星
アニメのポストカード以外殺風景な部屋で、その贈り物は輝いている。物理的に。
感動のあまり掲げた包装紙は、きらきらと光っている気がする。いや、実際光っている。リボンがきらきらと白い電灯を照り返す。
しかし、神々しく輝いて見えるのは表面に光沢があるからではない。
好きな人が、くれた。チョコレート。2月14日に。
その響きが、この包装紙―――チョコレートを輝かせる。星のように。もう目が潰れそう。きらきらしてる。むしろギラギラしている気すらする。……食べれるだろうか。胸がいっぱいだ。いやでも、食べて感想を伝えたい。美味しかったと伝えたい。
…義理チョコだと、分かっているのだけど。
なにしろ友人と一緒ににもらったのだ。明らかに義理だ。それがなくとも、海心さんだ。もう明らかに義理。いつもお世話になっているからと笑う笑顔はキラキラしてた。
しかし、それがなんだというのか。
友情だとしても、心を込めて選んでくれた品だ。だって海心さんだし。
心のこもった品が、手元にある。それだけでもうなにもいらない。……いや。
いるけどさ、その。こう、恋心のようなものが、本当は。
今日も伝えようとはした。したのだが。他の友人の前でまともに告白する勇気が持てず。随分と遠回しになってしまった。
『ありがとうござます、…大事に食べます』
『いいんですよ? 大事にするほどのものじゃないですから』
『…俺にとっては、大事です!』
『数良君は優しいですね』
確かに遠回しというか、チキンな良いようだったとは思うが。あの輝く笑顔は罪だと思う。
見ていると、心がポカポカする。もう友人どまりでもいいかな!なんて思ってしまう。可愛い。なんでああ可愛いのだろうか。向き合っているだけでいっぱいいっぱいだ。
……いやいや。
いやいや。だからそれじゃあ、ダメだ。
だって。俺はあの人が好きだ。心の奥底から好きだ。
そしてあの人は可愛い。惚れた欲目ではない。客観的に見て、秀でた容姿。客観的に見て、明るく優しい気質。多少天然気味。ラブコメのヒロインかよと言いたいレベル。
…このまま黙って見ていれば、きっと、素敵な男が現れる。
その時、みにくい嫉妬はしたくない。
友人が嫉妬を―――苦しんだりすると、あの人はきっと悲しむから。
だから。この思いが届かぬとしても、その時祝福できる男でありたい。きちんと伝えておかなければいけない。
もっというなら、他の男が現れる日が来ないといい。
…俺と、いてほしい。
以前から好ましい友人だった。けど。
おかしなことに巻き込まれた時、優しく励ましてくれた。その前から、明るく笑う彼女のことが好ましくは会ったけれど。あの日あの瞬間から、もう友人とは見れない。
見ていると顔が熱くて、喋っていると幸せだ。いい匂いもする。
本当に、笑ってしまうくらいに…好きだ。
自然と口元がほころぶような、幸せな気持ちになる。
希望とか、幸福とか、きっとそれは彼女を思っている時の気持ちなのだと思う。
だから、失いたくない。この気持ちを失いたくないのだ。
俺には高嶺の花なのは百も承知。もう高嶺どころか、月だ。星だ。太陽だ。光年ほど離れている。
それでも好きだ。
どうしよもなく好きだ。
ずっとそばに、いさせてほしい。
胸の中で希望と欲望と不安が渦をまく。
そんなのは無理だと思う気持ち。無理でも諦めたくないという気持ち。ぐちゃぐちゃになる胸は物理的に痛くて……その痛みも、捨てたくない。
ドクドクと騒ぐ胸を抑えて、そっと包装紙をむいていく。
きらきらとした紙をはがすと、つやつやとした箱が現れて。それも開けると、可愛らしいイルカのチョコレートが現れた。
可愛い。
これを選んでいる海心さん、可愛い。
一条さんかもしれないが。いやしかし。海心さん、イルカ好きだからな。彼女が選んだのだといいな。
……いや。どっちでもいいか。
一条さんと海心さんの性格を考えるに、和気あいあいと選んだだろうから。最終的に決めたのがどっちにせよ、これは彼女が選んでくれたチョコだ。
覚悟を決めて口元に運ぶ。
かり、と固い感覚が歯に伝わり、ついでじゅんわりと甘いジャムが出てくる。
甘い。おいしい。甘酸っぱいジャムが爽やかだ。
なんというか、男所帯の高専&職場育ちには縁のないオシャレな味だ。
…海心さん達はこういうのが好きなんだろうか。それともバレンタインとはこういうチョコばかり売っているんだろうか。ホワイトディもそうなんだろうか。
ポリポリと、少し残ったチョコをかみ砕く。
ジャムなしで食べると思いのほかほろ苦い感覚が、やっぱりおいしい。なんか、いい匂いがする。カカオ的な。デパートっぽいチョコ、奥深い。…おいしいなあ。本当に。
海心さんだけでなく、一条さんへのお返しもよくよく考えないと。
…いや。いっそこれを好機として誘うべきではないか。「この間のチョコがおいしくて感動したのでお礼がしたい」と。いやしかし。それはホワイトディだ。……この間のチョコがうれしかったから、お礼をしたい。一条さんには別にするし、濱崎さんも抜きだと嬉しい。とか。
いやいや。多分この言い方はまずい。二人と喧嘩したんですかと心配される。そういう心優しい人なんだ。あの人は。
だから、誘いたければちゃんと言わないと。
あなたとどうしても二人で話したいことがあるから、会ってください、と。
…そのくらい言わないと、きっと永遠に気づいてもらえないし。
考えるだけで恥ずかしいし、とても緊張する。
でも、海心さんは本当に優しい人だから。
断りはしないだろう。どうしてですか、と先だって聞いてくる可能性は、あるけれど。
…それだって、うん。好都合な。はずだ。
どんな結果になったとしても、この思いは伝えなきゃいけない。
きちんと伝えて、終わらせたりしないと。…できれば、始まってほしいと思ってる。
あの人と、友人以外のものを始めたいと。心から思っている。
自然と熱くなる身体を動かし、二個目のチョコをつまむ。
綺麗な星型をしたチョコの中には、先ほどとはまた違ったジャムがある。
ふんわりとオレンジの香りがするそれは、思ったよりほろ苦い。そのほろ苦さのせいにして、少し苦く笑った。
星…希望やひらめきの象徴。逆位置ならば失望や高望みを象徴する。希望に手を伸ばし続ける青年。
恋する健全な青年。古市君。海心さんかわいいよ海心さん。彼は彼女に希望を見ているし、彼女にふられたら希望を失うんでしょう。でもどう転んでも幸せです。思うだけで幸せで、一緒にいるとさらに幸せになる恋です。かなわずとも彼女が幸せなら満たされる恋です。
それでも「好きな人と一緒にすごす」という幸せを知った彼は、必死にその幸せに手を伸ばしているよという話。ホワイトディ頑張ってデートに誘うんだろうけど、その気持ちが届くかどうかは、きっとアイディアロールですよね! 海心さん勘づいてはくれるですけどね! アイディアが失敗するんですよね! いつか1足りるといいね!
目次