ぱたん。くるくる。ぽてん。
ぱたん。くるくるくるくる。ぽて。
「…なにしてるんですか、君は」
「傘でボールをまわしてる」
「そのまま答えないでくださいよ!」
ある炎龍の情念
自分からきいたくせに、風矢はあきれたように息をつく。
「庭であんまり不審な行動とらないでくださいよ。うちの評判にかかわるでしょう」
「いいじゃない。みられても。一発芸の練習してると思われるだけ」
「…そうかもしれませんね。…で、なんで一発芸の練習してるんですか君は。宴会でもするんですか」
なんか。諦めたような、どーでもよさそうな声で、風矢。
この口ぶりだとわかっているだろうに。暇なんだろうか。
「緋那の好きな人は傘まわしができるひとだと聞いたから。練習」
「…また磨智さんですか。
……本気で緋那さんがそんな愉快なこと求めてると思うんですか」
馬鹿を見る目で問いかけられた。…いや、別にそんな顔されなくても、分かってはいるけれど。
「…やっぱり嘘だと思う?」
「騙される方が悪い、あほうな嘘に聞こえます」
へ、って感じに笑う彼は、そういえば磨智を悪くは言わない。緋那もいわない。男より女性に優しく、って主義なんだろう。どうでもいいけど。
「…まあ、嘘でもいいんだよ」
言いながら、再び傘をまわす。ボールはおちた。ぽてん。…これは中々難しい。
「…嘘でも緋那さんが喜ぶなら、ですか? …喜ばれてないじゃないですか、君」
「そうだね。それと、理由はそれじゃない」
なんだか本気で憐れみの眼差しをむけてくる彼に、思わず溜息。
改めて向き直って傘を下ろす。
そうして、説明する。
「磨智にも人の心はあるでしょう」
「まあ、君とアレ以外にはわりと親切ですよ彼女」
アレというまでメーが嫌いか。君は。
ちらりと浮かんだ言葉は、それでも感慨はない。どうでもいい。
だから、予定通りに続ける。
「なら、いつか。なにか一つくらい緋那の好きなことにかするかと思って」
別に当たり前のことを言ったつもりなんだけど、風矢は変な顔をした。
うわあ、というか。えー、というか。ともかく複雑そうな顔だった。
「…前は綱渡りが出来る男が好きとか吹き込まれてましたよね」
「あれは羽を使いそうになるのを我慢するのがつらかった」
「その前はどっかの国の物語を全部暗唱できる龍が好みだと言われていた」
「ああ、どっかの戦国ものね。壮大な気持ちになった」
「あとは…マジック、テーブルクロス抜き、切り絵、彫刻……
ともかくあほのようにたくさん吹き込まれてましたけど、その中で緋那さんに好評だったのはあったんですか?」
「まあ、全部なかったね」
「なら止めましょうよ。いつまでも彼女を信用するの」
「別にいいよ。そういうこと、無駄になるわけじゃ、ないんだし」
素直な気持ちを言ってみた。
風矢はひきつった笑いをみせた。
「…君、本当前向きですね」
そりゃあ、緋那は後ろ向きな男よりは前向きな男が好きそうだから。
というか、彼女自体前向きだから。そうなるのもしかたない。
それに。
「信じているからね。いつか思いは通じると」
「……そうですか」
「通じなくともずっと好きだし」
「…そうですか…でも、ベム。それはいいですけどストーカーとかにならないでくださいね。関わりたくない」
「失礼」
なにがあってもずっと好き。だけど。緋那の邪魔にしかならないようになったら、身の振り方ぐらいわきまえている。
ずっとずっと好き。だけれども。立ち去るべきだったら。そうするしかない。
「そうならないように今は頑張ってるんだよ」
「…君の努力の方向は、たぶん間違っている。友人としてそう忠告しておきます」
「そう。ありがとう。でも、ほかに分からない」
いいきって、再び傘をひらく。
赤い傘をちらりとみた風矢は、また呆れたように息をついて。微妙に苦笑して、ひらひらと手を振って家へとはいっていく。
またお菓子でも作るのだろうか。僕からしてみれば、そっちの方が物好きだ。
自分が食べるだけのものに手間をかける気にはならない。
自分で食べるからこそ手間をかける彼とは正反対だ。
まあ、そんなことより。
くるり、くるり。
だいぶ傘の上にとどまるようになってきたボールに、僕は少しだけ笑った。
後日。
傘まわしを披露してみたところ、緋那の反応は「……すごいな。意味分からないけど」だった。
困ったような顔をした緋那もかわいい。
けれど笑うと、もっとかわいい。
それを僕に向けてくれないのがさびしいから、また頑張るんだろう。
からまわりでも、バカみたいでも。
うまいやりかたなんて、わからないのだし。