ずしん、と地面に沈む巨体を見ている。
どくんどくんと騒ぐ心臓を押さえて、それをそっとつっつく。剣先で。
動かない。
敵はもう動かない。
「とったどー!」
『喜びすぎじゃね、お前』
ガッツポーズをとってみた。
傍らのメー君につっこまれた。
つっこみつつイノシシかついでくれるメー君は、本当に忠義ものだなあと思った。
さんにん暮らし その8
帰宅後。
メー君がかついできたイノシシをみた緋那は、ふうと一つため息をついた。
『また珍しいことしたんだな』
「だって。おいしいって言うじゃん。これ。だから頑張ったぜ!」
「私はマスターにはもっとこう、周りの整理整頓を頑張ってほしいのだがな」
1ターン:緋那の攻撃!
100のダメージ!
緋那が戦闘に勝利しました!
かなたは100ポイントのダメージを受けました!
緋那はかなたに止めを刺しませんでした。
……はっ。今、まるで戦闘中のようなナレーションが聞こえたけど気のせいだろううんきっと。
『…それに、こういうものは家で解体するものじゃない気がするが。一般常識的に』
「でも森で解体してるとさ。なんかその間にイノシシ目当てのなにかしらが来るフラグがたつ気がして」
『そもそもうちの玄関も庭も既にちょっとアレだろ。かなたがしょっちゅう負けて血だるまになるせいで』
「くそ! 年頃の女子にだるまとはなにか! ころころしてるというのか!」
『お前そんなときだけ年頃の女子になんな!』
『…もういい。わかった。庭でやる。かなた。見に来い。おぼえろ。花嫁修業に』
え、花嫁修業にイノシシ解体は含まれるの? 龍的にはそうなの?
っていうかナチュラルに命令されてるよ。私マスターなのに。
いや、まあ。
私マスターなのに、って。思いつつ従ってるけどねいつも。
…しかし、ねぇ。
「緋那はどうして人と契約したの?」
メーからイノシシ受け取って、庭に出ていく彼女に、ぼんやりと聞いてみる。
『…なんだ、藪から棒に』
「いや気になってたけど、聞きそびれたなと」
前メー君には聞いたのだけどね。なんだっけな。確か、強くなりたかったからとか言ってたな。男の子だなと思った。(偏見)
『……これといって理由はないけど、そうだな』
ざっくりと爪でイノシシ解体していくワイルドなお姿を拝見しながら、続きの言葉を待つ。
そのやり方じゃ私まねできないだろとつっこむのはやめておこううん。
『なんとなく、変えたくなったんだよ。生活を』
要はこれまでに飽きたのだろうと語る彼女は、少しだけ笑ったように見える。
獣くさいというか血なまぐさい庭に似合わない、綺麗な顔。
「そっか」
龍の顔の美醜なんてわからないけど、その顔を綺麗だと思って、なんだかとても安心した。
じゃあきっと変化くらいは与えることができただろうと、すごく、安心して。
「ところでマスターは猪鍋が食べてい見たいです!」
『このクソ暑いのにアホじゃねーのお前』
我儘を言ってみたら、横から切られた。
いつのまにやら私の隣で頬杖ついてるメー君に、特に疑問は感じない。
代わりに、えへんと胸を張ってみる。
「ふふん。イノシシ運んできただけで今お手伝いもしなかったメー君より、私の発言権の方が重いもんね!」
『いやお前もお前で全然手伝わなかっただろう。メーのこと言えない』
淡々と作業を終えててきぱきお片付けに入る手際はやっぱり真似できないなあなんて思いつつ、へらりと笑ってみる。
「でも緋那ちゃんはなんだかんだで我儘聞いてくれるよね」
『そんないい笑顔されても今日鍋はしない。血抜きするし。
ついでに明日は鉄板焼きだ』
『ほらみろ』
『―――よって、色々買ってきてくれ、メーは』
『お前本当かなたに甘いな!?』
『勿論かなたもつけよう』
「え、本格的にうちの主導権が緋那の手に…!?」
『いやなら偉ぶれ、または働け』
「ぐふっ」
きゃいきゃい騒ぎつつ、庭から部屋へと戻っていく。
情けなくもにぎやかな、とりあえずの日常である。