず、読みにくい相手も理解しようとします。
裏を読みすぎて裏の裏を書かれていたことなんてあるんじゃないですか?
人のために動くあなたは、まわりから見て予想された行動だったりするんです。

そんなあなたは恋人には豹変。エスっぷりを発揮します。
相手をあしらって、相手がじゃれてきたりするのに喜びを覚える、あなたはなんとセクシャルエス。
相手が無邪気にうれしそうにしてるのを見ると「ばーか」とか言いたくなっちゃいませんか?
実はそれを見てニヤニヤしてるあなたもちょっと「ばーか」に見えますよ。

あなたは猫じゃらしで猫をじゃらす感じが快感と思うタイプです。
え、ちょっとまってください。
そんなSMプレイ、ありませんでしたっけ?

 ―――沈黙が落ちた。なんともいえない、重いんだかかるいんだかよく分からん沈黙。
 言葉にできない違和感と言うかいたたまれさと言うか形容しがたい感覚に、そっと目をそらす私。だが、磨智はにっこりと笑った。
「…ストレス、たまってるんだね?」
「なんですかその慈愛に満ちた目は。こんな時だけ優しくならないでくださいっ!」
「風矢。焦るのは心当たりがある証拠。」
「なんですかベムまで!」
 なにやら揉める3人に構わず、メーとかなたは声をひそめて、
「…よーするにこれ、表裏激しいってことじゃね?」
「まあ、風矢君は外ヅラいいし。当たってるよね…でもさあ…」
 なんかねえ、と呟くかなたは軽く米神をもむような仕草を見せる。「んなに苦労かけてんのかよ…」とか呟いているが、それを気にするならもっとしっかりしてほしい。
「変な意味じゃなく言うけど。風矢君の彼女になる子は大変だね」
 とか思っている間にも、磨智の追及は終わっていないらしい。
 風矢はうんざりとその姿を見つめる。
「占いなんざたいして当たらないでしょう…」
 けれど、その目が不意になにかを思い出すようにさ迷う。
「…特例は除きますが」
 やけに寂しい笑顔でそう言って、続ける。
「ともかく、こんなんで人格否定されても困ります」
 きっぱり言い切るその声に鼓舞されたように一人しゃがみこんで悩む声を上げていたメーはがばりと顔を上げる。
「…っ!そうだ!
 俺はサドじゃない!マゾでもないけど!」
「えー」
「なんで残念そうなんだよ!
 俺にサドくあってほしいのかよ!? お前!」
「んー。どっちだろうね?」
「へ?」
「君になら、なにされてもいいよ―――ってやつ?」
「はぁっ!?」
 声を上げるメーに、しなだれかかるようにぴたりと身を寄せる磨智。ふふ、とわざとらしいまでに甘い声で笑う。
「なにされても、いいよ?」
 繰り返された言葉にメーはここからでも分かるくらい顔を真っ赤にする。
 …なんていうか。
「…逆じゃないか?」
「ああ、逆だよね…」
 なんだかひどく力のない呟きは、いつのまにか降り出した雨音に溶けた。

番外目次