「ねぇ、風矢君」
「はい?」
「これ、どれが可愛いかな?」
彼女のひらいた雑誌―――愛らしい色とりどりの服を着た女の乗ったそれを見て、風矢はふぅと息をつく。そして、呆れを含んだ声で確認する。
「…メーのですか」
「メー君のだよ」
もうすぐ秋だから、新作でも作ろうかなと思ってね。
にっこり笑顔のその言葉に、風矢はそれ以上なにも言わない。突っ込むだけ無駄だ。
代わりに、示された誌面をざっと眺め、答える。
「この辺り、ですかね」
適当に数人を指し示す風矢。磨智はふぅん、と相槌を打って、パラパラとページをめくる。別に彼の意見を参考にしようと思っていたわけではないらしい。
そして、そのさして興味のなさそうな様子のまま、ぼそっと呟く。
「私さぁ」
あくまで軽い、独自のような言葉に風矢はなにも言わない。ただ黙ってグラスの中のいちごミルクを飲み干す。
「てっきり風矢君はロリコンだと思ってたよ」
さらりと告げられた言葉に答えたのは、沈黙。
ぱらぱらと紙をめくる微かな音だけが響く。
風矢はしばしグラスを持ち上げたまま固まり―――我に返り、震える声を絞り出した。
「なんですか、その名誉毀損…!?」
「だって本当のことでしょ?」
「濡れ衣です! なにを根拠に…っ!」
「なにって…」
やれやれ、とでも言いたげに磨智は肩を竦める。
「こーゆの見せると、君は絶対背低くて大人しそーな子選ぶから」
「なっ…」
今の今まで気づいてもなかった上に想像もしていなかったことを指摘され、風矢は言葉を失う。
「けどそうでもなかったよね。小町ちゃん、背ぇ高いし。スタイルいーし。見た目は大人っぽい方だもの」
大人しいというかミステリアスだし、それ通り越してわけわからん子でもあるけどさ。
言って、磨智はきゃらきゃらと笑う。顔を赤くする風矢がおかしくてたまらないとでも言うような彼女に、風矢はまなざしを険しくする。
「…そんなことは偶然です」
「そう主張するのは自由だね」
「貴女の勘違いです」
「そうかもね。なら、ほうっておけばいいんじゃないの?」
―――まあ、それでも私はそう思ってるけど。
言葉にされずとも伝わるその事実に、ぎりと歯を鳴らす風矢。
「大体…っ」
風矢は低く叫ぶ。顔を赤くしたまま。
「ロリコン言うならメーの方が……」
言いかけた言葉は最後まで続かない。ぶつりと途切れる。そして、風矢の顔色も蒼く褪せていた。
「風矢君」
磨智は笑った。
大きな目をにっこりと細め、その奥に凍てつくまでの怒りを湛えて。
「なにを基準にメー君をロリコン言うのかな?」
「いや…その」
「なにを基準に私の彼氏をロリコン言うのかなぁ」
それって私がそんなに幼いってことかな…?
背後に渦巻くなにかを従え、磨智は冷ややかに問う。
風矢はその据わりまくった目から逃れるように目線を泳がせ―――その拍子に、ちらりと胸の辺りを一瞥した。
それは偶然の仕草。けれど、今其の瞬間は、決して見ていけなかったもの。
その証拠に―――居間には、騒音が響いた。
―――その出来事の数時間後。庭には、3つの影があった。
「…それで、今ぐったりしてるの」
ことの顛末を聞いたベムは、淡々と呟く。
「ええ…」
嫌そうな顔で首肯しながら、風矢は三角巾を外す。
今の今まで、彼は居間の掃除に勤しんでいた。
磨智からの砂ブレスをとっさに風で舞上げた所為で砂が散らかりに散らかった部屋の掃除は、ひたすら面倒だった。
それでも―――悪いこと言ったなあ、とは思うので、一人で黙々と箒を動かし雑巾がけをしハタキをかけまくりテーブルクロスを洗ったけれど。
「…で、それは分かったんだけど。
ここにある不自然な土の盛り上がりはなにかな」
「迂闊な馬鹿の墓だそうです」
「今度はなに言ったの、メー」
「…僕が色々言っちゃったフォローをしてくれたそうなんですけどね?」
「フォローにならなかったんだね」
「それはまあ、…メーですから。そのうち這い上がってくるでしょ。慣れたもんだし」
勝手なことを言い合う二人に呼応するかのように、白い手が土から生えてくる。
中々怖い光景だが、二人は気にしなかった。手の主は分かり切っているからだ。
「………がはっ!」
苦しそうな声と共に、土がまき散らされる。
はぁーはぁーはぁーと息も絶え絶えのメーに、風矢はそっとアイスコーヒーを差し出す。…原因として少し気にしていたらしい。
「死ぬかと…思っ……今度こそ……!」
差し出されたコーヒーを一気にあおり、どこまでも苦しげにメー。
「…どこまで埋められてたの」
「知らねえよ…首埋められてからは知らねえよ…」
「…なに言ったんですか、そこまで深く埋められるほど」
「………俺はただ、正直な気持ちを………!」
「それは確実に貴方の発言に非がありますね。気にして損しました」
「うん、そうだね」
「なんで俺が悪い流れ!?」
不服そうな光龍に、風龍と炎龍とは顔を見合わせる。
「日ごろの行いの所為ですね」
「うん、日ごろの行い」
心辺りはあるのか、メーは小さく呻く。
そして、弁解するように、
「ただ俺は全然気にしてねえしむしろ見てないって言っただけなのに…!」
「…むしろ興味がないみたいな言い方だね」
「本当迂闊ですね、貴方…」
呆れたような風矢を、キッと睨むメー。
「うるせえロリコン」
「ロリコンじゃありません」
「前俺に落ち着いた感じのが好みとか言ったのに変なの連れてくるし!」
「ああ――別にうるさくはないんですけどね。ある意味しとやかでもあるんですけどねえ―――仕方ないじゃないですか、それでも僕は彼女が好きですし」
さらりと答えられ、メーは今度こそ言葉に詰まる。
お前らは何でそう簡単に好きだのなんだのとさぁ…!とぼやく彼に、二人は小さく息をつく。
「恥ずかしいこと言ってる選手権とかなら上位狙えそうだけど、君」
「いえ、世の中にはもっと言ってる方もいると思いますよ。こいつは自覚がないから余計にみっともなく見えます」
「みっともな…!?」
「専門用語でいえばヘタレですね」
「そうだね」
「なんの専門用語だ!」
吠えたメーはごほごほとせき込む。その姿に、二対の呆れたようなような目線が注がれた。
「お約束を外さない奴ですね」
「うん」
頷いて、ベムは残っていたグラスの中身を飲み干す。
まだ暑さの残る午後には、心地よい感覚。
それでも、随分と早くなった夕暮れに、そっと迫る秋の気配を感じた気がした。
「…それでも局地的には暑苦しそうだけど」
小さな呟きは、未だせき込むメーの声にかき消された。
あとがき
羽堂さんリクの3馬鹿トリオの話でした。今日も仲良く仲悪いです。
あ、あと朱音さんが風矢の好みを聞かれていたので、取り入れてみました。
タイトルバーは風矢が自分をロリコンだと思ってない理由ですよ?きょにゅーが好き。あと大人しげで小柄な子が好み。顔はそこまで気にしてない。けど小町さん選ぶ辺り面食いではあるわな…
ついでにメーの名誉(?)のために言うと、別にロリコンなわけじゃないですよ。好きな子がああだっただけですよ。まあまごうことなきヘタレだし、変態くさいとこはあるけどね。