運命の輪
一度目は、海の中の迷宮。
アレを皮切りにするように、私の日常には非日常が入り込むようになった。
「…最初は楽しかったんだよね」
誰にともなく呟く。
最初は楽しかった。
なにしろ私はオカルト学者だ。オカルトに傾倒するのではなく―――それを人類の叡智を持って「神秘などではない」と説明するための。要は民俗学者だ。オカルト雑誌会社に勤める、民俗学者。
だから、理屈で証明できないことに関わるのが、最初は楽しかった。
自らの持論を揺さぶられて揺らぐなんて、恰好が悪い。揺らいで、その上で『もっと』と思った。
もっと、もっと。この世の果てを。見れる者なら、見てみたい。
けれど―――
ぼんやりと機種変更したスマートフォンを見つめる。
もう使わない―――使えない名前を、ぼんやりと。
前のスマホをあされば、彼からの最後の着信履歴が残っている。
学生時代の友人。何度も世話になった恩義もあった。だから助かるために最善を尽くした―――と思った男。
けれど、結局。
彼を助けることはできなかった。
あれからだろう。
最初は楽しかった非日常が、どうしよもなく苦いのは。
苦くて、嫌。なのに―――…なんで目の前にあると、関わってしまうんだろう。
彼が好きだったものを手の平で転がす
ころり、ころり。とんがった金平糖は不規則に揺れる。
小さくて、ちっぽけで。この世界における人間って、こんな感じなんだろうな。なんて。
それはさすがに、センチメンタルがすぎるかな。
口の中に砂糖の塊を放って、がりっと噛み砕く。
甘い。美味しい。けれど付随する思い出が苦い。
しかし、私、なにかしたかな。
私も彼も。なにかしたかな。おかしなことに魅入られるようなこと。
ううん、そんなものなくても巻き込まれるのが世の常ってやつなのかな?
ガリガリ。ガリリ。
小さな金平糖は、あっとういう間に舌に溶けて、胃に流れる。
ああ、儚いな。
儚くて、やっぱり、人生みたい。
そう思うからこそ、悔いを残したくないと思う。
もう―――いつ死ぬか狂うか分からないからこそ、悔いなんて。
もう、したくない。
ころり、赤い金平糖を新しく口に放り投げる。
丸いはずの棘が、少しだけ口の中に痛かった。
運命の輪…善と悪。そして人外のものに囲まれながら回る者。めぐるましく動く運命。自由意志の象徴。
THE探索者って動きと運命を持つ女。宇野川さん。すげー順当にSAN削れてるって意味でもめっちゃ美味しい。
快活に、好奇心により時に破滅に挑むし。それでハッピーエンドをつかんだりもする。人間性に問題はないけど、非日常に魅入られた人ではあると思う。
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