「やっと…」
 帰ってきた。
 掠れた声で光龍は呟いた。
 126番地。
 あの日あの場所から、ここが、どんなに、遠かったことか―――
 こみ上げるのは熱い想い。脳裏に浮かぶのは、あの過酷な戦い。
 ―――自分は、アレを思い出すたびに辛い思いをするのかもしれない。ちょっと闇龍が恐くなった気もしなくもないが、同時に少しだけ歩み寄れる気がする。
 そう―――自分は、きっと、ほんの少しだけ強くなった。
 そんな思いを胸に、光龍は感動と疲労でふるふると震える手で、ドアの取っ手を掴む。


「た、ただいま…」
 もっと大きな声を出したかったのに、出てきたのはひどくかすれ、疲れ果てた声。
「あ。おかえり。メー君」
 ―――だってえのに、それに答えたマスターの声はいつものお気楽能天気な声のままだった。
 俺は思わず突っ込む。いつもと違い、力のない声で、
「…や、その、もっと感動とかねぇの? 俺、すごい頑張ってきたのに……」
 ぼそぼそと言う間にぞろぞろと集っているウチの龍ども。
 ……その顔を見て、思い出す。
「つかお前ら俺を見捨てただろう」
 ぎろりと睨んでみると、一同はそれぞれ顔を見合わせる。
 そして、言った。
「マスターが追えっていったけどー。私がいってなにかがどうにかなったの?」
「私にしてもそうだな。最近は身体なまってるし」
「ごめんね、僕、緋那と一緒にいるほうが大事だから」
「背後にくっついてただけだけどね」
「それは言わないで。磨智」
 虚しくなって、俺は無言を貫く少年に目を向ける。
「…風矢。」
 呼びかけると、奴はしれっと笑った。
「私がなぜ君のために動かなきゃいけないんですか?」
「てんめぇっ…」
 ああそうだ、コイツこういう奴だった。最近忘れかけてたけど、こいつは嫌味な奴なんだ。
 くそ、なんでこいつらこんなぼろぼろの俺に鞭打つようなことばかりほざくんだ。
 目の辺りにこみ上げる熱さに思わずうなだれそうになっていると、
「まぁまぁ、いいじゃない。無事に帰ってきてくれたんだから」
「か、かなた…」
 ひさしぶりにマトモなことを言うマスターに、いつもは乏しい忠誠心が奮い立つ。
 ああ、俺、これからもう少し役に立とう……。
「これで、みんなで紅葉狩りにいけるな」
「って、またどっか行くの!?」
「いや、君がいない間に季節は動いたんだよ…秋は紅葉狩りして玉コンニャクを食わなきゃいけないんだ」
 真顔で力説する駄目マスターに理不尽な怒りがふつふつ湧いてくる。なぜだか、不自然なまでに。
「お前ぜってー本命こんにゃくだろ! そんなん言ってるから太るんだ! 馬鹿マスター」
「なっ…コンニャクはダイエット食だぞ!? つーか君は紅葉+コンニャクを否定する気か!それはすなわち私の否定だ!」
「なんだそれお前とコンニャクはどれだけ親密な関係築いてんだ! わけわかんねーこというなよっ!」
「くっ…心配したのになんて口きくのさ、この馬鹿光龍! 私は君が心配であのときのカレーも喉を通らないということはなく美味しく食べてたけど心配だったのにっ!」
「俺の危機に暢気にメシ食ってんじゃねーよっ」
「出されたものを残すなんて失礼なことできるわけないだろうが! 
 それに暢気にしてたわけじゃないっ! らぶオーラの見学とかで忙しかった!」
「なお悪ぃよこのデバカメ女っ!」
「…日常が帰ってきたな」
「ん」
 呟く緋那に、ベムが小さく頷いたのが横目に見えたけど、今は無視する。
 そんなことより、この馬鹿マスターに一言謝らせないと気がすまない。
「でもさ、そもそもマスターが召還石使って強制召還すれば、簡単に帰って来れたんじゃないの?」
 けれど、その一言は中々聞き捨てならなかった。
「なっ…んで、そういう名案すぐ言ってくれなかったの!? 磨智ちゃん?」
「そーだっ! 俺はくたくたのへろへろでピリオドの向こう側に拉致られてたのにっ!!」
「…少し考えれば分かるじゃない。マスターがうろたえすぎなの。」
「う゛…それは確かに私が、悪かった、けどっ」
「…でも、メーにも非がありますね。私達の意思で戻れないわけでもないんですから」
「身体動かすの精一杯でんなことまで考えられなかったんだよッ! あとはもうノリで! 通常の思考とか色々毒されたというか犯されたというか!
 俺、本当大変だったんだぞ!?」
「それはそうでしょうけど。いいじゃないですか、何事も経験です」
「そ。よーするに二人とも馬鹿だったってことで落ち着こうよ」
「うあムカツク括り方」
「俺とこいつを一緒にすんな!」

 ―――なんで俺はこんなところにあんなに帰りたかったのだろう。
 ふ、とそんなことを思った帰宅風景だった。




 あとがき的なもの。
 メーがいじられ役に甘んじる理由は今の状況で満足してしまう向上心のなさなのですが。
 徐々に疑問を持って、成長する日が来るのかもしれません。
 まぁそうするとマスター(かなた)の妙なネタフリには勝てるかもしれないけど、青月のいじられキャラ大好きというゆがんだ愛からは逃れられない思う。