ごふ、と咳き込むと、赤黒い色が散らばる。
数度繰り返すと、苦しさは薄れる。
ぼんやりとしたまま顔を上げる。
復活の書を手に、ほっとしたような顔をした磨智と目があった。
よにん暮らし その3
青い襟がついたシンプルな白のワンピースに、真っ直ぐな長い茶色の髪。
年は大体14か15くらい。背丈が小さい所為で、それより下に見えなくもないけれど、ともかくかわいい女の子。
それが磨智が人として生活するときの基本的なスタイルだ。
「大丈夫? マスター」
「あ。うん。平気。えっと、今回は、なにしたんだっけ」
大きな目に少しだけ不安げな色を浮かべて問う彼女には悪いが、逆に問い返す。
今日は、磨智と探索に来てて。
まだまだ体力的に余裕があるから、もう少し遠くにいくかと踏み出して―――…
あれ? なんでここで記憶が途切れるんだろう。
「死神に会ってね。後ろからばっさり。…あれはさすがに、心臓に悪いね。聞いてたけど」
「ああ…あれかぁ…」
朝町は戦闘以外でも死ぬ。(蘇生対象になるけどね)
酔漢に殴られても体力が尽きれば死ぬ。石に躓いても体力が尽きれば死ぬ。
―――そして、死神。
探索中に現れるそう呼ばれる誰かさんに会った日には、どんな一騎当千の人でも、体力が万全でもイチコロだ。
比喩じゃなく、一撃で死ぬ。
…うむ、運の悪い日だ。今日はもう撤収するべきだろーか。
「…初級の復活の書じゃ、たいして体力戻らないし。もう帰るよ、今日は」
「そうだね。今日はもうアホのように運悪いんだろうし、そうしようよ」
く。自分以外に向けられるアホの言葉にもびくっとするようになったぜ!
…あれ? でも運が悪いのは私だからやっぱり私アホと言われた?
……いや、事実だから、仕方ないかもだけどねえ。
………く。気を紛らわせねば。へこんでしまう。
「でも手ぶらで帰るのもやだし、どっかいくよ!」
「いきなり大声だしてどうしたの? やっぱりどっかまだ調子悪いの?」
「く、心配の目がとっても心地よい! すごく元気!」
「うん、すごく元気だって、今納得した…」
「ひぃ一瞬にして蔑みの目! 磨智ちゃん怖い!」
「ああうん、わかった分った。じゃあ優しく聞くけど、どこいくのー?」
く、まるで大人みたいな対応をされてしまった。
まったくもうこの子は我儘なんだからぁ、みたいな!
…私の地位はどこにいくのだ。
私の地位は、どこまで落ちていくんだろう…
…いうほど落ち込んじゃいないけどな。
「…本屋行こうかな。ちょっとうろつきたい」
気を取り直す意味でそういって、立ち上がる。
すると少しだけくらりとしたのだけれど、すぐになくなる。
……どんどん蘇生慣れしてるなあ、もう。
「ああそう。じゃ。私も付き合うよ。ほしいのあるから」
「え、磨智ちゃんわざわざ買うほど本好きだっけ?」
なんとなく感慨にふけってたけど、すぐにどうでもよくなる。
磨智の、というかうちの龍の手持ちの金は少ない。
私の探索についてきて、彼らがわきで拾ったりしてるものを流す程度だから。
だからたまにいいモノ拾ってるけど、バイトとかいれてるのに比べると、やっぱりねぇ、って感じである。
なのに、わざわざ?
なんて思ったわけだけど、次の瞬間すごく納得する。
「うん、ちょっと。本格的に服作りたくて」
「……………へ、へぇ」
ものすごくいい笑顔に、なぜか笑いかえすことができない。
「マスターにも、かわいいの作ってあげるね!」
「いや私かわいいかっこのは恥ずかしいし、これ脱ぐと町の援助が打ち切られるかもでね…?」
いや、なぜもなにも。
マスターに『も』なんだからだけどね!
人化するようになってから、彼女がしきりにメーをおいかけ、こう、女装させようとしているからだけどね!
すまないメー、正直見てる分には申し訳ないけど面白さが勝ってるから、特に助けようと思えないや! 今のところ逃げ切ってるから良いよね!
「そっか。恥ずかしいのはどうでもいいけど、それは困るね。…じゃあかわいいパジャマを作ってあげるよ」
「…………わあい」
けどまあ、申し訳ないと思っているのも本当なので。
恥ずかしいのはどうでもいい、と思われてるのは私だけじゃないよねー、とか胸を痛めたりして。
…胸を痛めたりするけど、とりあえず今はおざなりに万歳しておく。
彼だってなんだかんだで今のところ逃げ切っているし、彼女も本気じゃあるまい。
「色はピンクにするね! 余っても色々使えるから!」
「え、もうすでに次の色々も計画中!?」
あ、やっぱり本気かも。逃げれないかも。
このきらっきらした目からは逃げられないかも。
今度こそ本気で申し訳なく思いつつ、遠い目なんかしてみる。
メーのぐったりしてる姿が浮かぶのは気のせいだろう、うんきっと、めいびー。